あれ? おーい、ただいまー!

玄関から聞こえてきた夫の、ただいま、の声に
気づけば結構な時間が経っていたことを知る。

おーい、表の電気点いてなかったけど、
いるんだよなー?

ごめんごめん、いるよー!
おかえりー!
ちょっと見始めたら、
つい夢中になっちゃって。

なにを、と聞く声が飛ぶ前に、がちゃりと
背後のドアが開く音がしたので、
ダイニングチェアに腰掛けたまま、さっきまで
眺めていたものを掲げてみせる。

卒業アルバム!
高校の時の!
懐かしくってさぁ~ついつい。
これ、私なんだけどさ、

クラスごとに分かれたページ、
丸く囲まれた写真の一つを指差して、
私は思わずくすくす笑う。

高校の時の私って
ほんと子供でさー……

おーいコラ、
廊下は走るんじゃねえって
何回言えば分かんだ!!

はぁーい、
すいませぇーん 

お前なあ……
高校生にもなって、そんな小学生みたいにがさつに走って、ちっとは色気づいたりしようとか思わねえのかよ……

うっわ~先生それセクハラ発言~

うっさい十年早いわ! 
しかしまあ、お前と将来付き合う男とか、どんな男なんだろうなあ……

――――って、
担任に呆れ顔で言われたんだよねえ~ 

……ふ~ん 

興味のないふうに相槌を打つ夫の様子に、
私はくすくす笑いながら後ろを振り返って。

今なら
『お前だよ、お前!』
って、言えるのにね!

 はは……参ったなぁ  

眉尻を下げ、顎を掻く夫に、
私は「おかえりなさい、先生」と抱きついた。

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