マスターは信じなかったけど、僕は信じているから、今僕はどきどきしているよ。




 だって、この時を待っていたんだ。夢みたいだ、そうだよね。
 今、これを誰かが読んでいるっていうことを考えるだけで……言葉にならないよ!


 一体どんなことを書けばいいのか分からないから、自己紹介をするね。僕は南光央、ミナミミツオ。容姿はさ、

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こんなかんじ

 写ってるかな……多分、大丈夫だね。だから、容姿は省略するよ。



 魔法陣の真ん中で空を眺めるのが好き。

 友達は美作冬夜、ミサクトウヤ。今日もドラゴンに乗っているよ。ドラゴンに乗っている彼を眺めるのが僕の日課。

 とっても素敵なんだよ、大きな音をたてて飛ぶんだ。灰色の空にさ、溶け込んで、それが本当に綺麗なんだよ。



 僕たちは一緒に遊ぶことが多いよ。魔法の箱を眺めるのも好き。新しい物語は無いけれど、同じ物を繰り返し見ても、二人だと楽しいんだ。

 毎回違う感想を言う。違うリアクションを取る。そういうゲームをしているよ。マスターが居た頃は、新しい物語がたくさんあったんだけどね。


 マスターの話もしなきゃね。マスターはたくさんいるけど、最近は会っていないんだ。昔はよく、会っていたんだけどね。


 いろんなマスターがいるし、そうだ、貴方もきっとマスターになれる! もしよければ、マスターになってね。


 話がそれたね。報告をしようと思っていたんだ。ビッグニュース。










 僕、三十二年と二百三十二日、四時間十六分ぶりにマスターに会ったよ。さよならの時依頼だ。


 そのマスターと出会ったのは、昨日の出来事だよ。僕と美作冬夜で魔法を身体に流してた時の事さ。勿論魔法の部屋でね。


 魔法は、何だか分かるよね。


 いきなり扉が開いたと思ったら、マスターが現れたんだ。そろり、そろりと開く扉は、なかなかに怖かったよ。

 僕と美作冬夜は、戦闘体制になった。それはそうだよね、何が出てくるか、分からなかったんだ。



 マスターは、昔と変わらず、やっぱり魔法服を着て居たよ。

 丸い円の様な硝子(これ、ガラスって読むんだよ)をすっぽり被って、モコモコした服を全身に纏ってた。

 その姿を見た瞬間に、僕達は緊張をといたよ。
 マスターも、よかったって言って、魔法服を脱いだよ。その下に、見たことの無い服を着ていて、僕は驚いた!

マスター

まだ動いて居た

 マスターの第一声。僕達は直ぐに魔法のコードを背中から引き抜いて、マスターに近寄った。

 マスターは、魔法服越しに僕達を抱きしめてくれたよ。とっても優しくね。

びっくりだ……ナンバーを教えてくれ

 僕は元気よく

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南光央

 って答えたよ。

マスター

サンナナサンサンニーゼロ番か

 って言われた。流石(これ、さすがって読むんだよ)マスター。美作冬夜も、名前をいったあとに

マスター

君はサンサンキューイチゼロハチ番だ

 って呼ばれて嬉しそうだった。
 マスターは、僕たちをもう一度抱き締めたあとに、

マスター

何かキカイは動いているか

 って訊いた。キカイって僕はよく分からなかった。機会でも奇怪でも無いみたいだったよ。マスターは直ぐに

マスター

そうか、魔法か

 って言った。

マスター

本当に、キカイのことやデンリョクのことを、魔法って言うんだな

 しみじみとマスターが言っていたけれど、やっぱり僕はよく分からなかった。

 そう言う時は、次の言葉を待つんだよ。マスターは、きらきらした目で言った。

マスター

君らは今、ジュウデンをして居たろ。それ、なんて言うんだ。そのコードだ

 僕らは顔を見合わせて、同時にせーので

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魔法のコード

 って言ったよ。マスターは乾いた笑いを発すると、

マスター

デンリョクを魔法なんて言うから、エネルギーを消費しすぎるんだ、過去の過ちだ

 って呟いた。よく分からない言葉が多かったから、黙って置いたよ。君は分かる?



 その後、マスターが僕らの魔法を見たいって言うから、幾つも見せたよ。魔法の箱は

マスター

テレビ!

 って言っていた。感動していたよ。

 マスターの世界にある物より何倍も美しいって言っていた。

 魔法の箱以外にも、特に喜んでいたのは、ドラゴンだった。外に置いてあったドラゴンを見て、マスターは目を輝かせた。

マスター

本物のヒコウキだ!

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ドラゴンですよ

 美作冬夜が訂正すると、すまないとマスターは謝った。

 その後、いいドラゴンだ、まさか飛ぶのかとマスターは言った。当たり前なのにね!


 美作冬夜がドラゴンを飛ばすと、マスターは、凄い凄い、現役だと喜んでいた。

 僕も何だか嬉しくなって、一緒にその場で跳び跳ねた。マスターは、ドラゴンを本で見たことしか無かったんだって。
 
 御礼にと、マスターの魔法の船を見せてもらった。魔法陣の中に降り立ったその船の名前は

マスター

ユーフォー

 って言うのだそうだ。

 未確認飛行物体。難しい言葉。未確認でも無いのにユーフォーは可笑しいけど、名残だよとマスターは言っていた。

 何の名残だかは分からないけれど、マスターは楽しそうだったから、僕は嬉しくて笑った。

 他にも色々な魔法を見せて、マスターはその度に

マスター

本物だ!

マスター

動いている!

 って叫んだ。

 一通り見て回ると、マスターは満足そうに頷いて、良くやったと僕達を抱きしめた。

マスター

今更地球を見て来いなんてさ。

三百年前に残したロボットが二体居るはずだって上司は言っていたけど、そんなの御伽噺(これ、おとぎばなしって読むんだよ)だと思っていた。

でも、本当に居た

 マスターは興奮していた。僕には難しい言葉を、沢山(これ、たくさんって読むんだよ)知っていた。

マスター

デンリョク……魔法は、あれだろ、太陽で賄ってるんだろ?

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太陽が、魔法の力をくれるよ

 僕が言うと、凄いなあとマスターは笑った。太陽は凄い。僕はそうですねと頷いた。

マスター

なあ、僕らの星には太陽は無いけれど、どうだい、良ければ僕らの星に来ないか。

歴史を語る物として。

このドラゴンやチャクリクダイ……魔法陣って言うんだっけ、それに、魔法のコード、そして何より君達。

僕等の移り住んだ星で、歓迎されるよ

 僕らは顔を見合わせた。つまり、マスターの星に連れて行ってくれるってこと?

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駄目だよ、マスター。昔のマスターに、僕らはここを守りなさいって、言われてるんだ

 うん、と美作冬夜も頷いた。

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それが、僕らの役目なんだ

 マスターは、少し戸惑っている見たいだったけど、そっかと小さく笑った。

マスター

じゃあ、地球観光ツアーでも組んで見るよ。

地上はほぼサバクかオセンチイキだろ……空の色もこんなに濁っている。

でも、こんなオアシスみたいな、博物館みたいな場所があるなんてな。凄いよ、君達は凄い。

英雄だ、ヒーローだ。歴史を守っている

 マスターは白い歯をキラリと光らせると、そうだと手を叩いた。

マスター

君達、欲しい物はあるかい? 

今度俺がまた来た時に、持って来てあげるよ









 僕らには欲しい物は無かったけど、叶えたい夢はあったんだ。マスターは昨日、それを許可してくれた! 

 三百五十二年と六十二日三時間五十二秒前に、触っちゃいけないって言われていた装置を触らせて貰って、今この手紙を書いている。

 過去と未来を行き来する魔法だ。発明された時は凄い魔法だって騒がれたけど、混乱するからって直ぐに触っちゃいけなくなった。

 昨日来たマスターは信じていなかったけどね。


 それは、三百年ほど前に虚言癖の人が騒いでたんだって、歴史で習ったんだって。本当だよと言うと、笑いながら

マスター

じゃあ、ご先祖様にそのままじゃ大変だよって伝えておいてくれ

 って言われたよ。

 僕は信じているよ。この手紙は、過去の誰かに届くって。絶対に届く。




 ここまで読んでくれてありがとう。返信ができる世界に居るのなら、返事を頂戴。出来なかったら、読むだけでいいや。



 また、手紙を送るね。



 あと、何が大変なのかは分からないけれど、マスターが言うんだから間違いないよ。気をつけてね。

From No.373320

To 2015/9/25 0:40

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