あれは十年前のことでした……
ケガの調子はどうだ。大五郎
ええ、おかげさまで
銃で撃たれたのによく生きていたな
弾がたまたま当たったんですよ
友人の形見のこのペンダントにね……
弾がたまたま……
そっちを拾わないで下さい
ふつうペンダントのほうに興味をもつでしょ
この流れなら！
そうかな
あまりペンダントとかに興味はない
警部、こういうときは話を聞いてあげるものでしょう
あっ、僕を撃った人！
あ、その節はどうも
どうもどうも
……って
どうもじゃないだろうどうもじゃ！
人を撃っておいて！
殺す気か！
ぶっちゃけ、わりと殺す気でした
……まあ、いいですけどね
この友人の形見のペンダントが僕を守ってくれたので
そんなにそのペンダントのことが話したければさっさと話せばいいだろう
話の自然な流れというものがあるでしょう！
実はこのペンダントは……
あれは十年前のことでした……
いたぞ！ 若者だ！
ひ、ひいっ、見つかった！
ヒヒヒ、久しぶりの獲物じゃああ……
運が悪かったな、若者よ
このカニバリズム老人村に迷い込んだ者は……
わしらの若さを保つための生け贄になる！
くっ
なんでこんなことになってしまったんだ？
たしかに密室殺人の気配がしたのに……
村の近くで大量の人骨が発見された事件を調べていたら、まさか村ぐるみで人間狩りをする食人農村だったとは……
表向きはふつうの農村、しかし裏では若者たちを襲って食う、半農半カニバルというわけじゃ。
ひひひ……
くっ、近づかないでください！
能力を使いますよ！
ぼ、ぼくは能力者なんだ
一般人のかなう相手じゃないぞ
何を能力バトルものみたいなことを言っておるんじゃ
今の流行は日常系ファンタジーものと異世界ものじゃ
うるさい！ 流行のテンプレートに乗ってばかりいるんじゃない！
……
やばいな、殺されるかも
実際のところ、能力者だって刺されたりすればふつうに死ぬからなあ……
殺してやる！
ひいっ
うっぎゃあああああああ！
何者かに撃たれたあああああ
うぎゃああああああ！
ぎょええええええ！
ぎゃああああああ！
銃声？ い、一体何が……
やあ、大丈夫だったかい、全裸の人
た、助けてくれたんですか。どうも
どうもどうも
とかいいつつ後じさってるね
心配しなくてもいいよ。ボクは……
う……ううう……
ぎゃああああああああああ！
モグモグ、ゴクゴク、ぷっはー
ボクはお年寄りしか食べないからさ！
こ、こっちも食人の人おおおおおおお！
もぐもぐ
いやあ、鍋はおいしいなあ
……食べないの？
さ、菜食主義なんです。ぼく
ビーガンなの
そう、じゃあ豆腐を食べなよ
いやあ、今日はおたがいラッキーだったね。今日はボク、別のところに狩りに行くつもりだったんだけど
なんとなくフラッっとこっちに来てみたんだ。そしたら君は助かったし、ボクは大漁だったし。
「荷物」を運んでもらえたから大助かりさ
そ、そうですな
ボクの「能力」が発動したみたいだな……
ああ、そうだ
さっきの獲物が持ってたんだけどさ、これ
あげるよ
あげる
ど、どうもどうも
……というわけなんですよ
……
それ、友人の形見というか、人食いしてたじいさんの形見ってことだろ
ああ、そうですね
そういうことです。友人はまだ生きてます
ようするにそのペンダント、べつに感動的でもなんでもない、ただの掠奪物だろ
それに弾がたまたま当たったと
いえす
世の中えてしてそういうものです
謎もクソもねえな
いや、謎はあるんですよ
明らかに密室殺人の臭いがしたのに、密室が見つからなかったんです
なんだよ密室の臭いって
僕ぐらいのマニアになると、密室殺人の場所がわかるんですよ
じゃなかったら、密室殺人の現場に何度も居合わせたりできるワケがないでしょう
あの日以来、今でもあの密室の気配をフッと感じることがあります
いったい密室はどこにあるのか……それが最大のミステリーなのです
……
……
……
……ドラッグでもやってんのかな、こいつ
失礼な！
……
あの、全裸大五郎さん
なんですか、人撃ち婦警
その……ペンダント開けてみたらどうかしら
え？ ああ……そういえば開けてみたことなかったな……
パカッ
……
げえっ、中にミイラ化した小さな死体が！
こ、これは！ なんという……
一体どうやってこんな密室を……
ハアハア、興奮してきた
大五郎、隠せ隠せ
ようやく私の密室を見つけたようだな！
全裸大五郎！
げえっ、敵の刺客！
わたしの名は「人間ちぢめひとごろし大好き女」！
わたしの能力「縮小」で今日こそ貴様は死ぬ！
くっ、僕が密室を見つけるまで待ってたのか
射殺しろ
すいません警部、銃は取りあげられていて……
む、銃がないと射殺は無理だな
ウヒヒヒ！ 死ね大五郎！
くっ……
やっほう、大五郎くん、来たよー
この、高原ナイチンゲール涼子が！
しかも、お見舞いにな！
あっ、高原さん！
なんか盛りあがってるね。食人？
なんだ貴様！ 貴様から血祭りにあげてやる！
高原さん！ 危ない！
あ、こいつ敵なの？
奥義！ 大斬首外道剣！
ウッギャアアアアアアアアアア！
手刀の一撃で首が切断されたアアアアア！
こ、殺した
モグッ、モグッ
食っとるうううううううう！
いえーい
高原ナイチンゲール：
フルネームは「高原・サリバン・マザーテレサ・ガンジー・ナイチンゲール・涼子」である。
平和的な人格になるように親が願ってつけた名前だったが、名前のカルマが強すぎたのか、逆に人を殺すことを何とも思わない人肉食大好きの外道になってしまった。
好きなガムの味はブルーベリー
この病院でこれから密室殺人が起こるさ！
えっ
やったー！
