私は弟に駆け寄った──
私は弟に駆け寄った──
ユウ!!
しっかりしてユウ!!
…………
どうしようこのままじゃ……
……助けて……欲しいの
不意に声が聞こえた。
誰…………?
冷たい感触を手に感じ、私が下を見ると。
助けて……
あなた……さっきの……
少女の霊が私の指をつかんでいたのだ。
おねがい…………
すると──
突然、私の頭の中に見た事もない映像が浮かんだ。
まるで、映画を投影されたような鮮明な映像が……。
りょうくんたらまたお絵かきしてる~
へんな絵~
うるさいな~……
お姉ちゃんこそ、それママの大事な
くし、おこられるからね!!
べ、別にいいでしょっ!!
死んだおばあちゃんのかたみ
ってやつなのに……
だって、赤くてかわいかったんだもん
子供が二人。
女の子の方は、あの幽霊の少女に似ている。
それ、おうちに来る怖い人の絵?
うん、そうだよ
あの人悪い人だから
おまわりさんに捕まえてもらうんだ!
それは、日記に入っていたアノ絵だった。
テレビでみたんだ、悪い人の似顔絵があれば
おまわりさんが捕まえてくれるって
ふ~ん……
そんなヘタクソな絵でも平気なの?
だ、大丈夫だよ!!
これは……
もしかして、この家で起こった
過去の……?
薄暗い台所。
なんだか、様子がおかしい……。
いい?
二人ともここに隠れていて?
おかあさん……
…………
おかあさん大丈夫かな?
だいじょうぶだよ
きっと!
きゃああああああああああああああっ!!
いっ、いまの……お母さんの声?
お~い……どこにいるのかな……?
隠れてないで出ておいで~……?
誰かが何かを探している。
だんだんとその音が近づいて来ていた。
パパとママのとこに
連れて行ってあげるよ~……
ど、どうしよう……
こっち来る……
…………
りょうくん?
おねえちゃん!
僕がアイツをなんとかするから
逃げて!!
な、なんとかって……
そんなの無理だよ
いいから
逃げて!!
ま、待って!!
ダメだよ……
男の子はそう言って、隠れていた場所から出ていってしまった。
それから、どのくらい時間が経ったのだろうか……。
りょうくん……
おかあさん……
そっと、周りを警戒しながら女の子は台所から出た。
誰か……いる?
りょうくん……?
そっと、居間の扉を開き覗いてみる。
そこには、あの鏡台があった。
開いた鏡台は血にまみれ
そしてその下には──
血まみれの弟の姿があったのだ。
りょうくん!!
そして──
ゆっくりと黒い影が、女の子の後ろから迫っていた。
み
つ
け
た
ぁ
ぁ
ぁ
女の子は振り返り
そして……
そこで映像が途切れた。
いまのは……一体……
おねがい……
鏡にアイツを……
鏡……?
鏡にアイツの姿を映して
私は、鏡台の方を見た。
そして、床に転がる割れた櫛を手に取った。
マリエ!!
私がアイツを櫛で引き付けるから
マリエはこの鏡でアイツの姿を映して!!
か、鏡に?
私は、女の蠢(うごめ)くその異様な髪に、割れた櫛を通した。
グキギっ…………ぐぎっ!
女はひるみ、動きが止まる。
割れていてもまだこの櫛には力があるようだ。
ユカ!!
マリエが鏡台をこちらに向け、女の姿がその鏡に捕らえられた。
すると──
鏡から……
スーと黒い手が伸ばされ
その手が女の髪を掴んだ。
グギギっ…………!!ぎぎっ!!
女の体は髪と共にズルズルと鏡の中へ引きずられていき、とどまろうとする腐りかけた足の爪が、バリバリとはがれていく。
……あんたなんか消えちゃえっ!!
少女の霊が女の体を後ろから押し、女は抵抗むなしく鏡の中へ引きずり込まれてしまった。
ぐぎぎぎぎぎゃあ──────────!!
まぶしい閃光が部屋を満たし、部屋に張り巡らされた女の黒髪が光と共に消えていく。
パリーンという音とともに、鏡は粉々に砕け散った。
ユウ!!
私は弟を抱きしめ、飛び散る破片から守った。
気が付けば窓からは陽射しが差し込み、朝の光に照らされた廃墟に私たちは立ちすくんでいた。
ユカ……あの子たちは……
割れた鏡台の前には、二人の子供の霊が立っていた。
たすけてくれてありがとう
ありがとう
二人はそのまま、空気の中へと消えていった。
助けたのは私じゃなくて
あの子たちの方だった……
女が消えたことで
ココに囚われていたアノ子たちの魂も解放されたのよ……
きっと、私の弟を救いたい気持ちと、あの子の弟を救いたい気持ちがリンクしたのだろう。
おねえちゃん……
ユウ!!
良かった……
気がついたのね
静かな廃墟のなか
私は再度弟を抱きしめマリエに微笑む。
ありがとう
マリエ!
ふふ……
それは、ひさしぶりに見たぎこちなく笑うマリエの笑顔だった。