#1 裕子と生きる意味
#1 裕子と生きる意味
ねえ、ママ
なあに
人間は、どうして生きているの?
えっ?
なぜみんな、今を生きようとするの?
きゅ、急にどうしたの?
私にはわからない。人間に、生きている意味なんて、あるのかしら
……あ、あなた!ちょっときて!あなた!
#2 裕子と物欲
今日は裕子の誕生日だから、何でも好きなのを買ってあげるからね
…………
どうしたの?
私たちは、物欲が大きすぎるのよ
えっ?
現代はモノがあふれているから、なんでも欲しがってしまう。だけど、それで私たち、賢くなったといえるのかしら?
ゆ、裕子……
モノはいらない
ひとつ手に入れると、さらに手に入れたくなって、いつか私の腕で抱えきれなくなるから
あなた! 裕子がまた変なのよ! あなた!
#3 裕子とカレー
今日は裕子の好きなカレーよ
わあ、ありがとう、ママ
ぱくっ。
どう、おいしい?
うん、おいしい!
けど――
けど?
このおいしいカレーを食べられない貧しい国の人たちのことを思うと、私達はなんて幸せなのだろうと思うわ
え?
幸せすぎる。そう、幸せすぎるのよ
こうして私がのんきに晩御飯を食べている間にも、どこかで人が苦しみ、死んでいく
ゆ、裕子?
そんなこといってもキリがないのはわかってる。でも、それを心の片隅においてこの食べ物の味をかみしめなければ、私達は他人のことを思いやることさえいつか忘れてしまうような気がするのよ……
あ、あなた!裕子がまた変なのよ!あなた!
#4 裕子とエアコン
もうお昼ね。レストランで何か食べよか
わあい。わたし、フルーツパフェが食べたいな
そうね。じゃあそこのカフェにしましょうか
わあ、すずしい~!
気持ちいいわ~
やっぱり外と違って中は涼しいわね
すずしい。確かにすずしいわ
でも……
でも?
エアコンでこれだけ涼しくなっているということは、本来室内にあった暑さが外に出ていることになるのよ
それが日本中のカフェで、いえ、一般家庭やオフィスビルでも行われているとしたら、一体わたしたちはどれだけの熱を排出していることになるんだろう
な、なにを言っているの、裕子?
夏に涼みたいのは、だれもが思う素直な気持ち。でもそれが過剰になれば、それだけ地球に負担がかかることを、私達は忘れてはいけないと思うの
こうしている間にも、南の島の人たちは温暖化による海面上昇で自分の住む場所がなくなってきているわ。私達は、その人たちのことも考えて、いまを暮らしていかなきゃいけないのじゃないかしら
ゆ、裕子!どうしたの、裕子!
#5 裕子と勉強
裕子、宿題をしているの?
うん。もうちょっとで終わるよ
そう、えらいわね。今日は何の宿題が出たの?
算数のドリルと漢字のドリル。全部答え分かったよ
あらあら。じゃあ、今度のテストは百点間違いなしね
ええ、そうかもしれないわ
でも……
でも?
百点をとることは、勉強の目的じゃない
いくらいい点をとったからといって、それが優れた人間であることの証明にはならないわ
ゆ、裕子……?
勉強は、物事の考え方や論理性を学び、自分を高めるためのひとつの方法に過ぎない。勉強することそれ自体が目的になって、点数だけを追うのは、本来の意味を見失っているわ
勉強は大人になってからの自分の生活をより豊かにするためにあるということを、私たちはもっと理解するべきだと思うのよ……
あなた! 裕子がまた変なことを言い出したのよ! あなた!
#6 裕子と新幹線
さあ、着いたわ
わ~い、ママ、新幹線って速いね。これから毎日乗ろうよ
あらあら、この子ったら。調子に乗るんじゃありません
はぁい
でも本当に速いわね。いつも乗ってる電車と全然違うね
ええ。確かに速いわ
でも……
でも?
それで浮いた時間を、私たちは有効に使えているのかしら
……裕子?
30分早く着いても、1時間早く着いても、結局その時間をゆとりには使わない。30分多く作業をして、1時間多く仕事をするだけ
時間が短くなっても、私たちはもっと遠くにいくだけで、移動時間は結局以前と変わらないままだわ
ど、どうしたの、裕子……?
生き急いでいるのよ、私たちは。この新幹線と同じように、ただ走り続けることしか考えていない。でも、人間は機械じゃない。私たちは時間を使って休まなければ、どこかで息切れすることを、もっと知る必要があると思うのよ……
あ、あなた! 裕子が生き急いでいるとか言ってるの! あなた!