ここは浅草のBAR

ジュピター

バーの店内。


カウンターにはマスターと中山有紀。

マスターがマイグラスをカウンターテーブル
の端から端まで投げ滑らす。

グラスはテーブル端すれすれのところで
止まる。

マスター

では私はここまで、と

中山有紀

今日もお上手ね

マスター

いえいえ、とんでもございません



まあカモに言われても
全然嬉しくはないがね

木村清太郎

こんばんは、マスター

マスター

いらっしゃいませ、木村様

中山有紀

あら、お疲れメガネ君



おやおや

これはまたようこそ
親愛なるネギ

今日も二人合わせて安く長く
美味しく頂くとしよう

木村清太郎

ああ!有紀さんもうレース始めてるなんてずるいですよ!?

中山有紀

ちょっと黙っててメガネ。
いま私のターンなんだから。
ウザイ

木村清太郎

そしてヒドイ!


有紀はテキーラサンライズを少し飲んで

グラスを揺らしたり

ライトに当てたりして重さを微調整する。

中山有紀

うーん、このくらいかな



残念

そういうゲームではないのだよ
このチキンカクテルレース
ってやつはなあ

木村清太郎

有紀さん、色っぽくて画になるなあ。ファイトでーす

中山有紀

さっきからうるさい!気が散るから黙ってな



酒場で気が散ると
怒鳴りつけるヤツが
誰よりも集中力散漫

チョロイ

木村清太郎

今日も口悪いなあ。どうせ負けて頼まなくちゃいけないもう一杯のツケも僕が払うハメになるんでしょう。ねえマスター?

中山有紀

まだそうと決まったわけじゃないでしょう!?勝てば今夜の飲み代全部店側のおごりですものねえ?マスター?

マスター

おっしゃる通りでございます、中田様



無理無理無理

お前たちは一生俺のカモネギ

有紀の投てき。

グラスはマスターの記録の5センチ手前
くらいで止まる。

マスター

惜しかったですね




毎度あり


中山有紀

くっそー、また負けた!!

木村清太郎

あー、有紀さん惜しい!また僕のおごりですね。残念だけどまたお役に立てて嬉しいです~。マスター僕にはブルショットをいつものグラスで

マスター

かしこまりました

木村清太郎

有紀さん。もし今夜俺がマスターに勝てたら正式に付き合ってもらえませんか?

中山有紀

は?何言ってるの?それに何よ“正式に”って。私たち友達でもなんでもないじゃない。他人よ他人以下!

木村清太郎

大丈夫です。
それが有紀さんの照れ隠しだって事も僕にはわかってますから。
だって今日も有紀さんの飲んでるテキーラサンライズって
❝熱烈な恋❞
って意味でしょう?

本当に素敵な人だ

中山有紀

いや、そういうの全く知らないで飲んでたんだけど。単に味が好きなだけだから

木村清太郎

またそうやって僕を狂わせる

中山有紀

誘ってない。普通に答えただけだから

木村清太郎

(無視して)実は最近会社のデスクで毎日練習してるんですよ!
お局OLが淹れた不味いお茶を飲み干した後にね!!


ブルショットを一気飲みする木村。

木村清太郎

そして気づいたんです!
このゲーム。
実はグラスを空にしてスイングの負荷を
減らした方が制御が効いて
距離の伸びも良くなる分
かなり有利になるって事にね!!

中山有紀

アンタの会社、だいぶヒマなのね

マスター

興味深いです。是非ともその技、拝見させて頂けますでしょうか?



素敵な能書きありがとう
サボリーマンくん

ヘドが出るほど笑えるよ

木村清太郎

もちろんですとも。マスター、今夜こそ年貢の納め時ですよ?



納め続けるのはお前たちの方
なんだよ。

この合鴨カップル共が

本当にお似合いの養分だな


本村の投てき。

はじめは勢いよく進むが
グラスは中盤辺りで大失速。

マスターの記録ラインまでは届かない。

マスター

惜しかったですね

木村清太郎

くっそー、あんなに練習したのに。湯のみ何個も割って会社に弁償したのに

中山有紀

泣くなよ。
アンタがこのゲームに一番アツくなり過ぎよ

マスター

それは光栄です。
さあ、追加のご注文は何になさいますか?







”おかわり”
に続く

チキンカクテルレース 一杯目

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