儀式というと皆さんはどんな物を思い浮かべるだろうか？
　儀式、それ単体で聞くとなんだか物々しい感じがする。だが実際には儀式とは結構身近なところに存在するものなのだ。

　例えばコックリさんがその代表格であろう。コックリさんというと子供の遊びという雰囲気があるが、あれも立派な儀式だ。

　他にも小学生がよくやる『横断歩道で白線以外のところを踏まずに渡りきれたら、今日一日ラッキー』なんていう遊びも、儀式と言えば儀式の一部であろう。

　さらに身近な例を挙げよう。てるてる坊主、あれを子供の頃、遠足の前日なんかに『翌日雨が降らないように』と作ったという人も多いだろう。
　今回はそんなてるてる坊主にちなんで、雨の怪談話をしよう。

『雨が降らなかった日』

　私の友人にＦという人物がいる。彼は昔から『持っている』人で、今まで不思議な体験を数多くしてきたのだとか。
　その日もＦと二人、居酒屋でピザを片手に赤ワインで一杯やっていた。今日はなにか不思議な話はないのか。酔った勢いでＦに問いかけると、Ｆはこんな話を始めた。

　それからＦはその雨女について語りだした。

　Ｆのクラスメイト、サヨコさん（仮名）はなんでも小学生の頃から雨女として有名だったのだとか。サヨコさんがイベントに関わると、運動会、合唱コンクール、移動教室といったありとあらゆるイベントが当日雨になったらしい。

　当然そうなってくると、サヨコさんに対して不快な気持ちを抱く人物だって出てくる。サヨコさんが元々気弱だった事もあり、いつしか一部の女生徒からイジメの対象にされてしまった。
　サヨコさんに対するイジメは壮絶だった。男子の前でパンツを脱がされたり、イジメがバレないように体をベルトで叩かれたりなど。精神的な物から肉体的な物まで様々なイジメが行われたのだとか。

　Ｆはそんなサヨコさんを眺めていて気の毒には思った。だが今まで楽しみにしていたイベントをいくつも雨で潰された事もあり、イジメを黙認してしまったらしい。

　中学校に進学してもサヨコさんに対するイジメは止まなかった。だがそれも仕方ないことだったのかもしれないとＦは語る。
　サヨコさんの雨女ぶりは健在で、絶対に晴れて欲しい日でも、サヨコさんがいると雨が降ったのだとか。例え天気予報で翌日は１００％晴れだと予報が出ても、サヨコさんがいるだけでそれは覆ってしまうのだ。

　サヨコさんはいつもおどおどとしながら、学校に通っていたらしい。毎日『今日はどんなイジメを受けるのだろう』と怯えていたわけだ。だがイジメられる理由は自分の雨女体質のせいである。

　中学校の卒業記念遠足。その日Ｆ達の中学は某遊園地に行く予定になっていたらしい。学校の授業で遊園地に行けるなんて最高だ。誰もが遊園地へ行く日を楽しみにしていた。サヨコさん一人を除いて。

　遊園地への遠足前日、サヨコさんは今まで以上に念入りに暴行を受けた。

　イジメをしているグループのリーダー格が、そう言ってサヨコさんを脅す。

　再び暴行の嵐がサヨコさんを襲う。

　サヨコさんがボロボロになりながらそう口にする。その言葉に満足し、イジメのグループは去っていった。

　翌日、なんとサヨコさんの言うとおり、空は雲ひとつ無い晴天になった。絶好の遊園地日和。
　だが、この日Ｆ達の学年は遊園地に行かなかった。なぜか。

　サヨコさんが自殺したからだ。
　この事件はテレビでも大々的に報道され、Ｆの学校の生徒はマスコミを避けるために自宅待機を命じられたのだとか。

　サヨコさんは自殺する事で自らの雨女の呪縛から開放された。
　雨は降らなくなったが、儚い命もまたこの世から一つ消失してしまったのだった。

　Ｆの話を聞き終え、私はワインをぐびりと飲む。なんとも後味の悪い話だ。
　話し終えたＦは沈痛な面持ちでピザを口にする。
　だが私にはひとつ気になっている事があった。サヨコさんは自ら命を絶つ事で翌日の快晴を呼び込んだという。だがただ自殺するだけで翌日が快晴になるのだとなぜ言い切れたのだろうか。
　私の中でひとつの仮説が思い浮かぶ。

　その言葉に私の仮説は確信へと変わった。残り一口のワインを一気に飲むと、私はこう口にした。

　私の一言に、Ｆの手からピザが落ちていった。

了