真顔の石川くんと口を開けっぱなしの私の見つめ合い。だけどよく考えたら場を和ませるための嘘かも！！！和むかどうかは別にして。

そんな予想はあっさりと遠くの山へ飛ばされた。

私のそんな言葉に彼は左手の薬指を指差す。

確かに…その先生とやらがいなければいまの石川くんは無かったのかもしれない。いやあったかもしれないけどさ。

そう言った後の彼のキョトンとしたような顔に、なんとなく答えはわかったけどとりあえず待った。


だけど

案の定、石川くんの口からはちんぷんかんぷんな答え。

これは重症だ。
恋をしたこともないのにテクニシャンだなんて


そのうち私達の席にケーキが運ばれてきて、なんとも言えない空気のままこの話は終わってしまった。

色んな人と関係があるのに恋がわからないなんて、切ないと思うのは私だけかな。

しんみりしていたはずなのに石川くんが嬉しそうな顔をしたことで、切ない気持ちはケーキによってかき消される。

頬に手を添えてうっとりしながらそう言うと、彼はクスクス笑っていた。

フォークが止まらない。いやいやダメダメ、早く食べ過ぎたらもったいない。一回落ち着け私の食欲。


そう言い聞かせてフォークを置き石川くんの方を見ると、優雅にコーヒーを飲んでいる。

そして目の前には少しだけ食べられた輝くチーズケーキ

ポツリとそう呟くと彼は

と聞いてくれた。

口を開けると石川くんが少しだけ固まる。だけどすぐにフォークでチーズケーキをとり、食べさせてくれる。

タルトとは違う甘味が口いっぱいに広がって、幸せな気持ちでいっぱいだよ。あ、そうだ…

私のタルトも楽しんでもらおうと彼と同じようにそれを差し出した。

美味しいねと笑う石川くんの破壊力ったらないよ。周りの女の子達がとても羨ましそうだ。

連れてきてよかったなんて心の底から思った私に

ポツリと石川くんが何か呟いたけど、周りの声や音にかき消された

楽しいティータイムも時間が経てば終わってしまう。ゆっくり食べていたつもりだったのに…最後の一口になっていて名残惜しくも口に放り込んだ。

お腹をさすって微笑む私を見て

と石川くんも笑う。

そんな会話をした後、私は時計を確認した。


ああ…長い時間師匠を付き合わせちゃった。お礼とか言ったくせに私の方が楽しんじゃったよ。

立ち上がり伝票を持てば、石川くんがその手を掴む

全く納得いかないような顔の彼に、私は少し考えた。そしていいことを思いつく

ニコリと笑ったら石川くんはやっとのことで手を離してくれた。

どことなく嬉しそうな顔をした彼に

そんなにここのケーキにハマったんだ

と紹介したこちらも嬉くなる。


お会計を済ませてお店を出る前に石川くんの方を見て、次はどれにするかなんて話をしようとしたら腕を引かれた。

どうやら前から人が来ていたみたい。

謝ろうとした私の目に映ったのは、最悪のツーショットだった。