俺は〝その時〟を待つ。
力を〝その瞬間〟まで溜めておく。
まだだ……
俺は〝その時〟を待つ。
力を〝その瞬間〟まで溜めておく。
それじゃー今日の授業はここまでー!
きりーっつ、きょーつけ、礼!
学級委員長のキビキビとした声が教室中に響き渡った。
俺も周りの生徒に合わせて小さく礼をする。
ちゃんと復習しておくんだぞー!
その言葉を最後に、教師は教室を出て行った。
授業という名の呪縛から解き放たれた生徒たちが、一気に騒めき始める。
まるで水を得た魚のようだ。
俺はゆっくりと椅子から立ち上がり、教室の後ろ側のドアを開けておく。
〝やらなくてはいけないこと〟を終えた俺は自席に戻ると、既に教科書を詰め込んでおいたカバンを机の上にドサッと置いて小さく椅子に座った。
――いや、厳密に言えば座ってはいないのだ。腰をほんの数ミリ浮かせているのだ。
若干、辛い姿勢になってしまったが仕方ない。
制服のポケットから本を取り出すと、音を立てないようにページをめくり始める。
文字を目で追いながら、ズレた眼鏡をクイっと直した。
うわ、つまんねー。
しかもなんだこのヒロイン。ぶっさいくだな。
ラノベである。
勿論カバー付きである。
数分後、教室の前のドアが開き、担任が顔を覗かせた。
そろそろ終礼の時間ザマース!
上岡教諭(48)である。
絶賛独身熟女だ。
きりーっつ、礼!
またもや学級委員長のキビキビとした声が教室に響き渡った。
あー、そうねー。今日は特に連絡……ないわね。
適当な担任である。
さよなら、しましょうか
いよ、待ってましたァ!
きりーっつ
ゆっくりと立ち上がる。
俺は心の中で時を数え始めた。
――3
きょーつけ
――2
礼!
――1
今だッ!
俺は走り始めた。
開けておいた後ろのドアから外界へと走り出す。
――誰よりも速くッ!