放課後チヨコ渡したいから、
こっそり体育館裏に来て…
なんて日だ!!
うちの学校で知らぬ者はいない、
全ての男子生徒が憧れる学園のマドンナ、
岬真緒ちゃんからバレンタインに呼び出しだとっっ!
何かの間違いか、はたまたドッキリか…?
いやしかし、
真緒ちゃんの純粋すぎる性格からするに、
嘘とは思えない。
真緒ちゃんからチョコ…。
まるで夢のようだ…。
まさか俺、今日で死んじまうんじゃ…
死ねええ!
平太あああああ!
ちょっ…!あぶなっ…
なんだよ!龍ノ進!
殺す気か!!
おまえが…、真緒ちゃんに…呼び出された…だと?
お、お、おまえに関係ねーだろ…っ
関係あるわい!
真緒ちゃんはみんなのものだ!
独占的支配は断じて許されん!
なんだよ、それ…
親友としてひとつ忠告してやる
親友が斧投げてくるかよ…。
しかも妖気を放った奴…
お前はこの学園の全男子を敵に回した!
気をつけろよ。他の奴らは俺みたいに穏やかじゃない。
…気をつけろ
ただチョコもらうだけなのに…
じゃあな…
お、おう…
なんだ…この殺気…
ドーン
あいつは波根高の狂犬!
轟・ショーン・豪十郎先輩!
サウジアラビア育ちの帰国子女。向こうでは素手で石油を掘り当てたとの逸話を持つ男!
柳沢平太はお前か…
はっ…はい!僕です…っ!
…許さん
ひぃ…っ!
すみませんすみませんすみません…
…
…?
…うぅ
豪十郎先輩…?
なんで、お前なんだよ…
え、泣いてる…?
まおたぁぁああああんっ…!!
えっ…??
なんでよおぉ…。
僕もまおたんのチョコ欲しいよおお
うわああああん
豪十郎先輩…?
おい!平太!
!?
はいっ…!
…絶対幸せにしろ
は?
まおたんを泣かせるようなことしてみろ!
お前を合挽きミンチにしてやる
合挽き?もう一方は何肉よ…?
まあどうにしろこええ…
は、はい。幸せにします
もし、お前らの仲を引き裂くような奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやる。だから安心しろ
はい。ありがとうございます…
なんか味方できた…っ
くそおおおお!!
なんだったんだ…
また殺気…?
勘弁してくれよ
どーん
…
…
なんかちっさいおじいさん出てきた!
許さん…!
僕、あなた知らない…
んなこたあ、関係なぁあい!
おじいちゃん、血管切れますよ…
わしゃ、あんたを殴らな気がすま
あ、豪十郎先輩
うべぇはっ…!
じじいを殴った…!
おのれ…
大丈夫ですか…っ。おじいさん…
誰であろうとお前らの恋路を邪魔する奴は許さん…
うう…
こええ…
おい!平太!
ひぃ…っ
まおたんが待ってる。早く行け
でもおじいさん、救急車呼ばないと…
早く行け
行きます
あ、平太くん!
ご、ごめん、遅くなって…
ううん、私も今来たとこ
で、僕に用って…?
あ、そうそう。はい、これ
ついに…!
早く開けてみて
う、うん…
…開けるぞ!
はーい
…どういうこと?
チヨコ
チョコ?
いやチヨコ
え、あ…
え
私、言ったじゃん、
『放課後チヨコ渡したいから』って
ほんとだ…。いやでも、あのテキトーな作者のことだから、打ち間違えたのかと…
誰が、テキトーじゃい!
メタ発言やめい!
いや出てくんなし
平太ちゃーん
いやなんすかこのばばあ
ひどーい、ばばあなんてー
そうよ、平太くん。レディに“ばばあ”はないわ。謝って
ごめんなさい…
許しちゃーう♡
合挽きミンチにしたい…
で、このレディはどちら様…
学校の裏に住む、涎川チヨコさん
どーもー(ウインク
知らん!
ずっと平太くんのこと気になってたんだって
はあ…
ほら、自分の言葉で伝えて。なんで平太くんのこと好きなのか
やだー、恥ずかしい〜
どんな理由であろうと、即お断りだ
…あのね
…
…戦争で死んだ初恋の人と似てるのよ
…断りづらい
だからねー、私と付き合って欲しいの
あ、あの…少し考えさせて…
ちょっと待ったああああ!
!?
さっきのじいさん!
な、なによっ…!
チヨコや! 考え直してはくれんか!
今更遅いわよ!
…なにが起きてるんだ
そのじいさんはチヨコさんの旦那さんだ
なんですと!
どちらもちっさくて確かにお似合いだ
この箱に入っていたチヨコ
もうあなたの浮気癖には愛想が尽きたわ!
もう金輪際浮気はせん!
じゃから、戻ってきてはくれんか
私はあなたにずっと尽くしてきた。あなただけに!
…なのにあなたは
…すまんかった
ずるいわ、あなたばかりいい思いして…
…
分かったわ。あなたとよりを戻すわ
…チヨコ!
ただし!ひとつ条件があります
お、なんじゃ。戻ってくれるのなら、なんでも
私の浮気も許してちょうだい
…なんと
1回だけでいいわ。あなた以外の男の人とデートがしてみたい
いやな流れだ…
!?
平太くんと遊園地デート。…ダメだとは言わせないわ
…くそぉ
どうなの!? 別れるか、1回きりのデートを許すか。
どっちかしか選択肢はないわ!
…うううっ
さあ!答えは?
俺の意思は?
…わかった。1回きりじゃぞ…
やったぜ
よかったわ、チヨコさん…
地獄だ…
その週の日曜日…
あははっ
楽しいな、遊園地
バレンタイン。真緒ちゃんのチョコはもらえなかったけど、香菜子ちゃんから告白されて、こうしてデート…
幸せだぜ…。今頃、平太も楽しくやってんのかな…
あ。あれ、同じクラスの平太くんじゃない?
え、ほんとだ
!?
あれは夢か幻か…。
私と香菜子は見てしまったのです…。
世にも恐ろしい光景を…。
自分に霊感があるとは思っても見ませんでした…。
とぼとぼと1人、園内を歩く、平太。
彼の顔に生気はなく、
目は落ちくぼみ、唇は青ざめていました。
いつもと違う、ただならぬ様子。
不思議に思ったそのとき、
私と香菜子は気づいてしまったのです…。
彼の右肩に乗った、小さな“何か”を…。
初めは、見間違いかと思いました。
小さいけれど、確かに人間の形をしている何か…。
しかし、
その何かが
ゆっくりとこちらを振り向き、
…にやりと笑ったのです。
ひゃひゃひゃひゃひゃ
その小さな老婆の笑い声が
頭の中に木霊して…
…私たちは気を失いました。
満足しました…?
まだまだ!次はあれ乗るよ!
えーっ…。あれさっきも乗ったじゃないですか…
うるさいっ!
痛っ…
ひゃひゃひゃひゃ!あー楽しっ!