ある日の放課後。
ある日の放課後。
せんせぇ、ここわかりませぇん
どこだ?
ここですぅ、ここ!
……
なんですかぁ?
なぁ、青野。そのわざとらしいしゃべり方やめないか?
青野じゃなくて、愛って呼んでくださいよぉ
絶対に呼ばねえ
もぅ、せんせぇってばぁ……ところでわたしのどこがわざとらしいんですかぁ?
ですかぁ? ってそこだよ。おまえクラスでそんなキャラじゃないだろ
大体……なんでおまえが補講を受けてるんだよ
それは、この前のテストの成績が悪かったからでしょぅ? だから、先生が直々にわたしのこと呼び出してぇ
ああ、俺はいったよ。確かに。テスト前に『今回のテストで30点以下だったヤツは補習な』って
そうですねぇ
全部教科書からの問題で基本が多いから、最低限教科書をやっとけば30点は絶対にとれるって言っておいたよな?
はい、先生はとても親切に『この問題が出やすいぞ』とまで教えてくれましたぁ
で、なんでそこまで教えたのに、おまえはここにいるんだ!?
それは残念ながらわたしがテストで30点だったからですぅ……おしいですね、あと一点あればよかったのに
分かってるよ!
先生、わたしのことすごく知ってくれてるんですねぇ
そうじゃなくてだなぁ……他教科は全て学年トップのおまえが、なんで担任である俺の数学だけそんな点数を取ってるんだ? って話だよ
もぅ、照れなくっていいんですよぉ?
はぁ? なんの話だ?
あれは、私への合図だったんですよね?
合図?
だって、あんなテストだったら誰でも30点なんて楽勝ですもん
だ・か・ら
わざと、誰にでも点数とれるようにして、私だけがここに来るように先生はしたんでしょう?
んなわけあるか
ひゃん
ったく、ふざけるのもいいかげんにしろよ?
おまえ、まさかそんなふざけた理由でわざと悪い点数取ったんじゃ……
さすがにそこまでしません。ちょっと体調が悪かったのと本当に苦手な単元だったんです。わたし、そこまでバカじゃないですからね
……まぁそうだな、信じてやるよ
えへへ。信じられてるぅ
はぁ……じゃあ、これ追試な。テスト時間は今から50分。じゃ、頑張れ
えっ?
ん? どうしたそんな驚いた顔して
せ、先生はどこへ?
俺は職員室にいるから、終わったらもってこい。おまえはカンニングとかしないだろうし、そもそも出来るだろ
ま、待ってください!
あ?
先生は、補習授業をやるっていってましたよね? 追試なんて聞いてません!
ああ、追試はさっき決めたから
も、もしも追試をおこなうなら先生には監督責任があると思います!
そうか……
はい!
よし、わかった
あは
じゃあ追試はなしにしよう
へ?
もともと思いつきだしな
ち、ちゃんとやりましょうよ!
なぁ、青野……どうして補習授業や追試をやるかわかるか?
それは……成績の悪い普段勉強しない子に、少しでも勉強させるためでは?
それもあるが……一番の理由は臨休させるためだ
進級、ですか
そうだ。赤点は知ってるな?
はい、聞いたことはあります
よく単に『追試の代名詞』として使われる『赤点』だが、本当の意味は『このままの成績では進級させられない』という意味なんだ
進級させられない……
つまり、留年ってことだな
年度末に進級会議っていうのがあってな。生徒一人一人、進級して大丈夫かどうかを話し合う会議があるんだが
ほ、本当にあるんですか!?
当たり前だろ
都市伝説だと思ってました
内申点ってのは定期テストの点数だけじゃなくて普段の提出物や授業態度、小テストを合わせたものだ、っていうのは知ってるな?
そうなんですか?
ああ、入学ガイダンスでも話したはずだぞ?
えへへぇ
ったく……まぁだから、定期テストの出来が悪いからといって、そのまま留年とはならないわけだ。年に何回かある定期テストが全て赤点で授業態度も悪く提出物も出していない……そうなって初めて留年候補になるわけだ
なるほど!
だから、補習や追試ってのは、そうならないようにするための対策ってわけだ
だがな青野……他教科で学年トップで学級委員長も務めるおまえが、今回赤点を取ろうと留年することはない
つまり……
補習はやらなくても問題ない。ま、おまえの成績は多少下がりはするがな
というわけで、補習は終わりだ。解散!
待ってください、わたし、補習をなくすことを望んでません……つ、追試! 追試問題折角作ったんですからやりましょう!
なんでだよ……いいじゃんかよ、もう終わろうぜ
せ、先生はそれでも先生ですか!? 生徒が勉強したいっていってるんだからやりましょうよ!
あーはいはい、わかったわかった。じゃあ、これ追試の用紙な
じゃあテスト時間は今から50分だから、頑張れ
はい、わかりました
って、なんでナチュラルに出てこうとしてるんですか!?
さっきもいったろ? 終わったら持ってきてくれればいいから
だ〜め〜ですぅ! わ、わたしだってカンニングしちゃうかもですよ!
えー? マジで? 青野さん、カンニングなんてするの? テストで追試になったからってそこまでするんだぁ、えー
……やめてください、ちょっとそれ本当にへこむんで
悪い悪い
もー
わたしとってもとっても傷つきました。だから、お詫びを所望します
おわび?
はい。お詫びに、わたしにチューしてください
よし、じゃあ今日はここまで。解散な
流さないでください!
あのなぁ、冗談でもそういうことは言うんじゃない。誰かに聞かれたら困ったことになるだろう
先生は、わたしとチューするのイヤですか?
イヤです
な、なんでですかぁ!? わたし、学年でトップクラスの美少女ですよ!?
ほう、自分で美少女って言えるのすごいな
事実ですから
おうおう、先生も自信を持つのはいいことだと思うぞ
はぐらかさないでください! 先生は、わたしとチューするのはイヤですか?
はぐらかしてませーん。先生はもっと大人の女性が好みなんですー
じー
……なんだよ
こんなかわいい女子高生に好かれるのなんて、もうこれが人生最後かもしれませんよ? チューできるチャンスなんてもう一生ないかもしれないですよ? それでも先生は、しませんか?
……おまえなぁ
はぁ……悪いがな、青野
なーんて☆
うそですよ、うそ。もしかして先生本気にしました? セクハラです、訴えますよ?
わたしみたいにかわいい女子高生が先生みたいなおっさんに本気でチューしようとするわけないじゃないですか、身の程わきまえてくださいよ
……ったく。はいはい
本当です
……じゃあ、追試今から50分だからな。がんばれ
はいはい、追試やりますよ。やればいいんでしょ
じゃあな
……本当に先生行っちゃうんですか?
今から会議なんだよ……なにもなきゃちゃんと見てるって
……
な、なんだよ
わかりました、会議ならしょうがないです。わたし、いい子なので、その辺の分別はきちんとつけられます
悪いな
でもでも……わたしがもしも、万が一カンニングしたらどうするんですか?
大丈夫だ
?
俺は、青野がそんなことしないヤツだっってわかってるから
!
だからその心配は要らない
せんせぇ
ってわけで、がんばれよ、じゃあな
はいっ!
……ったく、女子高生の相手は疲れるぜ
……でも
チューか……
いかんいかん
さっさと行かないと会議に遅れる
せんせぇ!!
青野!? おまえ、まさか今の言葉聞いて……
ほぇ?
い、いや何でもない。ところでどうした? 追試の用紙に不備でもあったか?
いいえ?
じゃあ、どうした?
追試、解き終わりました♥
……
おまえやっぱり、問題余裕で解けるんじゃねえか!!
年頃の女子高生になんてうらやましくて爆発して欲しい先生の苦難はまだまだはじまったばかり!