むぅ……

 華やかな空間を、一瞥する。

何で私、こんなところに居るんだろう……?

 飾られた棚に置かれている、様々な形と色の包みは、だが香花の目には全く魅力的に映らなかった。

やっぱり、場違い

チョコレートなんて、買いに来るんじゃなかった

 チョコレートを美味しいと思ったことが、香花には無い。

やっぱり、チョコレート作るのって、難しそう……

でも、……頑張ってみよう

あのばか弟へのチョコか?

あ、いえ、そ、それは……

ま、頑張って

雨宮君にはこのチョコが良いかな
勇太君にはこっちのやつ、
平林君は甘いものだめっぽいから……

舞子、俺のは?

勿論、大きなチョコケーキあげるから今年も一緒に食べようねっ!

やはりそうくるか……

文句、無いわよね?

ああ

あ、雨宮にアルコール入りのチョコは渡すなよ

勿論

 雨宮先生の研究室でお菓子の本を見ていた怜子ちゃんや、渡す相手である亮さんの前で付箋片手に通販カタログをめくる舞子さんは楽しそうに見えたのに、いざ自分が、2月14日用のチョコを買う段になると、……苛立たしさしか感じない。

どう、しよう……

……そうだ

 どうせ贈るのなら、香花自身が美味しいと思うものが、良い。ふと過ぎった思考に、思わず微笑む。

 『美味しい』ことを知っているチョコレートなら、一つある。

これにしよう

 香花は一人頷くと、お菓子売り場に足を運び、今は亡き父が仕事中に口にしていた徳用のアーモンドチョコレートを一袋、買った。

私が美味しいと思うものを

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