《 バスの車内 》

主人公

(親の都合で、急に転校したが……。)

主人公

(まだ友達ができていない内に
修学旅行に行くってのは無謀だったか。
やっぱり休めば良かったな。)

主人公

(しかも、
バスの隣の席はこの女だし。)

斎院 美月(さいいん みつき)

…………。

主人公

(クールで綺麗なんだけど、
遊んでるっぽい感じだよな。)

主人公

(確か、この女の名前は……。
斎院美月だったよな?)

主人公

(クラスではいつも一人でいる上に、
すっげー派手だから目立つんだよ。
そのせいで名前を覚えちまった。)

斎院 美月(さいいん みつき)

ねえ、さっきから何見てんの?

主人公

えっ!
い、いや、見てねーよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

嘘つけ。
アホ顔でボーッと見てたじゃん。

主人公

ア、アホ顔って……。
失礼な奴だな!

斎院 美月(さいいん みつき)

……チッ。

主人公

(うわっ!
こいつ舌打ちしやがった!
性格最悪だな……。)

斎院 美月(さいいん みつき)

…………。

主人公

(おいおい、イヤホンつけちまったよ。
俺と話したくないってわけか。)

クラスメイトA

×××だって!
ウケるだろ?

クラスメイトB

あははっ、何それー!

クラスメイトC

こいつマジ×××だよな~

クラスメイトB

ヤバイってそれ~!

主人公

(後ろの奴らは楽しそうだな……。)

斎院 美月(さいいん みつき)

ねえ。

主人公

な、なんだよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

暇なんだけど。

主人公

知るか。
一人で曲でも聴いてろよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

バーカ。
暇だから、なんか話せって言ってるの。

主人公

俺は芸人ではないんでね。
お前が好むようなおもしろい話なんか
できねーよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

はっ?
なんでアンタに
おもしろさを求めなきゃなんないの?

主人公

だって、なんか話せって言っただろ。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタみたいに冴えない男に、
最初っからおもしろさなんて
期待してないけど。

主人公

(うわ、生意気な女。)

主人公

じゃあ、聞くけどさ……。

斎院 美月(さいいん みつき)

何?

主人公

なんでお前って、
クラスのみんなと喋らないんだ?

斎院 美月(さいいん みつき)

……悪い?

主人公

別に悪くありませんけど?
俺みたいな冴えない男と話すよりは、
クラスのみんなと話した方が
楽しいんじゃないか?

斎院 美月(さいいん みつき)

私……苦手なんだよね、
ああいう明るい子たち。

主人公

え?

斎院 美月(さいいん みつき)

私さ、外見が派手でしょ?
遊んでる風に見えるじゃん。

主人公

…………。

斎院 美月(さいいん みつき)

髪の色が明るいのは生まれつきだし、
笑顔が苦手だからいつも無表情
決め込んでるだけなんだけど……。

斎院 美月(さいいん みつき)

子供の頃から、周りの子達に
『怖い』って言われ続けたせいで、
いつの間にか
友達を作るのが苦手になっちゃった。

主人公

そうだったのか……。
でもさ、なんで俺とは
話そうと思ったんだ?

斎院 美月(さいいん みつき)

なんか暗そうだから。

主人公

てめえ……。

斎院 美月(さいいん みつき)

まっ、ちょっと優しそうだな
とも思ったけど。

主人公

へっ?

斎院 美月(さいいん みつき)

…………。

主人公

な、何見てんだよ。

主人公

(こうして改めて見ると、
かなり美人だよな……。)

主人公

(目がでかくて、肌もすげーキレイで。
まつ毛も長いし……。)

斎院 美月(さいいん みつき)

ねえ、じっとして……。

主人公

え?

主人公

(唇に柔らかい物が……。
今、俺……。
キスされたのか!?)

斎院 美月(さいいん みつき)

フフッ、情けない顔してる。
驚いた?

主人公

ば、バカ!
誰かに見られたらどうすんだ!

斎院 美月(さいいん みつき)

みんな、
こっちの事なんて構ってないよ。

主人公

いや、しかしだな……。

斎院 美月(さいいん みつき)

みんなに内緒でキスすんのって、
ゾクゾクしない?
クセになりそう

主人公

(確かにちょっとゾクゾクして
良かった……。
というか、かなり良かったけど。
でもこれはマズイだろ!?)

主人公

お、お前は一体何を考えてんだ?
誰とでもこういうことするのか?

斎院 美月(さいいん みつき)

するように見えるんだ?
私がそういう女に見えるわけ?
ふうーん……。

主人公

(あっ、そっぽ向いた。)

主人公

なんだよ、感じ悪いな

斎院 美月(さいいん みつき)

今ので私、
結構傷ついたんだけど

主人公

あっ……悪い。
今のはお前を傷つけるつもりで
言ったわけじゃなくて……。

斎院 美月(さいいん みつき)

じゃあ、どういうつもりで言ったの?

主人公

ビックリしたんだよ。
女の子とキスするのなんて
初めてだったから!

斎院 美月(さいいん みつき)

へえー。
じゃあ彼女はいないんだ?

主人公

くそっ、ニヤニヤすんな。
悪いのかよっ!

斎院 美月(さいいん みつき)

悪いなんて言ってないじゃん?
本当ネガティブなんだから

主人公

そういうお前はどうなんだよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

はっ?
何が?

主人公

か、彼氏とかいるのかよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタに関係ないじゃん。

主人公

お前なあ……。
人に聞いておいて
それは無いだろ。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタに関係あるって言うなら、
教えてやっても
良かったんだけどなあー?

主人公

えっ……。
そ、それはつまり、
どういうことだ?

斎院 美月(さいいん みつき)

それくらい自分で考えな。

主人公

ぶっちゃけ、
俺の彼女になって欲しいって言ったら
付き合ってくれるって意味か?

斎院 美月(さいいん みつき)

そんなわけねーだろ。

主人公

クッ……。
期待させやがって本当ムカツク。

斎院 美月(さいいん みつき)

可能性が無いとは
言ってないけどね?

主人公

はいはい、
またそうやって
俺をおちょくる気なんだろ?

斎院 美月(さいいん みつき)

さあー、どうだろ?

主人公

(この笑顔、どっちなんだ……。)

主人公

(だけど、期待なんかしたら
またおちょくられるのがオチだ!
平常心、平常心!)

斎院 美月(さいいん みつき)

おーい。

主人公

…………。

斎院 美月(さいいん みつき)

聞こえてんでしょ?
返事しろよ

主人公

……なんだよ

斎院 美月(さいいん みつき)

これからの自由行動、
私について来いよ?

主人公

へっ?

斎院 美月(さいいん みつき)

返事は?

主人公

は、はい!

主人公

(修学旅行の間、
ずっとこいつに振り回されそうだな……。)

主人公

(とか言ってる間にバスが到着して、
あっという間に自由時間に
なってしまった。)

斎院 美月(さいいん みつき)

……で。
どこに連れてってくれるの?

主人公

俺まかせかよ!
ノープランなのかよ!

斎院 美月(さいいん みつき)

当たり前じゃん。
なんで私がアンタのために
観光プラン立てなきゃいけないわけ?

主人公

そっくりそのまま言い返すぞ。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタさあ……。
私を彼女にしたいんでしょ?
デートコースくらい決められなくて
どうすんの。

主人公

か、彼女にしたいとは
言ってない……。

斎院 美月(さいいん みつき)

あ、そ。
したくないんだ?
だったら別にいいけど。

主人公

あ、いや……。

斎院 美月(さいいん みつき)

どっちなんだよ。
煮え切らないなあ。

主人公

クソッ!
俺はもう、お前には期待しないって
決めたんだよ!

斎院 美月(さいいん みつき)

わけわかんないなあ。
……あ、水族館に行こう。

主人公

突然なぜ水族館?

斎院 美月(さいいん みつき)

だってそこに看板があったから。
ここからバスで行けるみたい。

主人公

えー、でも水族館なんて
わざわざ旅行先で
行かなくったっていいだろ。

斎院 美月(さいいん みつき)

いいから行くよ!
私はイルカが見たいの!!

主人公

はいはい……。

主人公

(どうせどこに行くか決まってないし、
まあいいか。)

斎院 美月(さいいん みつき)

わあー!
すごーいイルカ!!
かわいい!

主人公

(こいつって普通の女の子みたいに
はしゃいだりするんだな……。
ちょっと可愛いとこあるじゃないか。)

斎院 美月(さいいん みつき)

ねえ、今のちゃんと撮った?

主人公

……は?
撮ってねえよ。

斎院 美月(さいいん みつき)

はあ~??
最悪!
イルカのショーっていったら、
写真撮るのが常識だろ!

主人公

そう思うなら自分で撮れ!

斎院 美月(さいいん みつき)

スマホ越しでイルカ見るなんてヤダ。
だから、アンタが写真撮る係ね。

主人公

な、なんつうワガママ女だ。
可愛いとか思って損した。

斎院 美月(さいいん みつき)

……今、なんて言った?

主人公

な、何も言ってません!

斎院 美月(さいいん みつき)

まさか『可愛い』とか
言わなかった?

主人公

(なんかわからんが怒っている?)

主人公

す、すまん……。
イルカ見てはしゃいでるお前が、
ちょっとだけ可愛いなと思って……。

斎院 美月(さいいん みつき)

ふうーん……。

主人公

あれ?
なんか顔が赤くないか?

斎院 美月(さいいん みつき)

うるさい。
赤くなってない。

主人公

おやおや?
照れちゃったのかな~?

斎院 美月(さいいん みつき)

ウルセー。
ウザイから今すぐ死ね!

主人公

ひいっ!

主人公

(こ、怖い……。)

斎院 美月(さいいん みつき)

ふんふん♪

主人公

イルカのぬいぐるみなんか
買っちゃって。
ガキくさいな、お前。

斎院 美月(さいいん みつき)

いいじゃん、かわいいんだから。
それに、イルカはアンタより
ずっと頭いいんだよ。

主人公

ひどい。

斎院 美月(さいいん みつき)

ねえ……。
水族館、つまんなかった?

主人公

へっ? なんで?

斎院 美月(さいいん みつき)

だって、
ずっとつまんなそうな顔
してたから……。

主人公

そんなことねえよ。
お前がアホみたいに浮かれてるの見てたら
結構おもしろかったし。

斎院 美月(さいいん みつき)

なんだそれ。
殺すぞ。

主人公

ひいい!
女の子がすぐ
殺すって言うんじゃありません!!

斎院 美月(さいいん みつき)

じゃあ、次はどこに行く?

主人公

うーん……。
駅に観光マップが有ったから、
持って来たけど……。

斎院 美月(さいいん みつき)

じゃあ、その中から行く所決めてよ。
さっきは私が決めたんだからさ。

主人公

じゃ、じゃあこの
『なまこ壁の家』というのを
見に行ってみよう!

斎院 美月(さいいん みつき)

えーっ?
何それつまんなそう。

主人公

つまんなそうって言うな!
よくわからんが
歴史のある建築物なんだぞ!

斎院 美月(さいいん みつき)

別に行ってもいいけど……。

主人公

(……で。
その『なまこ壁の家』とやらに
到着したわけだが。)







主人公

この家を見たからといって、
何があるというわけでも
無さそうだ……。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタが行きたいって
言ったんじゃん。

主人公

い、いや!
中を見学したら
おもしろいかもしれないぞ!

斎院 美月(さいいん みつき)

えっ?
これ、中に入っていいの?

主人公

そりゃあ、
観光名所にしてるくらいだから
内部も見学できるだろ。
さあ、入るぞ。

 

ふう、買い物に行こうかね……。

主人公

……あっ。

斎院 美月(さいいん みつき)

家の中から、
思いっきり住民っぽい
お婆ちゃんが出てきたけど?

主人公

玄関には家主の持ち物と思われる
自転車が置かれてるし……。

斎院 美月(さいいん みつき)

普通の民家を観光名所にしてる
みたいだね。

斎院 美月(さいいん みつき)

まあ、白川郷みたいなもんかな。
あそこの家も人が住んでるしね。

主人公

はあ……。
俺ってダメだな……。

斎院 美月(さいいん みつき)

急に何?

主人公

お前が行きたいって言った水族館は
結構楽しめたのに、
俺が行きたいって言った場所は
つまんねえし……。

斎院 美月(さいいん みつき)

アンタさあ。
それってここの観光協会の人たちに、
ビミョーに失礼じゃない?

主人公

いや、でもさあ……。
全然リードできてないし、
こんなんじゃ彼女なんて
一生できないよなあ。

斎院 美月(さいいん みつき)

一生は言いすぎだろ。
女々しいなあ。

主人公

お前だってイヤだろ?
こんな女々しくて
計画性の無い男。

斎院 美月(さいいん みつき)

なんでなまこ壁の家を見たくらいで
そんなにネガティブになってんだよ!
なまこ壁に失礼だろ! 謝れ!

主人公

はい……。
すみません、なまこ壁さん……。

斎院 美月(さいいん みつき)

本当に謝ってるし……。

斎院 美月(さいいん みつき)

しょうがないなあ。
私が彼女になってやっても
いいけど?

主人公

……えっ?
マ、マジか?
本気にするぞ?

斎院 美月(さいいん みつき)

ただし、条件があるから。
これから修学旅行が終わるまでの間、
私を楽しませることができたらね!

主人公

な、なんとか頑張ってみる。

斎院 美月(さいいん みつき)

『なんとか』じゃなくて、
『一生懸命頑張ります!』
……でしょ?

主人公

は、はい!

主人公

(やれやれ。
このワガママお姫様を、
満足させられることができるだろうか?)




●おしまい●

美人だけど生意気な女に振り回されて、俺は怒ればいいのか喜べばいいのか……。

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