冷たい

――アナタは冷たい人












小学生の時、クラスメイトに言われたその一言は




私の心を深く抉った。




気持ちや考えを言葉にすると



それまでの関係のどこかがほころびはじめる。








――例え、口にした言葉が正しいと思っている事でも













だから、私は言葉を紡ぐことを避けるようにしました。




そうすることで、私の”冷たい部分”を陽の当たらない場所へ隠すことが出来ると考えたから。





柴野一樹

お、もうこんな時間か
んじゃ、そろそろ帰るか

朝倉葵

……

柴野一樹

わりぃな、付きあわせちまって
今度、何かお礼するからよ

朝倉葵

い、いえ……そんな

柴野一樹

まぁ、気ぃ使うなって

柴野一樹

あぁ、覚えるもん多いな……
これは気合いれてかねーと

朝倉葵

……

柴野一樹

ん、お前帰らないのか?

朝倉葵

え……帰ります

柴野一樹

あぁ、戸締まりとかしないといけねぇな

その先に待っていたものは





――孤独だけでした。




それは、当たり前のことなのでしょう。






いくら、隠していようとも”冷たい人間”が辿る末路は寂しいものなのです。





孤独がもたらした寂しさの中で




私は矛盾とも言える願いを抱くようになりました。


――友達が欲しい







こんな”冷たい”私に優しく微笑みかけてくれるような――










教室がクラスメイトととの唯一の繋がりの場で――








私の席、私の居場所――







ここに居れば――




いつか、誰かが私を見つけてくれる――




言葉を交わすのは苦手だけれど





”冷たい”と言われるような私だけど





――いつか、私に気付いてくれるって





――孤独に苦しむ私を










一人でもいい















――誰かきっと

柴野一樹

わりいな
職員室の場所もわかんなくてよ

朝倉葵

……いえ

朝倉葵

あなたは……

朝倉葵

……私と友達になってくれますか?

朝倉葵

あの……

柴野一樹

あ?

朝倉葵

い、いえ

柴野一樹

あぁ、名前か?
そういや言ってなかったな

柴野一樹

同じクラスの柴野一樹だ
好きに呼んでくれよ

朝倉葵

え……
私の名前は、朝倉葵

柴野一樹

改めて、今日はありがとな
朝倉

柴野一樹

そんじゃな、気ぃつけて帰れよ

朝倉葵

……はい

朝倉葵

……

柴野一樹

あ、そうだ

柴野一樹

また、わかんねーとこあったら
聞いていいかー?

朝倉葵

!!

柴野一樹

いや、面倒だとか
うざかったら全然良いんだ

朝倉葵

わ、わわ……

朝倉葵

……

アナタが孤独の中の私に手を差し伸べてくれているのなら

朝倉葵

――私で

朝倉葵

私でよければ!!

私はその手を掴んで離さない

つづく

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