檜山修二

やっと一日が終わったか。帰ろ。

一日の全ての授業が終わり、何もする事のない檜山修二はさっさと帰宅する事にした。彼は魂の抜け殻のように、とぼとぼと歩き始めた。

金田猛

オーッス!修二。相変わらず気の抜けた面してるなぁ。元気出せよ!

檜山修二

大きなお世話だ。ほっといてくれよ。

金田猛

ほっとくわけにはいかないなぁ。だってお前はうちのバスケ部のエースなんだから。

檜山修二

元エース・・・だろ・・・。俺はもうバスケはやれないんだ。

金田猛

やれるだろ。お前にその気がないだけだ。

檜山修二

はっ。何を言っている!俺はもうケガでバスケはできないんだ!やる気があったって意味なんてないだろうが!!

金田猛

医者に聞いたんだ。お前の足の怪我はもう完全に完治しているって。お前は自分でできないって決め付けてるだけで、ちゃんと走れるんだよ!

檜山修二

うるさいっ!簡単に言うなっ!!お前には俺の気持ちなんてわからないっ!!

修二はそう言い放つと、そそくさとその場を立ち去った。

金田猛

待てよ!今だって早足で歩けてるじゃないかっ。もう完全に直ってるんだろ?バスケ部に戻って来い!!

檜山修二

うるさいっ!もうほっておいてくれよ!怪我は辞めるきっかけにすぎない。俺は気付いちまったんだよ。自分の才能のなさに!!怪我をした俺はたっぷりと自分を見つめ直す時間があった。その時になぁ、俺はどんなに頑張ってもどうにもならない現実を知ってしまったんだよ!

金田猛

俺の何倍も才能のあるお前が言うな!!お前はいつも俺の先を行っていたじゃないか。

檜山修二

ああ。だが、俺が休んでいる間に、お前は俺を追い越したよな。なんだ?自分との実力差を俺に見せつけたいのか?自分は、努力でこんなにうまくなりましたってな!

金田猛

修二、お前、本当にひねくれちまったな・・・。昔のお前はそんなんじゃなかったのにな・・・。

檜山修二

・・・。俺はもう行く・・・。

会話を打ち切ると、修二はとぼとぼと廊下を歩いていった。猛はもうその背中に声をかける事はなかった。

あの会話から一週間後。放課後の体育館に一人、修二の姿があった。

檜山修二

・・・。俺だってこのままでいいなんて思っていない・・・。でも今更、戻りたいなんて言えるわけないだろう・・・

修二は体育館で、一人でバスケットボールをついていると、そこに猛がボールを持って現われた。

金田猛

おおっ!修二じゃないか。戻る気になったのか?

檜山修二

いや、俺はただ・・・

修二は何かを言いかけてやめてしまった。

金田猛

何?

檜山修二

ただ気分転換にボールをついていただけさ。

金田猛

はぁ・・・。お前、本当にめんどくさい奴。下手な嘘をつくなよ。戻りたいんだろ?バスケ部に。

檜山修二

戻りたくなんかないっ!

金田猛

意地を張るなよ。みんな待ってるぜ。うちのバスケ部にはお前が必要なんだ。

檜山修二

本気で言ってんのか?俺は一週間前、お前に酷いことを言ったのに・・・。

金田猛

気にしてねーよ。俺達、親友だろっ

檜山修二

いやっ。それは違うけど。

金田猛

うわっ。ひどっ。俺、傷ついたから

檜山修二

ははっ。なんか久しぶりに笑った気がするよ。

金田猛

これからはいくらだって笑えるさっ

檜山修二

ああ。そうだな。まずはお前をバスケで追い抜いて、エースの座を取り戻す。そしてめちゃくちゃ笑ってやるさっ!

金田猛

ははっ。やってみろよ。3ヶ月もサボってた奴に俺は負けねーから!

それから二人は夜遅くまで、1on1で対決をした。お互いに点を取り合い、もはやどっちが勝ってるのかわからなかったが、二人にとってそんな事はどうでもよかった。

ひたすら無心でボールを追い続ける。ただそれだけで楽しかった。

リスタート

facebook twitter
pagetop