サミー! 起きてるかあ!

 キツネの叫び声と、ドンドンと騒がしいノック音に、俺は飛び起きた。

あ、すみません! 今起きました!

そりゃすまん! まだ朝の六時なんだけどさあ! また一人捕まえたんだって、シグレが!

 なんだって!

彼女、一人でですか?

そーなのよ、勝手にさあ、一人で捕まえたんだって! 

どうしてあのお方は、一人で突き進むんだろうねえ? 

開けていい?

どうぞ

 俺の返事と同タイミングで扉を開けたキツネは、やっほーと朗らかに笑った。

 何も聞かずにベッドに腰を下ろすと、すごいよなあと無機質な天井を見上げた。

魔女に一人で立ち向かうなんて、こわくてできねえよ。

いくら、ダミーの可能性が高いっていってもさ。

本物だったら、魔法で一発、どかんなのかもしれねえのに

そうですよね……シグレさんは

 どうしてそこまで、と言いかけて口をつぐむ。

 それは、キツネに聞くようなことではない気がしたからだ。

そこまで必死にって? そりゃ本人に訊いてみるんだなあ

 キツネの意見も、俺と同じようだ。

 こくりと頷くと、はあ、とキツネはため息をひとつつく。

俺は怖くて、訊けないけども

そうなんですか?

そう。

惚れた女がただの殺戮大好きちゃんだった場合、俺はどうするんだろうってね。

それでもたぶん好きなんだろうから、怖いよ

 うお、いきなり色恋。

 ぎょっとして目を丸くすると、そんな俺の様子を見てキツネはニヤリと笑った。

牽制球。あいつは俺のものだから、よろしく

うわー、かっこいい

どうもどうも。

サミーはいないの、好きな子?

 ポンと浮かぶのは、セイさんのふざけた言葉だ。

 ラブなの? じゃないよ、あのおちゃらけゲームマスター!

いや……まあ

 なぜ言葉を濁す、俺!

悩んでるの? 

最高だね、それって一番楽しい時期だ

いや、違って

そうかな? 

いない人は、いないですよって即答するもんだよ。

いやー、いいよね、恋かもしれない、どうかしら、わからんってとき

 キツネはサンザシと同じように、ばたばたと足を前後に振った。

 同じ動作をしているのに、キツネの場合はかわいさの欠片もないから、面白い。

片想いは楽しいなんていうけどさあ、片想いだって気がついてから、俺は苦しいことばっかりだよ

 ふと、この人の元気は、自分を鼓舞させるためのポーズなのかもしれないと思った。

 本当は、とても繊細で、思慮深い人なのかもしれない。

だからさ、アシストよろしく!

どんなですか

なんでもいいんだよ、俺らの距離が近いときに、思いっきり俺の背中を押して、シグレに俺が不慮の事故で抱きついてしまうようなシチュエーションを作るとか

小学生ですか

いつだって若い心を忘れないんだな、俺は! 

あ、そうだ、昨日の資料ある?

 無駄話しすぎたね、とキツネは頭をぼりぼりとかく。

 枕元に投げ捨てていた資料を取ると、キツネはどうもとそれを受け取った。

 ぱらぱらとページをめくり、ポケットのペンを取り出して何かを書き入れている。

何を書いているんですか?

4 忌むべき魔法は隠れた青色(7)

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