夜の公園。

自販機の明かりに照らされたベンチ。



何やら男子大学生二人が恋愛話に花を咲かせているようです……。

横山さんっておるやん。ゼミに

おう。みさきちゃんな

なんで下の名前で呼ぶん、お前

だって中学、高校いっしょやもん

は? まじか。

んで、みさきがどした?

呼び捨てすんなし。 ……いや、その彼氏とかおんのかな、とか思ったり

だめ

……はあ?

みさきちゃんはだめ。やめとけ

なんでや

いややめとけって

なんでそんなむきに……。あ。おまえもしかして

はあ? ちがうちがうちがう

なんやー。おまえもねらっとったんかー。まじかー

いやちがうて

うそこけ。違うならそんなむきになる理由ないやろ

いやちがうけど。でもみさきちゃんはまじでだめ

まじなんなん! じゃあ理由言えや

……理由?

そう理由

いや、その……

なんだよ。言えよ

言っていいんかな……

はよ

誰にも言うなよ

わかったって。はよ

みさきちゃんな、

おう

みさきちゃんは、

おう

……モンスターなのよ

………。うぜー。なにそれ面白いとでも思ったの。もっとましな嘘付けや

いやまじだから

横山さん天使やんけ。モンスター呼ばわりすんなや

いや天使も広義のモンスターだから。カテゴライズされるから

そこどうでもいい。確かに横山さんのかわいさはモンスター級やけども

俺、冗談言ってないからね

はあー? まじもういいから

みさきちゃん、いつも”くそ”長いネイルしてるじゃん?

くそ、言うなや。まあ確かに、かなり長い、つけ爪してるけど。いや、でも見た目清楚系なのに、何気にネイル凝ってるとことか、得点高いっしょ

あれ自爪だかんね

はあ?

切っても、切っても一晩であそこまで爪伸びんのよ

そんなわけあるかい! 初夏のタケノコかよ

おまえ例え下手やね

ここでまめ知識じゃ。竹は日に最大1メートル伸びることもある、最も成長スピードの速い被子植物の一つじゃ

おまえだれだよ

そんな他人よりちょっと爪伸びるスピード速いくらいでモンスター呼ばわりすんなや。おまえも髪伸びるの異常に速いじゃん。おまえもモンスターかよ

俺、変態だから。エロい人は髪伸びるの速いから。

……お、おう。そうか。なんかすまん

みさきちゃんも髪伸びるの速いから

おう! そうか。なんかありがとう

あとみさきちゃん、火吐くからね

火遁豪火球の術かよ

印とか要らないからね。ノーハンドだからね

うそつけよー。見たことねーぞ、火吹いてることなんて

いやまじだから。くしゃみとかすると出るから

いや確かに横山さん、口押さえて『グェッ』って変なくしゃみするけど。わし掴みされたヒキガエル(♂)みたいな声出すけど

例え下手やね(2度目)

ここでまめ知識じゃ。ヒキガエルのオスは、別のオスに誤って抱きつかれた場合、リリース・コールと呼ばれる鳴き声で相手の誤りを正すのじゃ。人間が掴むことで、この鳴き声を発することもあるぞ

帰れよ、おっさん

俺も横山さんのリリース・コール聞きたい

いやそれ拒否られてるからね

他にあんのか、根拠。言ってみろや

尻尾あるからね。先っぽ尖がった、長いやつ

はは。流石にそれはない。どんだけ横山さん見続けてきてると思うわけ? 全くおんなじ講義履修して、いつも右斜め後ろの席から見てるから。食堂でいつも日替わり定食食べてるのも知ってるし、興味ないけど、アーチェリー部入ったからね。横山さんいるから。めっちゃ先輩厳しいし、金かかるからね

引いた……

尻尾なんてあるわけないじゃん。見たことないもん

隠してるから

どこによ

そら、……パンティの中に、よ

おまえ見たことあんのかよ。……いや見たことあったら、それは許されざることだけどさ。おまえに、横山さんのパンティの中身見る権利ねーから。あるならその権利20万で買う

金額リアルやな

尻尾はないわー

あれだから、心を許した人の前でしか見せないやつ

まあ、パンティの中にあるんやったらそうなるわな

でもほんとだからね

はいはい

信じてないやろ

当たり前じゃんか

俺、幼馴染だから知ってんのよ

……わかった

……?

負けたよ

はい?

おまえがそんなに横山さんのこと好きだと思わんかった

いや、好きじゃないって

もういいって。悪かったな。まあ幼馴染だもんな。思いの強さが違うわ

いやいや、だから

まあそんな見え透いた嘘つくくらい、横山さんのこと好きなんだもんな

いや全部まじだから

ごめんな

……謝んなよ

まあいいや。頑張れよ

いや……。え、あ、……うん

へへ。……知ってるか。ゼミの大石さん、モンスターなんだぜ

は?

乳でかモンスター

いや彼女はモンスターじゃない、人間

えー、違うのー? あのでかさはやばいっしょー。モンスターでしょ。大石さんも悪くないなあー

そうだな。彼女人間だし

ははは。おまえのモンスター認定の基準がわかんねーよ。……行くか。うちで宅飲みしようぜ

おう




立ち上がった二人。

宅飲み会場の家に向かいます。



しかし先を歩く彼は気付いていない。
これからも知ることはないでしょう。




後ろをついてくる友人のズボンの裾から、

先のとがった尻尾が覗いていることに。

大学の友人が、「あのコはモンスターだからやめとけ」と忠告してきた。

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