真夜中のドライブ






これは知人の女性Sさん(35)が実際に体験したお話です。



今から10年ほど前、Sさんが親友の女性Mさん(当時25歳)とI県K市の山道を肝試しもかねて真夜中にドライブしていたときの事でした。





















運転手のMさんと助手席のSさんは他愛もない世間話をしながら市街地から段々人気の少ない山道へと向かっていきました。


徐々に雨も降り始めて来たその途中、小さな個人経営と思える大きさの病院の前に差し掛かりました。


院内の灯りが消えたその病院の前には男が傘もささずにじっと立っているのをSさんは目撃しました。

今の見た!?怖くない?

え?どこどこ!?


どうやら運転席のMさんからは死角だったらしく、その男を確認できなかったようでした。


それからしばらくして鬱そうとしている林道には入るものの、特にこれといった怖いスポットは間の辺りにできず

別に何て事なさそうだね

そうだね。期待はずれだったね


そう余裕で話していると緩やかな崖の斜面になってきたところで信号機があるY字路に差し掛かりました。



その時二人の車は40キロくらいのスピードで走行していて、信号が点滅して赤になるのが見えました。



運転慣れしていたMさんの事ですから安心しつつも、やや徐行するタイミングが遅いなあと感じたので、Sさんは

Mちゃん、赤だよ

うん

だから赤信号だってば

うん

ちょっと、そういう演出いらないからね?

うん

…危ない!

いよいよ正面の信号機の崖に転落しそうになるやいなや、Mさんは助手席から身を乗り出し、ブレーキを踏んでハンドルを左に切りました。

車は無事路肩に止まりましたが、Mさんは何でSさんがハンドルを切ったのか把握できていないようでした。

どうしたの、あぶないでしょ!?

だって道に人が立ってたからこのままじゃ轢いちゃうと思って

詳しく話を聞くと男性が道のやや右側に立っているのに注目していて信号機に気づかず、緩やかに徐行しながらMさんは運転したつもりだったそうです。

Mちゃん、そんな男の人なんて立ってなかったよ?

え、ウソ?Sちゃんも見たでしょ?中年の男の人が道路のど真ん中に…

だからそんなヤツいなかったって言ってるでしょ!?

う…そ…


極度の緊張からSさんは声を荒げてしまいました。

Mさんは線が切れた様に震えて泣き始め、そのまま運転席から動けなくなってしまいました。

ごめんね大きな声出して。でもねMちゃん、このままここにいたら絶対ヤバいって!Uターンして帰ろう!?

そうSさんが促すものの、Mさんはちゃんと話が聞けているのか、
ずっと気が振れたかのように大声で泣き叫ぶばかりです。

ダメだ。このままだと私もMちゃんのパニックが伝染って帰れなくなる

Sさんは急いで運転席側のドアに回り、Mさんを後部座席に強引に移して、自分がハンドルを握ってUターンしました。




















しばらく車を走らせてSさんはMさんが落ち着いてきたのを確認してから聞きました。

もしかしてその人って青いジーンズに鼠色のパーカー来てなかった?

ああ、そうそう!なんだあ、やっぱりSちゃんも見えてたんだ

いや、そうじゃなくて。今言ったのは私が来る途中で見かけた病院の前に立っていた男の人の服装なの。私はあの信号機では誰も見ていないの

ええ!?

Uターンしたのと運転手交代したポジションの関係でもう一度、Sさんが病院の前を通り過ぎた時Mさんは震えながら

ねえ、誰もいなかった?大丈夫?

うん。平気。私の見間違いだったみたい。ごめんね
















後日Sさんがよくその道路を使う知人から聞いた話によると、その林道はスリップ転落事故が多く、
ちょうど先月、中年男性が転落していまだ行方不明なのだそうです。

































あの日、病院や信号の前で彼女たちに気づいてもらう、もしくは道連れにしようとしていたのでしょうか?























それと帰り道でSさんが見間違いと言ったのはMさんを気遣っての嘘でした。



















その中年男性は病院の門前からずっとこちらの車を見ていたそうです。





終わり


真夜中のドライブ

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