昔から、口伝えなんてモノは基本的に信用出来ない。

知ってるかい? ほら、ここから見えるだろう? あの塔だよ、あの塔にはね、

知ってる? ほら、あの城っ。何でもあの城にはね……

 やれ、“塔には恐ろしい魔女に閉じ込められた、髪の長いうつくしい娘がいる”とか。
 やれ、“立派な城から人の呼吸が感じられないのは、城が眠りの呪いを掛けられているからだ”とか。

 噂、都市伝説、好奇と興味本位の暇潰し。

 こんな、曖昧な記憶力の人と人を行き交ってぐっちゃぐっちゃに煮込まれた与太に、本当のことなんか大して入っちゃいない。耳を、貸すだけだって無駄だ。

 けれど。

 火の無いところに、煙は立たない。

 真実とやらは、どこかに潜んでいるものだった。

 
“塔に匿われた女はひどく傷付いていているけれど、外に出してくれる切っ掛けを待ってるの”

“城に住まう貴人は、深く沈んでいて、でもいつか自分の目を覚ましてくれる誰かを待ってるの”

 
   【How about the following fairy tale?】

   ⇒next...『塔の娘』

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