私の好きな人はリア充だ。



ユリって本当リア充だよね

唐突に目の前でお昼ご飯を食べていたミユキがそんなことを言う。

なに言ってんの?

だって、勉強はできるし友達は多いし体育まで得意だし……

ミユキだってリア充じゃん

まあねー


友達が多くてクラスで中心人物のような存在のミユキは、自分でもそう思ってるんだろうけど、確かによく言われる『リア充』に当てはまる。

それに比べて……


ミユキがふと視線を向けたのは教室の隅で楽しそうにご飯を食べる男子達。

タク、お前昨日のサイカ様見たか?

当たり前だろっ!マジサイカ様可愛い

ははっ、本当好きだよな

お前だってサキちゃんが好きだろ

昨日の話サキちゃん出なかった……

ぁー、ごめん


今日もアニメについて話してる。

まーた、好きなキャラがどうとか話してるよ……。あいつらはリア充とは程遠いね


ため息を吐いてまたご飯を食べ始めたミユキは話題に飽きたのか午後の授業について話始めた。

ユリーカラオケ寄ってかね?


午後の授業が終わってすぐ、同じクラスのハヤトに声をかけられた。

ごめん、今日日直だから

じゃぁ仕方ないな、ミユキでも誘うか

ちょっと、でもってなにっ

うわ、いたのかよっ


帰る支度が終わったミユキはハヤトの声が聞こえていたみたいで少し怒りながらこちらに来た。

じゃぁね、ユリ。また明日

うん、じゃぁね


手を振って二人と別れ日誌を書き進める。
すぐに教室には私しかいなくなった。

キノシタ、さん?


誰もいない教室。
まだ帰っていなかった人が教室に戻ってきたみたい。

ぁ……、タク君


振り返ると、後ろにいたのは私の好きな人だった。

そっか、キノシタさんは今日日直だったね

う、うん


タク君は窓際にある自分の席へ向かうと鞄の中に教科書やノートを仕舞い始める。

タクー、早く来いよー

おー、今行く

キノシタさん、また明日

友達に呼ばれたみたいでタク君はすぐに行ってしまった。
瞼に残るような素敵な笑顔を残して。



キノシタさん、学校楽しい?


タク君にそんな質問をされたのは半年前、高校一年の冬だった。
その日も教室にはもう誰もいなくて、一人教室に残ってた。
寒いけど家には帰りたくなくて、人といるのが嫌で遊びの誘いも断って、ただ窓から外を眺めてた。

キノシタさん、帰らないの?

うん、まだいい


タク君は教室に入って来ると一人で外を眺める私を不思議に思ったのか声をかけてくれた。
静かな教室は、窓の外から部活動に励む生徒達の声がよく聞こえる。

そっか、俺も一緒して良い?

タク君はまだ帰らなくていいの?

寒くてまだ外に出たくないんだ

クスッと小さく笑ってそんな冗談を行ったタク君は私の前の席に座って私と同じように窓の外に目を向ける。
クラスでいつも明るく皆の中心にいるタク君がこんなふうに一人でいるのは意外だった。

ねぇ、キノシタさん

暫く二人で静かな中外を眺めていると、タク君はこちらに目話向けた。

キノシタさん、学校楽しい?

その質問は前から思っていたことをふと思い出して口にしたかのように唐突で、一瞬何を言われたのかわからなかった。

どうして?

いつも、つまらなそうな顔してるから


笑顔には自身があった。
周りの人はもちろん、家族にもユリはいつも楽しそうだって、幸せそうだって言われてきた。
受験勉強で悩んだ時も人間関係で悩んだ時も、周りの人がユリは凄い、ユリなら大丈夫って言うから、そう見えるようにしてきた。

つまらなそうって……

違った?

……


違わない。
違わないけど、どうして……。
平気に見せるうちに自分でも自分の気持ちなんてわからなくなったのに。

……何に悩んでるの?

何に悩んでたかなんて、忘れちゃった……

私は何に悩んでたんだろ。

何でも出来る子だと思われるのが嫌で、そんなことないって言いたかった。
頼られるのも任されるのも嫌で、全部放り出したかった。
何より辛いとき、辛いって言いたかった。
ぽつぽつと沢山の思いが浮かんで混ざって真っ黒になって、わからない。

……

それだけ沢山、我慢してきたんだね


何故かタク君は、私を見て泣きそうな顔をした。

頑張ってきたんだね


泣きそうな顔で、微笑んだ。

お疲れ様。もう、我慢しなくて良いよ


その言葉は、たぶん彼が一番、誰かに言ってほしかった言葉。

ユリ、おはよー

おはよ

あいつらまーたアニメの話してる。本当タク前と変わったよね

我慢をやめたその日から、彼はネト充だと言われるようになった。

おいタクっ、昨日のサキちゃん見たかよっ!

サキちゃんの過去編とか一話丸々サキちゃんだったな

マジ可愛い流石俺の嫁っ!

ははっ、良かったな

ユリー、次の授業当たるしょ?宿題答え合ってるか見てあげる

ミユキ数学は本当得意だよね

はって何よ、はってー

ごめんごめん、いつも助けてくれてありがと


『キノシタさん、学校楽しい?』




『うん、楽しいよ』




『そっか、俺も楽しい』



そして、私も彼も、


リア充になった。


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