袴装束を着こなした老人を前に、まだ若い少年とも呼ぶべき彼は、その言葉を耳から入れた瞬間に、ついにこのクソ爺は記憶能力に劣化が見られ、まさか自分の年齢を忘れたんじゃなかろうなと訝しむものの、それを直截するのが面倒になって、お茶を片手に苦笑した。老人の右側に置かれた刀が本物であることは疑う余地もなく、二人がいる場所が熱気の残る道場であり、いくら片手に茶を持ちながらの会話とはいえ、ほんの数分前まで相応しい何かが行われていたことは確かだ。
けれど、付き合いが長いためか、切り替えが上手いのか、二人の間には縁側で茶を飲む間柄のような雰囲気があり、闘争の余韻すらそこにはない。もしもこの場に、武術家と呼ばれる係累の誰かが存在したのならば、そうであればこそ、疑念を抱くだろう。熱気の名残が存在するのにも関わらず、明らかに違うと見える二人には、どちらにも怪我の一切はなく、いうなればその名残だけが異物として漂っている事実があまりにも不釣り合いだ。
不釣合いといえば――この二人、場ではなく当人たちにもあるだろう。それは服装に関することでもあるが、血縁関係はないものの――たとえば、孫と祖父の関係であったとしても、いや、そうは見えないのだからたとえ話にはならないか。
不釣合いでも。