いつからだろう…
硬いコンクリート製のベッドの上で目覚めるのは。


いつからだろう…
四角い空を見るのは。


いつからだろう…
この四角く囲まれた部屋で過ごすのは。


いつからだろう…
規則正しい、自由のない生活を強いられたのは。




そしていつからだろう…
もう一度自由に生きたいと願い始めたのは。






善人なる人々が住む街から外れた周りには何もない場所にある、周りを四角く塀で囲われ外と隔離されている建物。


塀の内側にはそれなりの年月が経っているであろう古びた大きな建物が両脇に一つずつあり、真ん中には運動や雑談が出来る空間がある。


建物の一つには檻で閉じられた無数の四角い部屋があり、部屋の中には小さな洗面所、棚、テーブルとベッドという必要最低限の家具しかなく、決して恵まれているとは言えないような環境でここの人々は過ごす。




その部屋の一つの中で静かに体育座りをする男と外側の自由な世界に立っている男。

汚れた薄汚いボーダー柄の制服と綺麗に整った制服。


彼等二人の全てがここでの関係性を物語っている。

囚人と看守というこの場所の上下関係を…

そう、外部と隔離されているこの場所は刑務所である。


そして牢獄の中にいる彼は、重犯罪で捕まり、死刑判決を受けている死刑囚である。


その彼を見下したような冷たい眼差しを送るのは、刑務所に看守である。


774番、出ろ!




檻の錠を外し、開けながら強い口調で命令する看守。


いよいよか、とこれから起きるであろうことを悟ったような表情でゆっくり立ち上がる774番と呼ばれた囚人。


170は優に超えているであろう中性的な顔に細身で綺麗に整った黒髪。


いかにも好青年と言えよう、彼の容姿からは想像もつかないであろうが、彼は重犯罪を犯した死刑囚である。



檻から出た彼は手に錠をかけられ、死のロードを看守が先頭で歩き始めたため、その後ろをゆっくり歩き出す。



一歩、前に進むたびに感じる感覚から実感する。

自分の体は思い通りに動くのだと。

自分にはまだ感覚が残っていると。

自分はまだ生きているのだと…



そして同時に一歩、前に進むたびに近づく死。


自分が死ぬと分かっていて冷静でいられる人間なんて世の中に何人もいないだろう。


囚人とて人間だ。


普通、死が近づいていると分かると意味もなく抗って自分の罪から逃げようとする、それが人間という生き物だ。



囚人774番とて例外ではない。


死への恐怖はあっただろう、彼の頭の中は死という言葉で埋め尽くされていただろう。


だが、死とは抗えぬ運命であり、罪を犯した自分への代償だと言い聞かせこの数年の間に覚悟を決めていた。


それにここにいるが故に何人もの人間が無様に抗い、命乞いをし、それでも死にゆくさまを見てきていた、そのため自分は最後までかっこよく逝こうという彼なりのプライドなのかもしれない。



彼の顔は無表情そのままで、全てに抗い、諦め、絶望し、そして受け入れたそんな顔だ。


彼が今日に至るまで何を感じ、思い、考えたのかなど誰にも分らないだろう。

そもそも理解しようとすら思ってないのだろう、今日死ぬ男のことなんて…

入れ

歩いていた看守が一つの扉の前で止まり鍵を開けながら、指示する。


開かれた扉の向こうになんの抵抗もなく入っていく774番。


部屋はかなり小さく、中心の天井には首吊り用と思われる縄があり、その真下に一人の男が立っていた。


この場所には不釣り合いなカラフルな服を身にまとい、帽子を被り不気味な笑みを浮かべるいかにも怪しげな人物。


この人が死刑執行人であるとは到底思えず、困惑する。


今日死ぬと思っていた774番はうまく状況を把握出来ていないようで、助けを求め看守がいるであろう後ろを見るが、そこには誰もおらず、ドアは閉められており、密室の部屋に男と二人っきりとなり戸惑いが隠せない。


あはは!今から死ぬと思っていたところに僕みたいのがいて驚いてます?


そんな774番を嘲笑うかのように喋りだし、一歩一歩歩み寄ってくる男。

彼から逃げるように後ずさるが、すぐに壁にぶつかった。


774番と数メートルというところで止まり、彼の周りを一周し、被っていた帽子を脱いで深くお辞儀をした。

申し遅れました。私、ゲームの進行を任されております、シュウラと申します。


この状況下の中、律儀に自己紹介をしたシュウラと名乗る男。


だが、冷静さを失っている今の774番は気にも留めていない様子だ。


それもそのはずだ。


死を覚悟して受け入れていたところにゲームがどうのこうのと意味の分からない話をしているのだから。


例え774番でなくとも混乱するだろう。


あなた、人生をやり直したいと、もっと生きたいと思いませんか?


そんな774番の心情を全く分かっていないシュウラは774番に顔を近づかせ、話を進めていく。


話についていけていけず置いてきぼり状態になっていた774番だが、"人生をやり直したい"という言葉に反応し、バッとシュウラを見上げた。



どういうことだ?



興味を示してきた774番を見て思った通りだと内心思いながら口角を上げひそかに笑った。

これから行われるゲームに参加し優勝すれば、あなたの願いを叶えて差し上げましょう。

内心疑いながらも人生をやり直せるという言葉に魅せられ興味を示し始めた。

どういうゲームなんだ?



先ほどまで関心のなかった774番が自らゲームについて聞いてきたので、驚きを隠せないシュウラ。


だが、そんな姿を全く見せず平然を装いながらゲームの内容を話し始めた。

終わりからの始まり

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