日本のとある片田舎。

最寄駅からバスで1時間半の場所に、
『マジガチリアル物理学研究所』はあった。




『集え!自称超能力者よ!』

1人、また1人と、自称超能力者たちがここの門を叩く。己の力を証明するために。




しかし、この研究所から“無傷で”帰ることができた超能力者は、未だかつていない。







また今日もこの研究所の一室で、
二人の男が対峙していた。

本間マコト

君が巷を騒がせている超能力者・高円寺コウジか

高円寺コウジ

いかにも

本間マコト

ふふふ。私の名は本間マコト。人は私を『エセ超能力者の市営墓地』と呼ぶ!さあ私の目の前で超能力を証明したまえ!

高円寺コウジ

よかろう!眼前で繰り広げられる奇跡に小便ちびらせるがよい

本間マコト

まずは透視テストだ。ナミコくん、例のものを

波ナミコ

はい。博士

本間マコト

ありがとう。ここに透けない封筒がある。中に図形が描かれた紙が1枚入っている。君にはこの中の図形を透視してもらいたい

高円寺コウジ

……いやだね

本間マコト

!?

本間マコト

なんだ怖気づいたか?

高円寺コウジ

俺は無益なことに自分の能力を使ったりしない

本間マコト

なんだと?できない言い訳か

高円寺コウジ

自分が使いたいとき、使いたいように使うんだよ、超能力っていうのは。封筒の中身を知って、俺に何の得がある

高円寺コウジ

……

波ナミコ

はっ!!

波ナミコ

ど、どうかされました?

高円寺コウジ

……黒

波ナミコ

……なんなんですかっ

高円寺コウジ

ふふふ。意外に大胆だな。レースの花柄、すけすけ…

波ナミコ

えっ!ちょっっ…!

本間マコト

どうしたナミコくん!突然取り乱して…

高円寺コウジ

どれ、下は…。おお!これまた大胆…。

きわどいねえ…。
…ちょっと、ずり下がってるぞ。ナミコちゃん

波ナミコ

いやああああああ!!見ないでええ!!

本間マコト

!!

本間マコト

まさかおまえっ!

高円寺コウジ

そうさ。おまえの助手のナミコちゃんの下着を透視しているのだ

波ナミコ


もうお嫁に行けなあああいっっ!!

しかたないから、年収2000万で向井理似の細マッチョで、姑は口うるさくなくて、趣味がボルダリングの男の人でいいから、私をもらってええええ!!

高円寺コウジ

理想高すぎない…?

本間マコト

落ち着け!ナミコくん

本間マコト



……これは実験なんだ。観測の結果が正しいのか、客観的に知る必要がある。

だから私にも下着、見せt

波ナミコ

博士のスケベ!!

本間マコト

ナミコくん!ちょっと待って

本間マコト

……

高円寺コウジ

行ってしまったな…。おまえ嫌われたぞ。
……なんかすまん

本間マコト

いやいいんだ

本間マコト

……きもちいいビンタだった

高円寺コウジ

おまえ、どMのど変態か…

本間マコト

ありがとう

高円寺コウジ

褒め言葉じゃないぞ

本間マコト

さあ次は念力のテストだ。君はスプーン曲げが得意だそうだね

高円寺コウジ

よく御存じで

本間マコト

これを曲げてみろ

高円寺コウジ

お安い御用だ

高円寺コウジ

ほらよ

本間マコト

なんと…。

高級カトラリー専門店で売っていた商品の中では、わりと良心的な価格設定でありながら、かなり丈夫で、ナミコちゃんが手に持った時に「うわあ!かたーい♡」って言ってて、実はこっそり興奮してた、ステンレス製のスプーンを飴細工のように…

高円寺コウジ

そのスプーンの説明いる?

高円寺コウジ

おどろいたか?

本間マコト

いや、想定の範囲内だ

高円寺コウジ

ふん。負け惜しみを

本間マコト

私はスプーン曲げを信じていない。スプーン自体は物理的な力を加えれば曲がる。どうせ隙をついて力で曲げているに違いないのだ。

そこで君には体力テストをしてもらう

高円寺コウジ

ん!?

本間マコト

ここに握力計がある

高円寺コウジ

・・・どういうことだ

本間マコト

君の握力を測って、もし尋常じゃないくらい握力が強ければ、君は超能力者などではなくただのゴリラということの証明になる!

高円寺コウジ

どういう理屈だよ!てかもし俺が力を抜いたらどうすんだよ

本間マコト

いや君は必ず全力で握る

高円寺コウジ

どうしてそう断言できるんだ

本間マコト

握力テストで力を抜くことは、男のプライドが許さないはずだからな!

戦闘力も懸賞金も存在しない三次元の世界で、男子力を示すバロメーターは、握力のキロ数なんだよ!

少なくとも俺は力抜かない!

高円寺コウジ

なんてがばがばなテストなんだ…!

本間マコト

さあ!この握力計を握るのだ!

高円寺コウジ

くそぉ…。どうすれば超能力を証明できる…

高円寺コウジ

!?

高円寺コウジ

ひらめいたぞ

高円寺コウジ


うおおおおお!!!!!

本間マコト

よし。そこまでだ。どれ

本間マコト

48kg…。常人だな

高円寺コウジ

ふはは。常人だと…?俺は超人だ!

本間マコト

なにを!

高円寺コウジ

握力計をよく見てみろ

本間マコト

…?

本間マコト

はっ!!

本間マコト

針が回っていない!根元から折れ曲がっているだけだ!!なんてことだ。手を触れずに、握力計の針を曲げただと…

高円寺コウジ

どうだ!信じざるを得ないだろ。
ははは!!

本間マコト

くそぉ…。まだだ!こんなことで認めるわけにはいかん!どこかに穴があるはずだ…。

俺はあきらめんぞ。きっとお前がエセ超能力者であると暴いてやる!!

高円寺コウジ

楽しみだな。まあそんな日は、未来永劫来ることはないがな!ははははは!

本間マコト

それはそうと高円寺くん。握力計壊したね

高円寺コウジ

本間マコト

これ8000円するのよね。次の超能力者のテストにも使うつもりだったんよー。

…弁償ね

高円寺コウジ

えー。俺お金ないっすよ

本間マコト

はあ?

高円寺コウジ

うち貧乏なんすよ…。そもそもここへ来たのも、賞金目当てだったし…。

博士が街に張ったポスターに『超能力者であると証明出来たら、賞金1000万円』ってあったから

本間マコト

はあ?まだ透視の件は証明できてないし、お金はあげないよ

高円寺コウジ

えー。まじすか

本間マコト

握力計代どうすんのよ

高円寺コウジ

賞金貰うつもりで来たから、もう帰りの電車賃さえ…

高円寺コウジ

本間マコト

どした?

高円寺コウジ

8000円っすよね?

本間マコト

おう。8000円

高円寺コウジ

俺の実家からこの研究所まで片道の交通費が4000円なんすよ

本間マコト

高っ!!

高円寺コウジ

こんな辺鄙なとこに研究所作るのが悪いんじゃないですか

本間マコト

で、その4000円がどうしたの

高円寺コウジ

いや往復8000円で、丁度だなと

本間マコト

は?握力計と交通費、関係ないじゃん。

ばかなの?

高円寺コウジ

いやいやいや。だって交通費支給ってポスターに

本間マコト

高円寺コウジ

だから往復の交通費の8000円いらないんで、その分を弁償に充てるということで…

本間マコト

あー…。まあいいけどー…。
でもそうすると帰りの分の交通費もないんだろ?帰れなくね?どうすんの

高円寺コウジ

んーーー…。じゃあここに住みます

本間マコト

へ?

高円寺コウジ

ここに住みますよ。いいじゃないですか、博士は僕をいつでもテストできるし

本間マコト

えーーー。どうしようかなー…

高円寺コウジ

それ以外win-winに済ませる方法ないっすよ

本間マコト

せやな

高円寺コウジ

じゃそういうことで

本間マコト

お、おう…。よろしく


こうして超能力者・高円寺コウジは、

本間マコト博士、波ナミコとともに
『マジガチリアル物理学研究所』で暮らすこととなる。


今日もまた、
この研究所から無傷で帰る超能力者は生まれなかった。
そもそも彼は家に帰れなかった。



そのポテンシャルは十二分にあったにもかかわらず……。



彼の運命はいかに?
そしてナミコちゃんは夕飯までに帰ってくるのか!?

第1話 ※ちなみに助手のナミコちゃんは今日の炊事当番です。

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