都会の隅、あまり人が寄り付かない寂しい場所に、いつでもお祭り騒ぎ――いや、事件騒ぎの場所がある。その名も――
都会の隅、あまり人が寄り付かない寂しい場所に、いつでもお祭り騒ぎ――いや、事件騒ぎの場所がある。その名も――
さあ今日もやってまいりました。朝の朝礼、有名になろうぜ大会―!
アホかー名前ださいんだよ
馬鹿かーお前司会者じゃないだろ
まぬけかーとりあえず乗る!
5百人ほどの生徒の前でマイクを手に叫ぶ少女に、やじっぽい何かが浴びせられる。しかし気にする様子もなく
はーい、いい三拍子をいただきました! 今の三人には三ポイント!
何の点数だよっ!
購買のおばちゃんから激しい口づけが送られまーす!
その場に倒れる三人。喉元を抑えて吐きそうな仕草をしている。
おーっと! 何やら苦しい様子、なにがあったんでしょうかー!
四百人ほどが思ったであろう、お前のせいだと。
さあ、気を取り直していってみましょうー!
司会者が周りを指すように腕を振る。
周りには、小学校に置いてあるような遊具、石灰に、後方には校舎! 何でもありで演技を一発かましてください! やる際は自前のマイクでちゃんと叫んでね
そういうと皆それぞれ行動し始めた。体育館にいくもの。その場で準備運動をするもの。司会者にいきなり抱き付くもの。
ちょ、私は司会者であってそういうのには――
一発演技だって
それをみた外野は、
カップル誕生だぜー!
はえーよ!
なんてそれぞれに茶化し、それにつっこみをいれるという始末。次第には、司会者と抱き付いた男はその場で踊りはじめ、すぐにお祭りモード。
なんらかのアクションを起こす人も多くなってきた。
三年A組、清水大貴。飛び降ります!
お祭りモードの中で聞こえたマイク音は、二階の窓から聞こえる。そこには、カップルの男女の姿。抱き合ってそのまま外へと体を傾け――
どこかで悲鳴が聞こえた。しかし、そのあとに聞こえたのは。
柔らかい衝撃音。校舎の二階から飛び降りた先には、どこから持ち運んできたのか、オリンピックでも使われないような暑さ一メートルもあるマット。そこに埋もれてはその中で。
抱き合っていた。
そんなことをやる人がいるもんだから、三十人ほどで一斉に胴上げの始まり。
なあ翔太。あれどう思う?
先輩達は中学のころから付き合っているって話だしな。信頼関係でも……とかいう話じゃなくて、完全にこの学校のノリだろ
勇気あるな
うずうずしてたまらないといった感じに抱き合っているカップルを見る男性、宮内翔太。
翔太、俺らもなんかしなきゃな
だな、近藤、鈴木。お前ら走るの大丈夫か?
え?
胴上げをよそに、いそいそとハードルを並べる翔太達。そして、
二年C組、宮内翔太。二人三脚でハードル走しまーす。めざせギネスタイム!
いつの間にか持ってきていたタオルで足を結び、肩を組み、走る体制を作っていた翔太がマイク片手に叫ぶ。そして、
二人三脚のハードル走なんてあるわけねーよ
笑いながらのやじにより走り出した。しかし――
お前らちょっと早すぎ
宮内がおせーんじゃねーか。走るの大丈夫かって聞いてきたのお前だろ
うおっ!
翔太がハードルに足をひっかけ、一つ目を倒す。
ほら、お前のせいで失敗したじゃねーか
それでも走り続ける。
お前はジャンプ力低いんだよ。イケメンの顔して運動音痴か!
そんなこと――うおっ! あぶね
見事に足ひっかけて倒してるじゃねーか
お前のジャンプ力がたりないんだよ
よーし、次倒したらお前の昼飯よこせ
誰が弁当渡すか!
外野は二人三脚ハードル走を見ながら爆笑している。
なんだよあの三人コンビ、喧嘩しながら見事に全部ハードルに引っ掛けていきやがる
馬鹿だ、笑いすぎて腹いてえ
翔太達の受けはよかったのだが、
ほら、最後の一個だ
分かってるよ
最後の一個目前にうまくタイミングが合い、
ほいっと
三人は同時に飛ぶ。しかし、
おいバカ、勢いとまんねえ!
息があっただけに止まることを考えてなかった翔太達は前のめりになり、
やべえ、顔からつっこむっ!
三人とも同じことを考えたのか、体を丸めて頭、首、背中と滑るように転がり、体操選手のように勢いよくポーズを決めた。
ば、馬鹿だよあいつら! 笑いとまんねえよ!
二人三脚でハードル飛び越えたあと、飛び込み前転とかアホだ。なんで最後だけ息あってんの
無駄な笑いに包まれる中、翔太達は、
あ、あぶねぇ
勢いつきすぎたな
あー怖ええ
冷や汗をかいていた。
翔太達が歓声の中で気を休めていると、
翔太君やってるねー
おー先生。俺らの演技、どうだった?
担任の女教師が気分よさそうに姿を現した。彼女もまたノリがいい。
いやーよかったんだけどね
「ん?」
あんなハードル走認めないって体育の先生がグチグチ言ってるから、三人とも、今日は二人三脚で飛びながら帰ってね
一瞬の静寂のち、
学校側も馬鹿だったよ、あひゃひゃひゃひゃ
青ざめる翔太達。周りには観戦者達。その中の一人が、翔太に暑い眼差しを送っていた。
翔太君……