アリス

どうしてこんな薄暗い屋根裏部屋にいるの? それになに、屋内で帽子? 頭でキノコでも育ててるのかしら。

帽子屋

……急に現れたと思ったら、随分と酷いじゃないか。君はいつだって……。

アリス

君はいつだって……なによ? 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい。

帽子屋

…………。

アリス

今度はだんまり? あなたってとことん、根暗な男ね。

帽子屋

……好きで、こんなところにいるわけじゃない。誰のせいで……。

アリス

あら、ひとのせいにするつもり? それはね、逃げよ。現実逃避。あなたは、狂ってるのよ。

帽子屋

狂ってる、か……。別に、今に始まったことじゃない。僕は随分とまえから、狂った帽子屋って呼ばれてるんだ。

アリス

ふふ、素敵なあだ名じゃない。あなたにぴったりだわ。

帽子屋

……他ならぬ君に言われると、正直、こたえるよ。

アリス

そうね、あなたは気が狂ってるし、正気じゃないわ。けどね、いいこと教えてあげる。


私はあなたが好きよ。

帽子屋

……まったく、我ながら本当に呆れる。アリスに叱られないと、外に出ることすらできないのか。

帽子屋

今日で、ちょうど3年になるのか……。もし、アリスが生きてたら……幻と同じように、叱ってくれるだろうか……。


アリスの形見である帽子をかぶり直し、狂った帽子屋と呼ばれたひとりの男は、新しい一歩を踏み出した。

帽子屋

……気分転換に、お茶会でもするか。三月ウサギと眠りネズミは、まだ俺のことを覚えてるかな。


彼はまだ知らない。そのお茶会で、亡くなった想い人と同じ名前の少女と出会うことを……。

そして、物語は不思議の国へ――

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