咲の自宅の玄関。
鳴るインターホン。
ドアを開ける咲。

いらっしゃい、すいません部屋散らかって…

貴子

こんな時間にごめんね、近くまで立ち寄ったから。コレ、この前のお詫び。上がっていい?

あ、ごめん。えーっとこれから人が来るの

貴子

あの男?

あ、うん

貴子

大丈夫?嫌なことされてない?

何、嫌なことって?

貴子

いい?咲は私の言う事さえ聞いてればいいんだからね、ね?ずーッと二人で頑張って来たでしょ?だからわかるよ?アイツはダメ。会ってみて確信したわ。愛真は内海清以上に危険なの!

貴子もういい加減にして。自分の趣味人に押し付けないでよ

貴子

ちょっと、押し付けって何よ?

確かにこの十数年間、貴子にはお世話になったけど、もうお互い良い大人でしょ?プライベートは干渉しないで。貴子も早く彼氏作って…

貴子

セックスしなよって!?はは、余裕綽綽!あー、いいなあ恋って憧れちゃう…ホント言ってる事まであの時とそっくりじゃない!


貴子に平手打ちする咲。

いい加減にして!


頬を押さえ無言の貴子。
やってくる真。

どうしました?…吉村さん?

真さん…ううんなんでもないの

貴子

あはは、人ひっぱたいておいて何も無いわけないじゃん!友情より男ってわけか…ダメよそんなの!別れて!!今すぐあなた帰りなさい!!


真につっかかろうとする貴子より先に彼を家にあげる咲。
ぎゅっと繋がれた二人の手。

貴子

はは、どさくさに紛れて手なんか握っっちゃって…汚らわしい

貴子、とにかく今日はもう

貴子

私は認めないよ!アンタたち、絶対地獄に落ちるから!


お土産を二人にぶっつけて逃げる貴子。
中身はホールサイズのケーキ。

貴子!

…彼女、いつもああなんですか?

ちょっと彼女癇癪持ちでたまに…気にしないで下さい


寝室。
裸の真と咲。
真が咲の胸に顔を埋めている。
ソレをまた赤子をあやすように撫でる咲。

明日、このまま出ましょう。いつも何かの果物を買って、そこに花があるとなおいいんです

わかりました。近所に素敵なお花屋さんがあるのでそこに行きましょう


部屋の隅にかざってある赤い花。

花言葉には詳しい人ですか?

ええ、ちょっとなら

“希望”みたいな意味の花ありますか?

あーどうでしょう。まだ時期じゃないですけどスノードロップですかね

スノードロップ?

はい。私、実家が東北の…福島の温泉街なんですけど、よく小さい頃裏山に咲いてました。雪解けの後にひっそりと顔を覗かせるんです

へえ、良いですね

でも、全然お見舞いに似合わなさそうな野花です

いいじゃないですか。取りに行きましょう…いつか

…はい、いつか

すいません。ちょっと失礼します


わざわざベッドから出て部屋の隅で電話する真。

すいません(電話に出て)はい、もしもし。はい、ええ。わかりましたすぐ行きます

あの…

すいません。今日のお見舞いは中止で。妹の容態が急変しました。急ぎますのでまた連絡します

あの、私も…

その言葉を言い切らないうちに
服を着て部屋を出る真。
途方に暮れて花を眺める咲。


続く

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