遥か古の時代、神々による大きな争いが起きた。

 神々は自らを信仰する人間に祝福を与えた。ある者は獣の加護を、ある者は知識の加護を、そしてある者は魔の加護を与えられた。

 
 獣人、エルフ、魔族。それ以外にも多くの種族が誕生し、それに合わせ人間の数は減って行った。

 

 
 
 神々の中で唯一人に加護を与えなかった者が存在する。

 
 偉大にして世界の創造神。その補佐を務める女神アルマ。

 
 世界の人口を管理する役目を担う彼女は元よりこの争い、後に世界の終焉とも始まりとも呼ばれる事となる戦い、ラグナロクに興味が無かった。

 
 そもそもにして、この世の神は全て創造神の一部であり、それらが争う事に意味など無かったのだ。

 

 

 創造神は世界を作ると同時、その身を十五の体に分けて滅びたという。

 
 他の神が創造神の一部である中、アルマは唯一の例外であった。

 
 創造神が体を分けて滅びる前、自らの補佐として生み出した存在。それこそがアルマだったのである。


 

 
 アルマは元々創造神が滅びる際、共に滅ぶはずだった存在だ。

 
 新たなる神の時代の幕開けと共に、古き神である彼女は滅びるはずだった。それが何の因果か消える事無く生き残ってしまい、世界の管理は十五の神に任せられたのだから彼女の出番があるはずもなく、かと言って何もしないのは流石に暇だと思った。

 
 そこでアルマは一番面倒な仕事である人口管理、この世ならざる空間から魂を定着させ、この世界の魂をあの世と呼ばれるそこに送る仕事をする事にした。

 
 結果として神々は面倒な仕事が減った分異世界の神と交流する手段を取られた。暇を持て余した結果起きたのがこの戦争なのだから全ての原因はアルマにあるとも言えよう。


 

 
 この時代の人々は神の存在を完全な形で認知していた。

 
 だからこそ自らの死後を決めるアルマを信仰する人間は多くおり、ラグナロクによってアルマに莫大な負担が生じる事を防ぐ為に彼らの戦争を止める為に戦争へと参加した。

 
 加護を与えられた人間達は一部に秀でた能力を得た。しかし、元々が人間に過ぎない彼らにとって突然変異的進化における代償は大きく、一部を得る代わりに一部を失う事となった。

 
 さらには突然驚異的能力を得ると同時に一部の能力を劣化させたせいで上手く立ち振る舞う事が出来なくなり、結果として加護を持たないただの人間相手に苦戦する破目となり、しかも数の利が人間側にあったせいで敗北する結果となった。


 

 
 ラグナロクは不戦勝という形でアルマが勝利を手にした。

 
 神々はその結果を不満に思い、アルマを討とうと協定を結ぶ。

 
 この時点で神々は地上を離れており、残された人間達とそうであった者達はそこで何が起きたのかを知らない。

 
 一つだけ言えるのが、その後起きた滅びの光によって、人類は一度滅びたという事。
 

 

 
 天界における決戦で神々は封じられ、自らを生み出した創造神のなれの果てに絶望したアルマが神の座を降りた事で世界の神は事実上いなくなった。

 
 それから何千、何万もの時が経ち、滅びの光に含まれていた膨大な神力が自我を持つようになる。

 
 そうして生まれたのが女神アルファであり、彼女の誕生と同時、封じられた神の力の一部が漏れ出し、僅かながら人類の芽が生まれた。

 

 

 女神アルファは滅びた世界を憂いた。

 
 そこで異世界の神々と交流し、世界の有り方について学んだ後、この世界を作り直す事とした。

 
 自らの持つ神力の一部を残して世界を平定し、長い長い眠りにつく事で安息を齎した。かのように思えた。

 

 
 
 人類は知恵を持ち、女神アルファを信仰した。

 
 その一方で本能とも言うべきか、その身に眠る神の加護と、神々への信仰が平定した世界に争いを巻き起こす事となる。

 
 獣の王は獣王として、エルフの王は賢王として魔の王は魔王として、この世界に君臨し、新たなる争いを起こす。

 
 アルマを信仰していた人間は滅びの光によって生命を絶たれた恨みから彼女を裏切りの女神とし、信仰の対象をアルファに移す。

 
 世界は再び戦乱の炎に包まれ、やがて平定し、それが何度か繰り返された頃に、やっと落ち着きを取り戻した。


 

 

 
 再び目を覚ましたアルファは困った。

 
 自分の思っていた世界と違うと。

 
 目覚めたからと言って力を取り戻したわけではない彼女は悩みに悩み、そして一つの結論へと至る。

 

二度寝しよう

 
 
 そうしてまた、神は長い眠りについた。


 
 
 

異世界神話

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