誰かに呼ばれた気がして、わたしの目が覚めた。
押し入れを開けると、いつも通りの風景が待っている。
部屋の窓から零れる太陽の光に、少しだけ大きなあくびをした。すっかりくたびれたベッドと丸テーブルに、小さな洗面台。これは家から出なくて済むようにと、お母さんが用意してくれたものだ。
一部屋で完結する、わたしの居場所。
どうしてだろう。
ずいぶんと長いこと、眠っていた気がする。わたしはあまり眠れない体質だから、きっとまた、長い時間が経っているようで、ちっとも時間なんて経っていないのだろうけど。
そう思って、辺りを見回した。苔の生えた絨毯に、所々床を突き抜けて、植物も生えている。壁なんて今にも崩れ落ちそうで、床もぎしぎしと音を立てている。
…………こんなに古かっただろうか。
わたしは、きょとん、と首を傾げた。
朝日を背にして、わたしは考える。とにかく、目は覚めた。これからやらなければならない事とは……そう。
顔を洗うことではないだろうか。
そう思い、わたしは洗面台へと向かった。
自分の姿はもう何度も見た事のあるモノなのに、鏡は薄汚れて、所々割れてヒビが入ってしまっている。
水道の蛇口を捻った。
…………水が出ない。
そういえば、ここにはわたしの家族もいない。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも……どこかに行ってしまったのだろうか。
分からない。
きっと、旅行にでも出掛けているのだろう。わたしは本当の家族ではないから関係ないのだと、何度か言われた事があった。わたしの知らない間に、何度も外食をしていた。
わたしは家族の事がとても好きだけれど、あの人たちはどうも、わたしの事が好きではないらしい。
ちょっと前に、近所のおばあちゃんにその話をしたところ、『ふくざつなかていのじじょう』があるのだと、教えられた事があった。
きっとわたしは、その『ふくざつなかていのじじょう』に入っているのだろう。
だから、心配する事はない。
帰って来る頃にはきっと、パンの耳か何か、食べられるものを貰えるはずだから。
そうと決まれば、みんなが帰って来るまで何をしよう。……探検をしてみようか。
最近はずっと家で本を読んでいたから、身体が『なまって』いるのだ。
わたしはうんと背伸びをして、窓へと向かった。