国王から魔王討伐の依頼を受け、テンプレート的な展開で依頼を引き受けてしまった勇者。
数々の難敵やボスを倒し、行く村行く町の厄介ごとを片付けながら、剣士、賢者、魔導士といったテンプレート的な仲間を加え、ようやく魔王が住む城、魔王城に到着した。
魔王城の中にも護衛モンスターが多数おり、ちぎっては投げちぎっては投げる快投により、勇者パーティーはとうとう魔王城の最上階、魔王が居座る魔王の玉座に到達した。
国王から魔王討伐の依頼を受け、テンプレート的な展開で依頼を引き受けてしまった勇者。
数々の難敵やボスを倒し、行く村行く町の厄介ごとを片付けながら、剣士、賢者、魔導士といったテンプレート的な仲間を加え、ようやく魔王が住む城、魔王城に到着した。
魔王城の中にも護衛モンスターが多数おり、ちぎっては投げちぎっては投げる快投により、勇者パーティーはとうとう魔王城の最上階、魔王が居座る魔王の玉座に到達した。
ここか、魔王の部屋は!
最終護衛モンスターを倒し扉を開くと、まるで勇者を待ちわびていたかのように、魔王はその玉座で笑っていた。
ふはははは、よく来たな勇者たちよ。
だが、お前たちもここまでだ。
出たな魔王!
お前を倒して、世界に平和を取り戻す!
あなたの悪事もここまでよ。
さあ、観念なさい!
護衛はすべて倒しました。あとは貴方一人です。
身構える勇者パーティ。対して、魔王は余裕のある声で笑う。
ほほう、威勢のいい奴らだな。ここで殺してしまうのは惜しい。
そうだな……勇者よ、一つ提案があるのだが……
提案? 今更何を提案するっていうんだ?
なあに、簡単なこと。
勇者よ、私と手を組まないか?
私と勇者、二人で手を組めば、世界を支配することなどたやすいことだ。
な……この期に及んで、何を言うのかしら?
タダとは言わん。私と手を組んだあかつきには、世界の半分をお前にやろう。
どうだ、悪い話ではないだろう?
はぁ? 何を言っているの?
そんなの、断るに決まっているでしょ?
ったく、まさか今時こんなことを言う魔王がいるとは……。
勇者様、あのバカ魔王にはっきり言ってやってくださいよ。
ん、そうだな……
……
……
……ちょっと考えさせてくれ。
……え?
か、考えるって……
ちょ、ど、どういうことですか!?
思わぬ返事に、混乱する剣士、賢者、魔導士をよそに、勇者は何故か考えるそぶりをする。
よし、わかった、魔王よ、お前と手を組もう!
は、はぁ?
ゆ、勇者、なにを言っているの?
魔王と手を組むということが、どういうことか分かっているのですか?
勇者の言葉に、言葉を失う三人。
は、はーっはっはっは、良い判断だ。さすが勇者、話が分かるな。
一度言ってみたかっただけなんだが、まさかOKされるとは……。
……しかし、条件がある。
ん、何だ?
俺にも守るべき家族がいる。魔王の支配下に置かれたことによって、不自由な暮らしをさせることは我慢がならない。
せめて、俺が支配する地域だけは俺自身で決めさせてくれ。
なるほど、それもそうか。まあよかろう、好きなところを選ぶがよい。
ありがとう、ならば、お前と手を組もう。
よし、これにて契約は成立だ!
魔王が勇者に手を差し伸べると、それに応えるように勇者は魔王の手を握り返す。
その瞬間、目がくらむほどにあたりがまぶしくなる。
な、何よこれ!
勇者様が……
くっ、乱心してしまったか!
こうなったら、俺たちで勇者様ともども、魔王を止めるしかない!
まぶしさが収まると、すぐさま剣士は魔王に切りかかり、魔導士は呪文を唱え始める。
ふん、勇者と私の契約は成立したのだ。
他の奴は消えてもらおう。
食らえ! 《魔獄の火炎流(メギド・ストリーム》!
魔王が左手を振り下ろすと、すべてを押し流す勢いで現れた炎が剣士たちを焼き尽くす!
くっ、う、うわぁぁぁぁぁ!
そ、そんな……こんなに力の差があるなんて……
ダメ! 防ぎきれない!
炎の勢いに飲まれ、剣士たち三人はその場で倒れ込んだ。
ふん、他愛もない。これでは勇者が見放すのも無理はないな。
……
さて、立ち話もなんだ、食事でもしながら、今後の話でもしようではないか。
そう言うと、魔王は指をパチン、と鳴らした。
すると、今までいた魔王の部屋から、大きな机のある食堂へと移動した。
テーブルには、すでに肉や果物といったごちそうが並べられている。その周りには、魔王の手下と思われるモンスターが、三又の槍を持って並んでいた。
給仕を務めていると思われる、ガーゴイルのようなモンスターがワインのボトルを持って来ると、魔王の席にあるワイングラスに注ぐ。
さあ勇者よ、今日は私と勇者が手を組んだ記念すべき日だ。
たっぷりと食事を楽しむがよい。
うむ、いただきます!
給仕のガーゴイルがワインを注ぐのを待たず、勇者は肉にかぶりつく。
まあ待て、腹が減っているのはわかるが、まずは乾杯からだ。さあ、グラスを取れ。
ああ、そうだったな。では……
私と勇者の未来に
乾杯!
魔王と勇者はお互いグラスを軽くぶつけ合うと、飲み物をくっと口にした。
おお、この肉うまいな。
人間の世界では食べたことないぞ?
フフフ、我が畜産部隊による品種改良を行った牛の肉だからな。人間の作るものとは格段に違うであろう?
ほぉ、なるほど。こんな技術があったとは……
どうだ、魔族もなかなかのものだろう?
おお、この果物もうまい!
こんなものを毎日食ってたのか?
魔王の言うことも聞かず、勇者はムシャムシャと食事を続ける。
……ところで、支配する地域がどうのこうのと言っていたが、一体どこをしていすると言うのだ?
魔王が指を鳴らすと、そばにいたガーゴイルが地図を持ってきて魔王に渡す。
それを、テーブルに広げ、勇者に尋ねた。
ああ、そのことだが……
勇者は地図を見ると、こくりと頷く。
この世界の陸地すべてと、国の領海すべてを貰おう!
……え?
いや、この世界は陸地が3割、海が7割だから、陸地だけでは半分にならない。だから領海を貰えば大体半分になると思うのだが……?
い、いや、そうではなくてだな、つまり私の支配下は海しかないということになるのだが?
うむ、そうなるな。
アホか! 陸地が無ければ意味がないだろう!
なんだ、陸地が必要なんだ。なら、南極大陸くらいは残してやろう。
人がいなければ意味が無いだろう! 何を言っている!
え、いや、こっちが指定した場所を半分くれるという約束だろう?
場所を指定させてくれると言ったのは魔王の方ではないか。
その条件で俺は契約したわけだが……
ダメだ、そんな契約無効だ! 認められるか!
ほぉ……魔王自ら契約を結んでおいて、契約を破棄するというのか?
魔王が机を叩いて立ち上がると、グラスが倒れ、入っていたリンゴジュースがこぼれた。
私はそんなつもりで契約したつもりはない!
せめてもの便宜を図ったつもりだったのだ!
こんなこと、契約破棄以前の問題だろう!
ふぅん、そうか。
別に、そっちがその気なら、別に契約破棄でもいい。
だが、それでいいのか?
……はぁ? どういうことだ?
契約破棄するなら、こちらにも考えがある、ということだ。
かじりかけた果物をテーブルに置くと、勇者はゆっくりと立ち上がる。それを警戒し、ガーゴイルたちは武器を構えた。
俺たちの冒険は、魔王を倒すことで終わりを迎えるはずだった。魔王を倒すことで、支配された魔物や人間たちは解放され、それぞれ平和に暮らす。魔王を倒すことで、平和を取り戻すことが、俺たちの使命だ。
しかし、もし俺たちが魔王を倒さなければどうなるだろう?
魔王に支配された魔物たちは、きっと悲惨な生活を強いられるに違いない。
……どういうことだ?
契約破棄をした場合、俺たちは魔王に戦いを挑む。だが、完全には倒さず、生きたまま捕える。そして、人間たちの前でみじめな姿を晒すことになるだろう。
魔王の手下たちは人間の支配下に置かれ、魔物たちは害獣として退治されたり、見世物にされたりするだろう。
肉が旨いなら、食用にもされるだろうな。
なっ……そんなこと、出来るわけが……
出来るさ。何しろ俺たちのパーティーは全員LV99(レベルカンスト)だし、魔王を倒すなんてわけはない。
仲間がやられたのは、俺が仲間の動きを封じてステータスを下げたからだし。
それに、あまり表だって活動はしていないが、国の兵士たちも指導して鍛え上げたからな。
そうだな……この城最強の手下である、アークデーモンくらいなら、兵士一人であっさり倒せるレベルだ。
そんな兵士が一万もいるのだぞ?
なっ……し、しかし私の軍はそれだけでは……
どこかに秘密のダンジョンと隠しボスがいる、とでも言いたげだろうが、そんなの俺たちのパーティーで楽勝で突破できるぞ。隠しボスだって、剣士の攻撃三発耐えきれれば大したものだ。
これほどの戦力差があるのだから、魔王側に勝ち目などない。
それでも、契約破棄するというのか?
ぐっ……だが、それほどの戦力差があろうとも、そんな条件、飲むわけには……
ほぉ、まだそんなことを言うのか?
さすがにラスボスの魔王様は、言うことが違うらしい。
当たり前だ! そんな要求を簡単に飲めるわけないだろう!
はぁ……まるで状況がわかっていないようだな。
あ、そうだ、魔王よ、お前には一人娘がいたな。
この際娘は関係ないだろう。
いやいや、あれは人間から見てもなかなかの美人だ。
存在を知った兵士の中には、捕えて監禁しようと考える者もいたし、独身を貫いてきたこの国の王子様も、魔王の娘なら結婚したいと言い出すほどだ。
もし魔王が捕えられたら、お前の娘はどうなると思う?
なっ、貴様ら、魔族の娘に手を出す気か!?
そうなることも容易に想像できるだろう。
何しろ兵士たちは、禁欲生活でいろいろと飢えているからな。
女なら魔族だろうがなんだろうが、手に出せるなら出すだろうさ。
もちろん、いくら魔族といえど、屈強な男たちの前では手も足も出まい。
あ、そうだ、いいことを考えた。
魔王を瀕死にして民衆の晒し者にするついでに、娘を目の前で凌辱するというのはどうだろう?
「お父さん、助けて!」と泣き叫ぶ娘を前にして、何もできずに涙を流す魔王。最高のシチュエーションではないかい?
……お前は悪魔の血が流れているのか?
いや、むしろ悪魔ではないのか?
いや、魔王の子供ではないのだが?
んなこと、分かっておるわ!
……で、契約破棄するの? しないの?
……
……
……わかった、その条件を飲もう。
さすが魔王、ようやく俺の話を理解してくれたようだな。
だからその右手に握っている私の部下を放してやってくれ。
え、あ、すまん、つい熱くなって首を握りしめるところだった。
こうして勇者は魔王から不平等な契約を勝ち取り、不機嫌になる魔王とともに祝杯をあげた。
翌日、勇者が魔王の城から戻ってきたのだが……
みんな、ただいま!
作戦は大成功……
……って、あれ?
酷いぞ勇者!
俺たちをこんな目に遭わせるなんて!
何故私たちに魔王の最強呪文をまともに浴びせさせたのよ!
防御呪文も唱えられないし、流石に死ぬところだったじゃない!
信じられません!
勇者として何を考えているのか、私には理解ができません!
あ、ああ、すまんすまん、あれは魔王を油断させるためで……
ほぉ、そんなことで許されるとでも?
これはお仕置きが必要ですね。
ではたっぷりと私の魔法を浴びてもらいましょう。
もちろん、魔王の最強魔法レベルの、ね。
え、ちょ、ちょっと、うわぁぁぁ!
勇者はこの後仲間からたっぷりお仕置きをされたらしい。
こうして世界は平和になったが、魔王の領域に入ると魔王砲が飛んでくるため、ちょっとだけ漁業がやりにくくなった。