幸せショート 第1話
幸せショート 第1話
綿菓子あげた
作:三山 冽
キャラクター:かさこ
縁日です。
りこちゃんは、お父さんお母さんとの3人で、
出かけました。
よく晴れています。
お昼を少し過ぎた時間です。
りこちゃんは、左手をお母さん、
右手をお父さんと、つないでいます。
お寺の参道を歩いて、境内に入りました。
人が、あふれるほどいます。
お店も、たくさん並んでいます。
たこ焼き屋。
焼きそば屋。
りんご飴屋。
綿菓子屋。
イカ焼き屋。
うわー、美味しそうだなー
りこちゃんは、涎が出そうになりました。
何が一番いいかなー
右のお店、左のお店と見て、
あら?
男の子に、気がつきました。
りこちゃんと同じ、
5歳ぐらいの男の子 です。
境内の隅の、低い石の枠に、腰かけています。
1人です。
下を向いています。
一面に敷いてある小石を拾っては、
前のほうに投げています。
楽しそうでは、ありません。
お父さんやお母さんと一緒に来たのでは、
ないのでしょうか。
白いTシャツを、着ています。
少し、汚れているようです。
灰色の短パンを、はいています。
それも、汚れた感じです。
素足に、水色のビーチサンダル。
近くの子なんだわ
りこちゃんは、思いました。
その子のお父さんやお母さんは、
お仕事で、おうちにいないのかもしれません。
お友達も、いないのかもしれません。
お友達はみんな、おうちの人と一緒に、
来ているのでしょうか。
◇◇◇ ◇◇◇
「りこちゃんは、何がいいの?」
りんご飴屋の前で、お母さんが訊きました。
「えーとね」
りこちゃんは、ちょっと考えてから、
綿菓子、2つ
と答えました。
「えっ? 2つも?」
お母さんが、目を丸くしました。
「うん」
「食べられる?」
「うん!」
りこちゃんは、大きくうなずきました。
「食べきれなかったら、
お父さんが食べてあげるよ」
と言って、お父さんがお店の人に、
注文しました。
◇◇◇ ◇◇◇
りこちゃんの顔の3倍もある
綿菓子が、2つ、出来上がりました。
「はい、お嬢ちゃん、どーぞー」
おじさん、ありがとう
それを持って、りこちゃんは
男の子のところに行き、
はい
1つを、差し出しました。
あ?
男の子は、びっくりした顔をしています。
あげる
りこちゃんは、手に握らせました。
男の子の手から小石が落ちて、
綿菓子のお箸を持ちました。
あとは何も言わずに、
りこちゃんは走って戻りました。
お父さんとお母さんは、
眩しそうな目で、りこちゃんを見ています。
ありがとー!
後ろで、男の子が言いました。
振り向くのが恥ずかしくて、
りこちゃんは綿菓子を高く突き上げ、
どういたしまして!
と答えました。
おしまい