薄暗い森の中を彼は歩く。

陽が当たらないのは木の葉が空を覆うように茂っているからだ。
まだ太陽は真上にあるというのに辺りは夜と錯覚しそうなほどに暗い。

どれぐらい歩き続けたのだろうか。
彼は足を進めながらの経緯を整理する。

森から引き返そうとしてから数時間。
行きと同じ獣道を辿ってきたというのに
まだ森の中で彷徨っている。

おかしい…

一旦、立ち止まって周囲を見渡す。
真っ直ぐ続く獣道に密集して生えている木々。
相変わらず続く同じ景色に彼は不安を募らせる。

まさか迷ったのか…?

途方に暮れていると遠くから何か聞こえたような気がした。
そのまま立ち止まって耳を澄ます。

人の声だ。しかも複数…
喋り方からしてなにか話し込んでいるのか。
兎も角声のする方へ行ってみよう。

淡い期待を胸に彼はまた進み始めた。







デイノスシルワという街がある。
住人は人ではなく魔物、空を見上げれば常に闇夜に包まれている。
それ以外はごく普通の街だ。

大通りでは飲食雑貨など多種多様の店が立ち並びそれなりに客で賑わっている。
昼時で混雑しているレストラン、カフェを横目に私は腹に手を当てた。

美味しそうな匂い…
お腹と背中がくっつきそう

せめて片手に持ってるものを食べてからいいなよ

隣でネロが呆れている。
幼馴染の魔族で種族は継ぎ接ぎゾンビ。

私は片手で抱きかかえている紙袋の中身を見る。
先ほどパン屋で買ったクルミパンが2,3個入っている。
もう一方の手にはかじりさしのクロワッサン。

ネロも食べる?

お腹空いていないから遠慮しておく。
それよりも約束通り、今日は薬草作り手伝ってくれるんだよね

勿論。
えっと、いつも通り薬草を磨り潰せばいいんだっけ

あとラッピングもお願い。
祭りの出し物にするから

祭り…ああ、そうか。
明日はナイトメア祭か。
道理で街がいつもよりも騒がしくい上に
無駄に派手な装飾品を飾っているわけね

まあ…街にとって唯一の最大イベントだからね

年に2回もあるのに?

年に2回しかないの!

くだらない会話をしながらネロの家を目指す。

大通りを抜け人気のない静かな住宅地を通り過ぎるとだんだん軒数も疎らになる。

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