K君の話





自分は都内某所のバッティングセンターの遅番社員をしています。これからお話するのは去年実際に自分の職場であったお話です。


かつてK君という19歳の長身でイケメン新人アルバイトの青年がいました。

よろしくお願いします


新人への禊ぎ、といっては大げさかもしれませんがここでは先輩から新人に怖い話を披露するのが慣例となっていました。








自分も例にならってK君に






自分

実はここには女の幽霊が出るらしいんだ。閉店頃になると勝手にトイレのドアが閉まったり、戸締りでカギを締める時に窓ガラスが白くくもったりするのを他のバイトの子が見ているんだ。あとはっきりと白い服を着た女の人が通るのを見たっていう先輩もいたよ


実際にそういう噂はバイト仲間のあいだで時折聞いていました。





退勤時に白い女がホールを通り過ぎていくのを見た。



掃除の時に閉めたはずの女子トイレのドアが開いていた。



自動ドアのカギを締める時に窓ガラスが白く曇った。



…などなど。
言われてみれば自分自身たまにホール内に違和感をかんじる事も少々あります。


ただ具体的に霊を見た事の無い自分にとってはどれもあくまで❝らしい❞止まりの話でした。

そんな話簡単にするもんじゃないっすよ


と涼しい顔をして自分をたしなめました。


彼の端正な顔立ちから、本当は怖いのに少し気取ってるんじゃないかとその時は思っていました。


フロア側と機械室側の二手に別れて同時進行で掃除をしていくのですが、その日はKくんが機械室掃除の番でした。

先輩、たしかにこの店いるかもしれませんね。機械室側の1番打席からキィキィって変な音が鳴るんですよ

と彼は言いました。そういった機械音は油が切れたり、ベルトコンベアが痛んだりするとよく出るので、やっぱり本当は怖がりなんだなと思って

自分

わかったわかった。後で見てみるよ

と自分はK君をやや小馬鹿にするような感じで言いました。

そして閉店後の戸締り。


自分が機械室に行って裏口の窓を閉め、全フロアの電源を消しに行くと





































































という、確かに今まで聞いてきた機械音とは明らかに違うキィキィという高くて不気味な音が1番打席のマシンの裏辺りから鳴りました。


一応一通り確認したのですが、音の出どころはよくわかりませんでした。

それでもどこか人の気配というか、誰かに見られているような不気味な感じがしたので、早々にその場を去りました。

全部の閉店作業を終えて帰り際にK君に

自分

たしかに変な音したね

やっぱ、そうっすか。まあ、何もなければ良いんすけどね

と意味深な発言をしてK君は帰っていきました。


そして次のK君との仕事日。

前回と同じく彼が機械室掃除をしてきてからK君は気まずそうに言ってきました。

やっぱりいますよ先輩。女の幽霊っすね


かなり怖がってるK君の様子と、昨日自分がかんじた違和感が重なりましたが、平静を装って尋ねました。

自分

どうしてそう思うの?本当に見たの?

彼は黙って頷いた後、おもむろに靴下を脱ぎ始めました。
















すると













彼の右足の小指にクセッ毛の強くて長い黒髪がグルグルと巻き付いていたのです。


















母親も彼女も髪染めてるんで、知り合いのが紛れたって事は無いんすよね


話を聞くと、K君は昔からものすごく霊感が強くてよく霊に憑りつかれて家まで連れてきてしまう憑依体質なのだというのです。

さらに翌日のバイトで

先輩、やっぱり自分連れて来ちゃったみたいです。寝てるとき、ドアを少し開けてこっちを知らない女が見てるんすよ。無視してたら構ってほしいのか、ドアを開け閉めしてすごいウザくて。それで一喝したら黙りましたけどね

とまるで日常のイラッとした些細な事みたい言い方をしていたK君にある種の大物オーラを感じていた自分でしたが、
それから程なくして彼は急性胃腸炎と逆流性胃腸炎を併発してバイトを辞め、そのまま連絡が途絶えてしまいました。




















気付けばそれ以来、機械室の不気味な音も無くなりました。


















その黒髪の女にK君は惚れられてそのままどこか遠くへ連れていかれてしまったのでしょうか。



終わり

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