私はあなたが好きよ。
どうしてこんな薄暗い屋根裏部屋にいるの? それになに、屋内で帽子? 頭でキノコでも育ててるのかしら。
……急に現れたと思ったら、随分と酷いじゃないか。君はいつだって……。
君はいつだって……なによ? 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい。
…………。
今度はだんまり? あなたってとことん、根暗な男ね。
……好きで、こんなところにいるわけじゃない。誰のせいで……。
あら、ひとのせいにするつもり? それはね、逃げよ。現実逃避。あなたは、狂ってるのよ。
狂ってる、か……。別に、今に始まったことじゃない。僕は随分とまえから、狂った帽子屋って呼ばれてるんだ。
ふふ、素敵なあだ名じゃない。あなたにぴったりだわ。
……他ならぬ君に言われると、正直、こたえるよ。
そうね、あなたは気が狂ってるし、正気じゃないわ。けどね、いいこと教えてあげる。
私はあなたが好きよ。
……まったく、我ながら本当に呆れる。アリスに叱られないと、外に出ることすらできないのか。
今日で、ちょうど3年になるのか……。もし、アリスが生きてたら……幻と同じように、叱ってくれるだろうか……。
アリスの形見である帽子をかぶり直し、狂った帽子屋と呼ばれたひとりの男は、新しい一歩を踏み出した。
……気分転換に、お茶会でもするか。三月ウサギと眠りネズミは、まだ俺のことを覚えてるかな。
彼はまだ知らない。そのお茶会で、亡くなった想い人と同じ名前の少女と出会うことを……。
そして、物語は不思議の国へ――