――中学生。
それは誰もが経験する、人生で最も熱い時代。
目に見える全ての不思議に心を踊らされ、日常のあらゆるものが眩く、輝いて見える時代。
大人になればありふれた日常が、まるで宝石箱のように大事なもので溢れ返って思える、そんな時代。
これはまさに、そんな中学生時代真っ盛りの、少年少女の身に起きる数々の《ロマン》の物語である。
――中学生。
それは誰もが経験する、人生で最も熱い時代。
目に見える全ての不思議に心を踊らされ、日常のあらゆるものが眩く、輝いて見える時代。
大人になればありふれた日常が、まるで宝石箱のように大事なもので溢れ返って思える、そんな時代。
これはまさに、そんな中学生時代真っ盛りの、少年少女の身に起きる数々の《ロマン》の物語である。
中学生★日記
たかしとまことの波乱万丈
とまあ、早い話がこれで二度目なんだよ
小学校からの友人が「俺、今日が二回目なんだ」とか言い出した件について
うるせえな! 外に放り出して、ミカエルとサキエルに大岡裁きさせてもいいんだぞ!
なんでヒロインの名前知ってんの!?
エスパーまこと!?
だから二回目なんだって言ってるだろ
それにどうやら、この『RPGモテール』を起点としたループの中、僕もお前の道連れに巻き込まれたらしい
お前が誤ったENDを迎えると、コンティニューして最初からやり直す物語に、な
ゲーム脳すぎるだろ! 人間の人生一回きりで、そうそう取り返しなんてつかないよ!?
残念ながら今はつく。
そして、お前の命はたぶん、この十四年間で今が最安値だ。死ななきゃ……いや、死んでも安い状態
まぁ、お前がやらかした事の尻拭いをお前が命でするって話なんだから、ここはいっちょ男気の見せどころってもんじゃないのかね、タカシオン
いやだぁぁぁぁぁ!
お前、完全にゲーマーの目をしてる! 俺を見る目が友人を見る目じゃない! ただのプログラムされた人工AIを見る目だ!
嫌よ嫌よも好きのうち……さあ、夢と希望のモテモテ世界を築くために、デュエル!
それ命懸けの決闘者の宣言じゃないですかー、やだー!
RPGモテール!
この先、何回見るかわからないけど、このOP画面だけは結構好みかもしれないなぁ
待て待て! 最初から負け越すつもりで勝負するのはよくないよ! 何事も勝つ気で挑もう! それが大事だって!
あー、はいはい
聞く気ない奴の答えだ!
ふわーあ
タカシオンの目覚めだね
うおおお! 目覚めるな、タカシオン!
今、お前のセーフティーバーを握ってるのは悪魔のような顔をした眼鏡だぞぉぉ!!
なるほど、目覚めるなときましたか
じゃあ、お言葉に甘えてベッドに飛び込みまくってみようか
もがもが、もがもが
やめろ! タカシオンがシーツにめり込んでいく! そういう遊び方するゲームじゃないんだって!
壁に突っ込み続けてみたり……
デュクシデュクシ、デュクシデュクシ
やめろぉ! 自分で見てて痛々しい!
あと、このゲーム、意外とこういう当たり判定厳し……っ
――あ
ご、ふ……
だから、言った……の、に
そう言ったタカシの言葉を最後に、タカシオンが倒れ、僕の目の前も一緒に真っ暗になる。
ああ、終わりだ――そう思った。
BadEND
『壁の染み』
――――
おい、話聞いてるのかよ!
こっちは本当に緊急事態なんだって!
ああ、いや、聞いてるよ、大丈夫。
ただ、ね。
僕と違って、セーブされずに何度でも助けを求めにきてしまう君は、ひどく哀れな存在なんじゃないかって同情が芽生えてね
何の話――!?
ううん、こっちの話だよ。
さあ、じゃあ、今度こそ話を進めようか。
お、おう……。
君の辿り着くべき物語、その終端を目指して、ね。
BadEND
『本棚に小指』
BadEND
『小銭が足りない』
BadEND
『鮮血の結末』
BadEND
『サラマンダーよりはやーい』
BadEND
『ドブに嵌まって』
BadEND
『竜の巣』
BadEND
『釜井たちの夜』
BadEND
『ちょっと田んぼ見てくる』
おい! 話聞いてるのかよ!
なんだろう……
なんだろうって、何が?
なんか人と接するの、だるい
どうしたの!? 何があったの!?
昨日から今日にかけての十数時間で、お前という男にどれだけ過酷な時間が襲いかかったの!?
なんかなんでもできるって自由度高すぎる遊び場を与えられるとさぁ、人間って結局、抑圧された暴力回路を機能させるしかないのかなって、そんなむなしい気持ちになるんだよね……
そんなこと言うなって! どれだけ悲惨な状況に置かれたとしても、それでも最後の理性は失わない! そんなところに人間性ってやつが見えるんだと俺は思う! 希望を失うな! 人類を、舐めるな!
ちっ
誰のせいでこんなことになってると……
すごいすれてる!!
と、とにかく頼むって。俺、お前以外に頼れる奴がいないんだよ。もう完全に手詰まりなんだ。助けてくれ。
ゲーム……ああ、ゲームな。
わかったよ。僕にはもう、それしかない。誰かの手で作られた箱庭の中で、遊ばれているとも知らない愚かな人形たちを相手に、全能の神を気取るような真似しかね……。
本当に何があったの!?
『RPGモテール!』
ぷっ、くふふふっ! あははは!
お、おお、ははっ。
こ、ここ笑えるよな?
うるさいな、集中させろよ。
あ、はい……すいません……。
ふわーあ
あ、ここでまず最初に勇者の目覚めな。
ここから仲間のところに……。
タカシオン、『ダッシュスラッシュ』
え?
ダッシュスラッシュ!!
タカシオンが目覚めた直後、唐突に自分が寝ていたベッドに剣撃を叩き込む。
衝撃にベッドが真っ二つになり、宿の一室に木屑と枕に詰まった羽毛がぶちまけられた。
えええ!? なになになに!?
このまま表に出ると、ミカエルとサキエルに捕捉される。二人に捕まる場合、かなりの高確率で話が拗れて刃傷沙汰に発展しかねない。何回か無事に突破できたこともあったけど、マイクセンサーの感度だったり、プレイヤーの声の調子・興奮。コントローラーを握る手の発汗や熱まで感知してるっぽくて、毎回同じ結果を出すのが困難だった。
え? え!? ええ!?
安定して二人を突破できない以上、普通に表に出るのは自殺行為。だから二人に会わないように宿を出る手段も模索したけど、どうもタカシオンが寝てる間に二人が仕掛けた脱出を防ぐための罠があちこちにあるみたい。解除を始めると二人に気付かれるし、どうも昨日のセーブ時点で罠の設置は終わってるみたいだから、何回ロードし直しても状況は変わらない。だから、最終手段を取ってみた。
最終手段って……。
スタァァァァァァァップ!!
宿の備品、および営業用の資材を破壊することで、NPCの衛兵を部屋に誘い込む。これでタカシオンが衛兵に捕縛されると、問答無用で留置所に放り込まれるんだけど、その流れで仲間二人にも罠にも捕捉されずに宿を出られる。これが最善の宿の出方だよ。
す、すごいな……よくこんな方法……
大したことないよ。そのために君が犠牲になった回数に比べれば、僕の思考錯誤なんてさしたる労力でもない。
え? なに? 犠牲?
気にする必要はないよ。どうせ、誰も覚えちゃいない。それよりも、今度は留置所を脱出して、魔王の城を目指そう。
このゲーム、魔王とかいたんだ!?
もちろんいる。目下のところ、魔王を倒すのがこのゲームのクリア条件の最有力だね。もしもそれで駄目だったら……はは、はははははははははははははははは!
マコト!? マコトぉぉぉぉぉぉぉ!!
続けよう。
僕たちのゲームを。
その後も、タカシオンの旅路は困難を極めた。
タカシオン、『裸絞め』からの『ネックツイスト』だ。
『裸絞め』! 『ネックツイスト』!
ぐ、ぐあああああああ!!
え、衛兵の爺さぁぁぁぁん!!
仕方ない。いつまでも留置所に入っていると、ミカエルとサキエルの二人が保釈金を払いにきてしまう。二人に金のことで借りを作ってみろ。一生財布を握られた挙句、ついには外出の自由も奪われて監禁生活だぞ。他人が口の中で咀嚼した食事を、口移しで食べさせられる生活が嫌なら多少の犠牲には目をつむるんだ。
ペンギンかよ!?
おおお、何やら風光明媚な土地に……。
ここを渡り切ったら、タカシオンの『ハードブレイカー』で橋を落とすよ。
なんで!?
最初の都、ハマジリで衛兵を殺害したりして脱獄してるからね。追手がかかってるんだ。それにミカエルとサキエルの二人も、タカシオンの追跡を諦めてない。この橋を落としておけば、この大河を渡るにはかなりの労力が必要になる。追手から距離を取るには最善だ。
でもこの橋……さっきのイベントで、たくさんの人が協力して作り上げた橋だって……。
もちろん、人々の想いは大事さ。だけど命には代えられない。仮にこの橋がなくなることで路頭に迷う人が出たとしても、それは僕でもなければ君でもないし、タカシオンでもない。まさに他人事ってやつさ。
か、変わったな、マコト……。
変わるさ。そうでなきゃ生きていけない。
タカシオン、『ハードブレイカー』だ。
『ハードブレイカー』!!
きゃああああああ!!
なんで!?
勇者様、なんでええええええ!?
許さない……許さないぞ、勇者ぁ!!
こ、心が痛い……!
生き残るために他者を犠牲にする。
食事だって、同じことだろ?
あらゆるものを犠牲にしたけど……やっと魔王の城にまで辿り着いたな……
人生は失って得て、失って得ての繰り返しだよ。どれだけ足掻いても人の腕は二本しかない。抱えきれないのに新しい物を欲しがれば、持ってる物を捨てるしかないのさ。
それが生きるってことだろ?
なんかタカシオン、魔王より魔王っぽいな!
で? 魔王の城の攻略はどうする? ここまでのダンジョンとかは色々抜け道を駆使したりしたけど、さすがにラスダンは……。
問題ないよ。城の正面じゃなく、裏手の方から回り込むと、テクスチャの一部に粗い仕事がある。そこをこじ開けて、タカシオン一人をねじ込めば魔王のいる玉座の間までショートカットだ。
抜かりねえな!!
うわぁ、本当にここまでショートカットできたよ……
最小限の労力で最大限の結果
それが賢い生き方ってもんだろ?
タカシオン本当に俺の分身!?
俺にはもうそうは思えないんだけど!
遊びはここまでだ。
――魔王が、くる。
ぐふふふ、勇者よ。
よくぞ、ここまでやってきた――!
我こそが魔王!
魔王竜『ワルザー』なり!
うおわああああ、魔王出たああああ!
っていうか、魔王って竜だったの!?
まぁ、そのあたりのメインストーリーは大体飛ばしたし、初見だと驚くよね、初見だと。
ぐっふっふ、貴様にはずいぶんと苦しめられた。殺された配下たちの弔いもせねばならぬ。百度死に、百度生き返らせ、そして最後にもう一度殺し、魂を滅ぼし尽くしてやる!
発言が結構、えぐいな!
百回……たった百回か……。
その程度で晴れる恨み、大したことないな。
お前はお前で怖いよ!!
でも、それが今は心強くもあるぜ! どうせお前のことだから、この魔王の攻略法も何か掴んでるんだろ? あっさりとやっつけて、エンディングまで一直線だ!
――よ。
へ?
魔王の攻略法なんて、まだ未知だ。
僕たちは奴に一度も勝ててない。ここからは……ただのガチンコ勝負だ。
た、ただのガチンコ……!
確かに、勝てるかどうかはわからない。
――だけど!
狂気の沙汰ほど……
面白い――!!
くるがいい、矮小な人間の勇者よ!
貴様を、人々の希望をねじ伏せ、我々がこの世界を支配し、勝者として君臨する――!
そうはさせるか!
うおおおおおおおおおお――!!
勝つさ――。
命の限り、燃やし尽くしてでも――!!
――さあ、どちらが勝つか、勝負だ!!
いや、あの!
かかってんの俺の命なんですけどぉぉぉぉ!!
中学生★日記
二日目(中篇)――了