先輩は飛ぶ事が大好きだった


 誰よりも高く飛んで

 誰よりも、楽しんでいた
 



 先輩が飛べなくなるのを

 1番近くで


 私は見てた…









 目が覚めると、ソファの上


 ソファでゴロゴロと

 スマホを弄っていたら

 いつの間にか寝ていたみたいだ


 また、夢を見た

 つい数日前の事


 先輩が棒高跳びの練習中


 ポールが折れてしまい

 先輩はマットに向かって

 首から落ちた


 幸か不幸か命に別状はなかったが

 半身不随

 首から下が動かないそうだ





 先輩が飛べなくなるのを


 先輩が笑えなくなるのを



 私は1番近くで見てた





 見てた、だけだった





 目を閉じると鮮明に思い出す



 ポールの折れる音と周りの悲鳴

 救急車の煩いサイレン



 眠るといつも見る嫌な夢に出てくる


 夢を見たくないから

 寝たくないからと


 ベッドにも行かず

 ソファでスマホを弄るけど


 いつの間にか寝てしまっていて

 まぁ結局いつも夢を見る



 おかげ様で最近は寝不足だ




 肩が痛い


ソファで寝る癖、直さないとな…



 時計は短い針が11を指している

 今日は午後から陸上の練習


 大会前だから

 休みの日も練習があるんだ



 そういえば去年の大会



 先輩は2年で棒高跳び総合準優勝

 私は1年で走り高跳び総合ベストエイト


 来年は2人で総合優勝して

 メダル持って写真撮ろうよなんて

 約束なんかしてたっけ





 先輩は今年の大会

 もう出れなくなっちゃったけど……






 グラウンド


 十分に助走を付け、左脚で踏み込む




ダンッ



 背中にバーが見える



 飛んでいる最中


 時間がゆっくりと流れて

 空が凄く近く感じて



 1番楽しい瞬間だった



 はずだった

 あの日までは



ボフッ



 冷たいマットに包まれる

 と、同時に

 カランカランとバーの落ちる音

この前までは
普通に飛べてた高さなのに…



 先輩、あの日からずっと

 ずっと飛んでるのに


 誰よりも飛んでるのに

 1回も飛べてないよ







 私ね


 飛ぶのが怖いみたい





 空が、怖いみたい



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