たくさんの魔族を引き連れ、世界支配を目論む魔王と、それを阻止すべく立ち上がった勇者たち。
彼らの戦いは、徐々にその激しさを増して行き、その戦火は次第にいろんなところへと飛び火していった。
そんな混迷を極めたような世界の中で、特に特産物や有名な観光地があるわけでもなく、かといって、戦略的に重要な場所というわけでもないがために、勇者一行も魔王軍も攻めてこず、実に平和な日々を過ごしている、とある小さな村があった。
ごくごく小さなその村に住む人はごく僅か。
村長にして唯一の薬師、そして村の吉兆を知ることができる占い師も兼任する高齢の女性――おばば様を中心に、村の若い衆をかき集めただけの自警団、その自警団を引退し、のんびり畑をいじることだけが生きがいの爺婆たちと、僅かばかりの若い女たちで、隣家の人は愚か、村人全員が顔馴染み。
稼げる仕事や、刺激などを求めて村を出て行く人はあれど、逆に村に入居を希望したのは過去に一例のみという、いっそ見事なほどに寂れた小さな村。
そんな、小さな村には一人の少年がいた。