マザーレスチルドレンアジト
マザーレスチルドレンアジト
人里はなれた山あいの広大な敷地に三十棟以上あるプレハブの建造物が点在している。
かつては殺人集団と恐れられた宗教施設の総本部。
今は不良グループ『マザーレスチルドレン』のアジトとなっている。
敷地の中央にある建物のメンバーが会議室と呼んでいる部屋、ユキオとエミコが詰めている。
ねえねえ、ユキオ、そろそろあいつら起きてる頃じゃないの?
エミコがユキオにいう。
ああ、ノガミに見張らせてるから、なんかあったら言いに来るだろ
テレビの前で胡坐をかいてゲームに夢中になっているユキオ。
エミコに見向きもしないでそういった。
いいの? あんなトルエンボケの馬鹿に任せといて。何かあったらヒラヤマさんにヤキ入れられて半殺しにされちゃうよ
うるせえなぁ、今いいとこなんだから、心配ならお前が様子見てこいよ
テレビ画面ではゲームの主人公の男が街を走り回り車を破壊し一般市民を殺傷している。
血しぶきをあげて倒れる人々を踏みつけて銃を持った男が疾走している。
ユキオさあ、こんなんやって楽しい?馬鹿みたいに人殺して走り回って……、これって私達がしてることあんま変わんないじゃん、どんだけ暴力好きなんよ?
馬鹿! バイオレンスっていえよ。最高じゃねえかよ、ゾクゾクするぜ
ユキオはテレビ画面から視線を逸らさずにそういった。
それより腹が減ったな、何か食いもんねえのか?
なーんにもないよ。今、ヨシナリ達が町まで買出しにいってるし。それにしても遅いなあ、あいつら……
けっ、あいつらじゃあ、あてにならねえし。どうせ町のゲーセンで遊んで朝まで帰ってくりゃしねえよ
だけどぉ……
普通あるだろよぉ、非常食とかよぉ。裏の棟にいって缶詰かなんか探してこいよ
嫌よ! あそこ気持ち悪いもん。変な仏像とか一杯あるし、くっさいし、虫だらけだし、こないだちょっと入ったら体中痒くなって大変だったんだから
全く。使えねえヤツだな、お前っていうオンナは
ため息をつくユキオ。
ヒラヤマさん、さっき出て行ったけど何処行っちゃったのかな?
さあ、何にも言ってかなかったからすぐ戻るんじゃね?
大体さあ、子供なんてさらってどうすんのよ、あの子達どうなるんだろ?
外国に売り飛ばされるに決まってんじゃねえか
ちょっと可愛そうだね……
まあな……。てか、っくそー、お前とくだらねえ話してたらゲームオーバーになっちまったじゃねえか!
ゲーム機のコントローラーを投げ捨ててユキオがどなる。
あーあ、今日はついてねえなあ…… バングルは無くすし、飯も無い。やっぱり何か買っとけばよかったな、あー腹減った
ねえ、ユキオ、あのバングル随分大事にしてたけど、昔のオンナにでも買ってもらったんじゃねーの?
横に座っていたエミコが抱きついてきてユキオの首に両手をまわして耳元でささやいた。
違う、あれは姉貴に貰ったんだ
へー、ユキオ、ねーちゃんとデキてたんじゃないの? やらしー、キンシンソウカンって言うんだよ、そーいうの
ふざけるな! お前ぶっ殺すぞ!
ユキオはそう叫ぶとエミコを突き飛ばした。
痛ってー、馬鹿。殺せるなら、殺してみろって、そんな根性も無いくせに強がんなよ馬鹿、最低男。だせーんだよ!
エミコがくってかかると、ユキオは馬乗りになってエミコを右の拳で殴った。
くっそたれが、もう一度言ってみろ!
───姉貴のこと馬鹿にしやがって───ゆるせねえこの女───くそっ、姉貴に心配かけて───こんなことやって───もううんざりだ───俺が悪いんだ───全部俺が
何度でもいってやるよ、変態野郎! 飯が無いくらいで何イライラしてんだよ、家に帰ってねーちゃんとやってな
どす黒い感情がユキオの腹に染み出して広がってゆく。
───殺意。
抑制が効かない衝動。
うるせえ、アニキに犯れたっていったけど、どうせお前のほうから股開いたんだろうが! この売女が!
今度は左拳で殴った、エミコの顔、仰け反る。
ユキオはエミコの首に手をかけた。
細い首───締め上げる
殺して……
涙を浮かべたエミコが搾り出すようにいった。
もうどうでもいいよ…… こんなろくでもない事やって、どうせ地獄行きなんだから…… いっそひと思いに殺してよユキオ
意外な言葉がエミコの口からこぼれる。
……
ユキオの手から自然と力が抜けていく。
───バングル無くした───姉貴───俺は一体何やってるんだろ───こんな所で───姉貴───戻りたい───あの頃に───家族が一緒に暮らしてた頃───親父が、お袋が生きてた頃───でも───帰れるわけが───ない
すまん、悪かった……
そういうとユキオはゆっくりと立ち上がった。
その時、ユキオの正面にある窓、その向こう、月明かり、歩いてる背の高い人影がが見えた。
アニキだ、ヒラヤマの兄貴が戻ってきた…… 何か担いでる…… 何だろ、人間みたいな
え?
エミコも立ち上がって窓の外を眺める。
エミコは見た。
ヒトミを肩に担いだヒラヤマが
自分の部屋のある小屋に
入ってゆくところだった。