――私は、君に出会うために――……
――私は、君に出会うために――……
これは、一体どういうことだ。目の前の状況に、思考が追いつかない。
大丈夫だ俺、一度落ち着け。深呼吸だ、深呼吸。
……っ、ごほっ、ごほっ
深呼吸しようと息を吸おうとして、そのままむせ込む。そして、その勢いで隣に寝転ぶ【それ】に触れてしまい、思わずびくりと体が震えた。
……っ
こ、この状況は、いったい何なんだ……。と、とりあえず状況を整理しよう……
俺、秋雨瑛太(あきさめ えいた)は、昨晩いつも通り夜ふかしをして、深夜というよりも朝日が昇り始める頃に、ゲームで疲れきったこの目を休ませる為に布団に入り、瞼を落とした。
それからは、ぐっすりと殺人鬼に追いかけられる夢を見ながら寝ていたはずだ。
怖い夢だったのは確かだが、とりあえず今はどうだっていい。
……問題は。
何故、今、俺の横に、女がいる……?
…………
じろり、睨むように恐る恐る隣を見れば、俺の布団を奪うようにして被り、すーすーと穏やかな寝息を立てる少女の姿がある。
に……人間、だよな?
思わずそんな言葉が口をついて出たのは、その彼女が見覚えのない顔だったこと、そして摩訶不思議なこの状況がさせたものだと思う。
人間の形をしたその物体をじーっと見つめながら、動かない脳みそを必死に駆け巡ってみたけれど、結局この状況を解決するものは何一つ見当たらなかった。
まさか俺、寝ぼけて誘拐してきたとかじゃないよな?
いや、さすがに欲求不満だからってそんなことはしない……って別に俺は欲求不満じゃねぇし……!
んぅ……
……っ!?
小さく聞こえた女の子の声にびくりと震えながら、カッと頬が熱くなるのを感じる。
……い、いや、ほら、欲求不満じゃねぇけど、寝起きに、ほら、隣で無防備に寝る女の子がいたりしたら男なら誰だって……。
それに、顔も可愛いし……
誰に言い訳をするでもなく、そう頭の中で呟いて、少女を見おろす。
無防備に寝息を立てる姿にこくりと喉がなった。
そういえば、なんかテンパって全然彼女の外見を見ていなかったけど、落ち着いて見たら……結構、というかかなり可愛いな……
長い睫毛に、小さく高い鼻、それからピンク色の唇……。
……と、不意にその瞳が開く。
……っ!
…………
……おはよう
……っ、うわっ、うわああ……!
思っていた以上に、近くから聞こえた声に、慌てて起き上がって目を見開けば、目の前の彼女の大きな瞳が見上げるように俺を見つめた。
バカ。エイタ黙って。お母さん来たらどうするの?
彼女は、むぅ……と拗ねたように口にして、それから呆れたようにため息をついた。
あ……あぁ、ごめん……
って! いや、違うだろ! そうじゃないだろ!
……なぁに
な、なぁに、じゃなくてさ! お、お前、誰だよ! なんでここにいるんだよ!
……エイタの家だから
い、いやそれはそうだけど……!
全く答えになってない返事に困惑しながら、ベッドに座り込んだ彼女を見つめる。
眠そうに瞼を擦ってふわぁ、と欠伸をした彼女は、短めの髪を無理矢理に三つ編みにしているらしく、寝ていたせいか片方が外れていて、もう片方も乱れている。
そして、その彼女の身を包んでいる服は、俺の通う高校の制服で。
え……えと
なんて声をかければいいのか、言葉が見当たらなくて視線を彷徨わせながらもごもごと口を動かす。
……私、未来から来たの
え?あ、そうなんだ
……って、ハ?
今日のご飯は親子丼よ、とでも言うようにさらりと口に出されたその言葉に瞬きを繰り返す。
なんだ、馬鹿にしているのか? 俺のこと
聞こえた? 未来から来たの
……き、聞こえたけど
驚かないの?
首を傾げた彼女に、眉をひそめる。
なんだ、こいつ。どういう反応を求めているんだよ。
もしかしてあれか? 最近主に二次元で人気の、電波系だとか中二病患者的なあれか?
エイタ?
あぁ、うん。
あのさ、建前はいいからとりあえずちゃんと話して? ○×学園の生徒だよね?
できるだけ穏やかに、宥めるようにそう口にした。
だけど、彼女は目を細めてまるで俺を馬鹿にしたような視線を寄越して、それからため息を落とした。
やっぱり、信じてない。
エイタ、私が未来から来たって信じてないでしょ?
えっ、いや、だって
ねぇ、どうしたら信じてくれる?
はあ?
悩む素振りを見せて、それからそう顔をあげた彼女に困惑しながら、そう顔を歪めた。
信じるもなにも、一体なんなんだこの茶番劇みたいなものは。
いくら考えたところで答えの出ないこの状況に眉を潜めてじろり、と彼女の姿をもう一度睨むように見る。
……まぁ、その目で見たら信じる、よね
俺の様子を察してか、諦めたようにベッドの上に立った彼女が、小さな体で仁王立ちをする。
いい? 私がこれからするのは魔法でも超能力でもない
……あ、いやこの時代で言う超能力みたいなものなのかも。まぁ、それはなんだっていい
とりあえず、この時代の人間には持ち得ない力……見せてあげる
にやり、と一瞬大人びた笑みを見せた彼女に、呆れを通り越して怒りすら湧いてきそうだ。朝っぱらからなんてはた迷惑な女だ。
あーあー……、もう超能力でも未来人でもなんでもいいよ
とりあえず出て行っ……!?
な、なんだあれ……!?