突然起きた大爆発に、イチャイチャしていた２人は吹き飛ばされた。

　男は木の枝に逆さまにぶら下がって気を失い、女は湖の中に落ちてぷかぁと浮かんでいる。

　俺は自分のしたことの結果に満足し、隠れていた茂みから姿を現わす。

　そして湖の上を歩いて浮かんでいた町娘を引っ張って岸に上げる。
　気を失っているだけで、水は飲んでいないはずだ。
　次に木にぶら下がっている青年に手を翳し、魔法で下に落とすと、根本に横たわらせる。
　こちらも怪我一つ負っていない。

　特殊な保護魔法を使用したため、２人は本当に怪我一つ無い。

　もっとも……

　この爆発自体が、俺の魔法によるものだったりする。

　世界広しと言えども、ここまで器用に魔法を組み合わせることができるのは俺だけだろう。

　そう、俺は……。


　ちらりと、カップルらしき男女に目をやる。

　俺の名前はコードゥク・ソロ。

　またの名を、勇者コード。

　最初は、自分の編み出した戦法を試すために。

　次第に、それがどこまで通用するか試すために。

　そして……。

　あの頃、２人の仲間がいて。
　２人がいたからこそ、魔王を倒せた。

　だけど今は……俺は、１人だ。

　今頃あの２人は……。

リア充が爆発することを
勇者は望んだ

第１話
「勇者の爆発」

　町の食堂で、俺は飯を食う。
　食う食う食う。

　昔から大食らいで、他人の１０倍は食べないと満足できない。
　燃費が悪いと自分でも思うが、これは魔法のコントロールにそれだけエネルギーを使っているのだと俺は考えている。

　リア充を爆発させる。

　今日は３つのカップルを爆発させた。

　いずれも成功。
　怪我をさせず、気を失わせる。
　もちろん周囲に被害は出さない。

　別に俺は爆発でリア充を殺したいわけじゃない。
　怪我をさせたいわけでもない。

　ただただ、イチャついてるリア充を爆発させたいだけなのだ。
　だからわざわざ保護魔法で守ったり、念のため回復魔法を忍ばせたりしているのだ。

　本当に爆発させたいリア充は他にいる。
　今はそれを成功させるため、魔法同士のバランスを調整しているところだ。

　俺は目の前の肉にかぶりつき、水をがぶがぶ飲む。
　酒は飲めない。致命的に弱いから。
　だから水でいい。その分ひたすら食えばいい。

　たった１人で、何人分もの料理を。

　俺にはかつて、仲間がいた。

　１人は、この国の王子だ。
　なんとこの王子、魔王に捕らわれて、洞窟に閉じこめられていた。
　こういうのは姫様と相場が決まっている……と昔聞いたことがあるが、そもそもこの国にはお姫様がいない。
　魔王もだから仕方なく王子を攫ったのだろうか。

　俺は力試しにその洞窟に挑み、難なく王子を救い出し、国から報酬を貰った。
　王子は俺に感謝し、共に魔王を倒す旅に付いていくと言い出した。

　そもそも俺は魔王を倒すための旅をしていたわけじゃない。
　王子はなんの疑いもせず、そして悪意もなく、純粋にそうだと思い込んで、ついていくと言い出したのだ。
　それを王の前で宣言するものだから、俺も引っ込みが付かず……。

　もっとも、魔王に挑戦してみるのも面白そうだと思ったのも確かだ。

　小さい頃から俺は、魔法も剣も並以下で、育った村でも底辺クラスだった。
　辛うじて魔法を器用に扱えるという才能があったが、それで素質の高いヤツに勝てるわけもなく、地味な才能だと馬鹿にされ続けてきた。

　そんな俺が、王子を助け、勇者と呼ばれ、魔王まで倒したら……。

　馬鹿にしてきたやつがどんな顔をするか見に行こうと考えていたが、たぶんあまり良い気分にはなれないだろうなと、帰るのをやめていた。
　騒がれても面倒だし。

　食う量が尋常ではないため注目は集めてしまっているが……それでも勇者とは気付かれていない。

　王子は言うに及ばず。

　もう１人の仲間も……なかなか目立つヤツだった。

　美しい、金色の長い髪の女魔法使い。
　とんでもない魔力を持ち、単純な威力勝負では俺に勝ち目はなかった。

　気が付くと肉ばっかり食っていたからな、あの魔法使いは。
　野菜も食えと、俺は口を酸っぱくして注意したものだ。

　俺は色々なことを思い出してしまい、頭の中で身悶える。
　赤面するのを誤魔化すように、注がれた水を一気に飲み干す。

　美しい魔法使いは、とある事情により魔物が棲む塔に幽閉されていた。
　それを助け出したのが俺たちだったわけだが……。

　部屋はかなり特殊な鍵がかかっており、どこかで鍵を見付ける必要があった。
　しかし面倒だった俺は、魔法を器用に使って鍵開けを試したところ、あっさり開いてしまった。

　幽閉されていた魔法使いはそのことに感激し、弟子にしてくれと言い出した。

　どうも魔力はあってもそのコントロールは上手くないようで、俺のように器用に扱えることに憧れを持っていたらしい。
　結局弟子にはしなかったが、仲間として三人で旅をするようになった。

　魔法使いの女は世間知らずで、弟子にしてないっていうのに師匠と呼んで慕ってくるものだから、俺はあいつに色々教えてやったものだ。

　あいつは特殊な事情があり、それで随分と悩んでいて、話もよく聞いてやった。アドバイスもした。

　魔法のコントロールだって、師匠になったわけではないが、みっちり教えてやった。

　あいつは師匠、師匠と俺を慕っていた。

　俺を頼りにしてくれていた。

　手に取った肉にかぶりつき、残った骨を皿に投げ出す。

　俺はその声に、新たに取った肉を皿に落とした。

　見上げると、２人の男女が俺のテーブルの前に立っていた。

　男は、旅装ではあるが身なりのしっかり整った、背の高い優男。

　女は、金髪でどこぞのお姫様かと見間違えるほどの美女。

　ケインメーダ・リアトルワ。ケイン王子。

　レイナ・ハイマジック・キヒト。女魔法使い。

　かつての仲間。王子と魔法使い。
　この２人は……。

　そう、いつの間にか２人は、いい仲になっていた。

　２人はそう言って、お互い顔を見合わせて微笑み合う。

爆発してしまえ！

……続く