神輿







あれは自分が幼稚園の頃でした。


当時住んでいたアパートで六畳一間の居間に家族四人が川の字になって寝ていました。


左から父、弟、母、自分の順の並びで狭い空間で寄り添い合うように寝ていたのですが、ある日こんな夢を見ました。

















自分は近所の川原(金八先生のOPのような所)で独り夜の散歩をしているようでした。


すると街灯に照らされて向かいからお神輿がやってくるのが見えます。






担いでいるのは白装束を来た4人組の男性。






掛け声を上げるでもなく、黙々と何の威勢もなく無機質な感じで担いでいるのが不思議に映りました。



その神輿がどんどん近づいてくるとあることに気づきます。























白装束の4人がのっぺらぼうなのです。



その異様さにも恐怖を感じたのですが、何より違和感があったのがその神輿の中にある気配でした。


小さなお社のような形をしていて、その木目の隙間からモヤモヤと邪気が立ち込めていました。













“決して中のモノと目が合ってはいけない”







直感的にそう感じた自分は神輿がどんどんこちらに近づいてきても、会釈も何もせずにずっと目を伏せていようと決めました。
そして神輿が自分の横を通り過ぎる寸前、

と激しい音がしたので、反射的に神輿のお社を向いてしまいました。


すると、その木目の隙間からギョロリと光る眼と合ってしまったのです。



それはこれまで見た事の無い人とも動物とも取れない異形で血走った悪魔の目でした。

うわああ!

と自分は恐怖で叫びたくなる口を手で抑え、そのまま前進して神輿を後にしました。



















“絶対振り返ってはいけない”






そう思って恐怖で震える気持ちを落ち着かせながら歩きはじめてしばらくすると

エッサ!ホイサ!エッサ!ホイサ!



と威勢の良い声が後ろから聞こえてきました。



その声がどんどん近づいて来ているので、振り返ってみるとさっきの神輿を担いだ白装束四人組が猛スピードで自分に近づいてくるのです。

うわああ!


今度は悲鳴をためらう余裕も無く叫び上げながら自分は必至でその場から逃走しました。




どこまでも付いてくる神輿の不自然さに、なかば自分はこの現象が夢であると気づき始めたので

覚めてくれ!お願いだから早く覚めてくれ!

と祈りながら走り続けました。


気づくと森の茂った山奥までその地獄の追いかけっこは続いていました。


それでもだいぶ神輿を撒けたな、と思える距離まで来たところの脇道に洞穴を見つけたので、そこに自分は身を隠しました。

エッサ!ホイサ!

神輿が本道を通過する足音が遠のき、消えて行ったのを確認すると、
自分は安心感から完全に脱力して、

そのまま洞窟の中で眠ってしまいました。




目覚めて辺りを見回すとそこはいつもの我が家で、布団にくるまって寝ている自分がいました。











よかった。やっぱり夢だったんだ

と安心しましたが、もう一度よく周りを見渡すと、まだ外は暗いのに川の字でいつも横に寝ているはずの家族の姿がありません。



空の布団が三つあるだけ。



徐々に恐怖を感じ始めると




と激しく玄関のドアの鳴る音が聞こえました。

一瞬、やはりまだ今は夢の中で、あの4人の白装束と神輿が自分を追って来たのかと恐怖が頭を過ぎりましたが入ってきたのは父、母、弟の三人でした。

お前どこに行ってたんだよ!?

自分が彼らに聞こうとしていた事を先に、しかも怒声交じりに父に言われました。母はなぜか膝から崩れて泣き出しています。弟も母につられて泣きはじめました。自分は全く状況が呑み込めず

何って、ずっと寝てたと思うけど?

そんなわけないでしょう!?

と母が大声を上げました。


これまでの経緯を聞くと、
母が夜九時ごろにトイレで起きた時、隣に自分いないことに気づき、
家族全員を起こして部屋中を探しても見当たらず、
ご近所に聞いて探してもわからず、
揚句には警察を呼んで町ぐるみで大捜索の大騒ぎになっていたようなのです。


そのとき時計を見ると深夜二時になろうかというところでした。





















では物理的に家で寝ていないという事はあの神輿は夢ではなかったのか?




















あの時、自分は本当は一体どこにいたのか?





















もし自分があの神輿に捕まっていたらどうなっていたのか?





















未だにその答えはわからないままでいますが、自分はその一件以来、一回も神社やお寺の敷居は跨がないで暮らしています。



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