――一方その頃。

 山のように積み上がった機械が鎮座する、郊外の研究所では。

いぃやぁぁぁっっっ!? ナニコレぇぇぇぇっ!?

 博士がテノールボイスで、その姿に似つかわしくない悲鳴をあげていた。

アレマ・博士ガ壊レタ・ワーコリャ=テーヘンダ

なんか言ってるぅぅぅ

 38が両方のアームを上にあげて電子音声を発すると、博士の姿をした何かは床を這いずるように距離をおいた。
 しかし、巨大な機械にぶつかってうまく逃げられない。

アナタノ使用言語ハ日本語デス・ワタシノ言葉モ=理解デキルハズ

来ないでぇぇぇぇ

精神混乱中・アレマ=コリャコマッタ

 チキチキチキと演算処理した38は、

 突然、

 くるりと博士に背を向けた。

……ウワアアア・コッチニ来ルナアアアア・壊サレルゥゥゥ

……え

 急に目の前から逃げ出し、両方のアームで頭(?)を覆いながら壁際で震えだした38に、博士の姿をした何かは縮こまっていた腕を解いた。

べ、別に壊そうなんて……

動イタァァァァ!!

ちょっ、大丈夫だって! 何もしないから!

 ぴたりと震えるのをやめる38。

 そうっとアームの間から目(カメラ)を覗かせる。

……アナタノ=オ名前ハ?

アイルグランテのサマーシャ

オ国ハ=ドチラデ?

国? 人間が決めてるやつ? さぁ、なんだったかなぁ……

アナタハ=人間デハ=ナイデスカ?

そんなの見れば分かるで……あああ、そういえば私、なんか変な姿になってるんだったっ!?

オオット・コリャ失敗

 と、音をたてて、38がひっくり返った。

 ピクッピクッと二、三回、アームと車輪を痙攣させて、動かなくなる。

う、嘘、壊れた……!? 私何もしてないのに……!

サ、サマーシャ氏……オ願イガ=アリマス……

 息も絶え絶えに(ロボットだから息はしていないのだが)言う。

何? どうすればいいの?

 四つん這いのままゆっくりと近づいて、心配そうに38の様子をうかがうサマーシャ(in博士の身体)。

イイデスカ・説明ヲ=ヨク聞イテ=クダサイネ

うんっ

アナタハ・オソラク・ウチノ博士ト=身体ガ入レ替ワリマシタ・ソノ身体ハ=ウチノ博士=鳥飼進ノモノデス・三十ニ歳独身・イワユル馬鹿ト天才ハ紙一重ナ研究者デス・今回=空間転送ノ実験ヲシテイテ=アナタヲ巻キ込ミマシタ・代ワリニ謝罪シマス・申シ訳アリマセン・死ンデオ詫ビヲ

(ぽかーん)

……ハッ!!
いや死ななくていいからっ!

アリガトウゴザイマス・ソレデ=デスネ・アナタハ・オソラク・別世界ノ住人デス・僭越ナガラ=ワタクシ=アナタガ元ノ世界ニ帰レルヨウ=ゴ協力イタシマス

本当? ありがとう!

……って、あれ? 私、何かしなくちゃいけなかったんじゃ……

ハイ・コレカラ・シテイタダキマス・ア=ワタクシノ事ハ・サンパチ・ト=オ呼ビクダサイ

 先程まで壊れかけの様相をしていた38は、スルスルと滑らかに動いて巨大な機械のモニター部分へと向かう。

 サマーシャ(in博士の身体)は首を捻ったが、幸か不幸か、サマーシャはあまり物事を深く考えない素直な性格だった。

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