ちょっとタダシ! トイレは座ってして、ってあれだけ言ったのに!!

ちゃんと拭いただろー

拭けてない! まじ汚いから、立ちションやめて

ちゃんと飛び散らない角度とポイント研究して出してんだよ!

そんなこと研究する暇あったら仕事探したら?

う、うるさい……!

もう金輪際、立ちションはやめてね

はあ? 立ちションくらいさせろよ! 男の特権ぞ。男らしさの象徴ぞ

はい、時代錯誤のジェンダー発言来ましたー

悔しかったら、おまえも立ちションしろよ

しませんー。そんな立ちションごときでしか『男らしさ』を誇示できないような男の言うことなんか聞きませんー

立ちション馬鹿にすんなよー? おまえ小便小僧見てみろ。あの威風堂々とした立ち振る舞い。美しい放物線を描く水の軌道。芸術だろ。人間の本質的な美しさの具現だろ

小便小僧とか全裸の子供でしょ? 露出狂じゃん。迷惑防止条例違反じゃん。児ポじゃん

ふざけんな。俺は小便小僧になるッ!!(ドン!)

ちょっと間ぶっ飛ばしすぎじゃない? なんで小便小僧になるわけ

理由なんていらないだろ! なりたいもんはなりたいんだよ

わけわかんない。勝手にすれば

あー!言われなくとも勝手にしますとも

こうしてタダシは家を出て行った。


~半年後~


ようやく念願の小便小僧になれた!

でも、銅像だからしゃべれないし、身体はもちろん、アソコも動かないから、尿のベクトルをコントロールすることもできない……

ああ……。ミチコはどうしているだろう。ひどい別れ方をしてしまった。思えば完全に俺が悪かったんだ。俺が自己チューなせいで

……!?

あの横断歩道を渡ってくる赤いハイヒールの女性……。ミチコだ!!

ああ……、タダシ。あなたはどこへ行ってしまったの。思えば私も悪かった。あの人の唯一の趣味である立ちションを否定してしまった私が悪かったの


ミチコ!! 俺はここにいるよ!


タダシの強い思いが通じたのか、ミチコとタダシの目があう。

……!?

ああっ!ミチコ、気付いてくれたのか。俺が悪かっt





ミチコのハイヒールが宙を走った。
鉄塊を仕込んだつま先部分が小便小僧の首元を抉り取る。

支えを失った頭部は宙を舞い、やがてアスファルトに音もなくめり込んだ。
首なしの銅像は噴水と化し、延々と水を上方へと吐き出した。


タダシと別れて半年。彼女は復讐の鬼と化していた。
夜な夜な街を彷徨い歩いては、恋人を奪った憎き「小便小僧」を狩り続けていた。

亡きものにした小便小僧の数は、ついに200体を超えた。
鍛え上げられた彼女の肢は、もはやバイオロジーでは説明できないほどの強靭さとしなやかさを備えていた。
一蹴りすれば、その衝撃波は地を揺らし、鋼鉄をも砕いた。

街の者たちが、異変に気付かぬはずがなかった。
夜が明け、目覚めれば、朝日に照らされた無残に崩壊した小便小僧が嫌でも視界に入るのだ。

彼らはこの異常事態を恐れ、やがてその正体不明の「鬼」を畏れはじめた。あるものは神として崇め、あるものは忌むべきものとして話題にすることさえ禁じた。


そして彼らは、その鬼をこう呼んだ。


S(小便)K(小僧)K(killer)

SKK、完。

「立ちションについて」で喧嘩する同棲カップルの話。

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