――とある研究所に彼女たちはいた

騎士

いやマジないですよ

魔法使い

なんじゃ!ヤブから棒に!

騎士

今までの勇者たちの苦労は何だったんだって感じです

戦士

いやー!《量産型勇者》すっげーな!

魔法使い

……

賢者

今や人類の支配地は大陸の8割です
電撃的な侵攻が成功したのは、ひとえに《量産型勇者》の力があってこそでしょうね

戦士

でも最近あれなんだろ?

騎士

喉元過ぎればなんとやら…
魔族の領土をほぼ獲得した今、《量産型勇者》は用済みでしょうね…

賢者

言い難い話ですが、教会でもそのような話が上がっています
彼らが魔法生物であることも、その背中を押しているようです

戦士

つまりどういうことなんだってばよ!

騎士

いらなくなった道具は処分するという話ですよ…

――数日後

騎士

どういうことなんですかっ!

魔法使い

だからなんじゃ!
ヤブからスティックにぃ~!

騎士

《量産型勇者》を攻撃した人たちが反撃を喰らい全滅しましたよ

魔法使い

???
なにかおかしいかの?

騎士

……

騎士

…いえ、そうですね
「おかしく」はありません

魔法使い

うむ

賢者

そうですね…
彼らは自らの身を守っただけ、といえます…

戦士

つまりどういうことだってばよ!

騎士

彼ら…《量産型勇者》を人類がエネミー判定しないことを祈るしかありません…

――さらに数日後

騎士

エネミー認定されました。彼らは人類の敵です…

戦士

あん? 魔族を倒した勇者じゃねーのか?

騎士

勇者だろうがなんだろうが
《権力者》に剣を向けた時点でこうなる運命だったのですよ

魔法使い

……

騎士

もう一つ

騎士

今すぐ《量産型勇者》を停止させるか処分してください
でなければ私は《薬草中毒者》を殺さなくてはならない…

魔法使い

紐付きじゃの~

賢者

言いづらいのですが…教会からも同様のオーダーが来ています…

戦士

かーっ!味方を殺せってか!?
これだから権力者の犬はよぉ~!

騎士

不本意ですが《筋肉バカ》の言うとおりですよ…

騎士

それで…?
いかがでしょうか…《薬草中毒者》殿

魔法使い

……

魔法使い

まあ頃合いじゃの!

魔法使い

なにせ我は天才!じゃからの!!!

賢者

……

魔法使い

ぶっちゃけあれじゃぞ!
《量産型勇者》に弱点はないぞ!

騎士

弱点とかではなくてですね…

魔法使い

製作者であり使用者である我の命令も聞かんということじゃ

賢者

…では

魔法使い

そしてこうなることを見越した我は新たな人造ホムンクルスを産みだした!!!

戦士

お、おお!!

魔法使い

そう、それは…!

魔法使い

《駆逐型勇者》!!!

勇者

……

戦士

また勇者か!?

騎士

それを使えば《量産型勇者》は全て処分できますか?

魔法使い

無論じゃ!

魔法使い

なんせ我は…

魔法使い

天才!じゃからの!!!

賢者

よかった…
魔法使いさんを○○すことにならなくて…!

賢者

では、早速このことを報告してきますねっ!

騎士

私も失礼します

魔法使い

うむ!
また来るが良い!

魔法使い

……

戦士

んー?
どうしたんだー?

魔法使い

いやなに…

戦士

???

――さらにさらに数日後

騎士

《駆逐型勇者》が《量産型勇者》を処分し終えました…

戦士

いいことじゃねーの?

賢者

その後、《駆逐型勇者》は一般の人々を襲い始めました

魔法使い

まあそうなるな!

騎士

知ってましたね?

魔法使い

無論!

魔法使い

なんせ我は!

騎士

天才…

魔法使い

……

賢者

勇者因子ですね?

魔法使い

うむ

賢者

《駆逐型勇者》は勇者因子を保持したものを襲うようになっているのですね?

魔法使い

正確には「より多く」の勇者因子を保持しているものから「優先的」に襲うようになっておる

魔法使い

《試作型勇者》をはじまりとした《量産型勇者》は通常の人よりも多くの勇者因子を保持しているからの!
効率の問題じゃよ

騎士

では《駆逐型勇者》は人類を滅ぼすまで止まらない、と?

魔法使い

正確には勇者因子を保持する人類じゃから…1割は生き残れるぞ?

戦士

……

騎士

魔族を滅ぼし、人を滅ぼす…
それしか道はありませんでしたか…?

賢者

国家連盟協会も聖堂十字教会も魔法使いさんを《世界の敵》に認定しました

賢者

わたしたちはどうするべきだったのでしょう…

魔法使い

我は

魔法使い

我は許さぬ!
我が家族を奪った傲慢な魔族を!
同胞すら騙り殺す人類を!

魔法使い

我には復讐をなせる可能性があった
ならば成すべきじゃ!

魔法使い

なんせ我は

賢者

…天才

魔法使い

…じゃが、我はここまでじゃな

魔法使い

うむ
好きにするがよい

戦士

うぇぇぇえ!
オマエはそれでいいのかよ!

魔法使い

いいも悪いもあるまい?
事ここに至ってはどうすることもできぬよ

騎士

……

騎士

……

騎士

なぜ、逃げなかったのです

戦士

そうだぜ!
さっさと逃げてればこんな状況にも…!

魔法使い

それは無責任というものじゃ

魔法使い

当事者である我がいなくては
汝らが処罰されよう?

賢者

…それは

魔法使い

いいのじゃ

魔法使い

我はもう満足じゃ!

戦士

っく!
もうどうしようもねーのかよ!

騎士

……方法はなくも

賢者

それはなんですかっ!

騎士

この場の全員で新大陸へ逃げます

戦士

新大陸?

騎士

そうです…
以前から謳われていました…
終末竜の海を越えた先にある大陸

騎士

あるかもわからないそこを目指す以外、助かる道はありません

賢者

…新大陸ですか
……いずれは皆、そうするしかなくなるのでしょうね

賢者

魔族と人類、それぞれが1割程度の生き残りしかいなければ、文明が崩壊することは想像に難くありません

賢者

そうなる前に、人々は大海へ漕ぎだすでしょう

戦士

それじゃあその新大陸とやらに辿り着いても殺されるんじゃ…?

騎士

仮に大陸があるとして、先住民との兼ね合いもあります
命を狙われるのは、この場合もはや問題ではありません

賢者

はっきりいうなら、それどころじゃなくなる筈ですから…

戦士

…?
でもそれって根本的解決になりませんよね?

騎士

その定例文を聞くたびに斬りたくなるのはなぜでしょうね…

騎士

《筋肉バカ》のいうこともわかります
ですが、少なくとも今は…
この大陸に住まう魔族と人類すべてに命を狙われているのです

騎士

身を隠すのは、困難を極めます…

魔法使い

別によいとゆーとろーに

魔法使い

我は成したいことを成した
すべてことなし
後のことはただただ天恵じゃ

騎士

友を…私たちを救った相手を…殺したくないという気持ちを理解して欲しいですね
この《薬草中毒者》が…

賢者

ですが新大陸に行くとしても問題はあります
移動手段をどうするか…

騎士

ちょっとそこの《筋肉バカ》

戦士

あんだよ!

騎士

あなた確か商船持ってましたよね。魔族領土との貿易用の

戦士

なななな…なんのことだぜ…

騎士

種は割れてんですよ…
あなた…魔族でしょう?

魔法使い

ほーちっとも気づかなかったー

賢者

ええええっ!?
嘘でしょう!?

騎士

マジですよ。角隠しに兜かぶってますよこの《筋肉バカ》

騎士

《薬草中毒者》はずいぶん前からご存知のようですが…

魔法使い

そうじゃのー

魔法使い

じゃが、それがどうかしたのか?

戦士

いやいやアタシ魔族じゃねーよー?

戦士

ほんとだよ―?

賢者

こ、こんな身近にスパイがいたってことですか…っ!

騎士

スパイといえばあなたもですよ
《元聖女》

賢者

えっ!?

騎士

聖堂十字教会は全世界に広がっていますが、それでもあなたはこの国の高位神官です

騎士

そんな人間が「隣国の王子」と「王子の部屋から朝帰り」

騎士

国家機密漏洩を疑われないとでも思っていたのですか…?

賢者

ままままま待ってくださいっ!

賢者

えっえっえっ!?

賢者

なんで筒抜けですか!?

騎士

え?
隠してたんですか…?

魔法使い

ウブじゃの~

戦士

魔法使いも気づいてたのか?

魔法使い

なんせ我は!

戦士

あー…天才だもんなー

騎士

知ってましたかふたりとも…

戦士

あ?

賢者

はわわ!はわわ!

騎士

今回の「勇者騒動」がなければ
私たちは処刑なり投獄されてましたよ…

騎士

《筋肉バカ》は魔族なので捕らえられたのち拷問処刑されていたでしょうね…

騎士

《男に貢ぐだけ貢いで気づいたら捨てられている元聖女》もスパイ容疑で投獄です

賢者

ま、待ってください!なんですかそのアダ名!?

騎士

そして私も…
そんなあなたたちとつるんでいることで国家反逆罪に問われるところだったそうです…

騎士

…全部、知っていましたね

賢者

!!

戦士

!?

魔法使い

なんのことかのー?

騎士

あなたは…

賢者

騒動がなければ…ということは

戦士

アタシたちをそうさせないために勇者を創ったっていうのかよ!

魔法使い

気のせいじゃ
それよりも、戦士は同胞を殺した原因の我が悪くないのか?

戦士

いやつってもアタシ魔族じゃねーし?

戦士

魔族だったとしても…そんな顔してるダチ公は責められねーよ?

戦士

全滅したわけじゃあ、ないんだしな

魔法使い

そうか…

騎士

感謝はしてませんよ…
私たちを救うために世界を滅ぼしただなんて…

騎士

まったく…重いものをこちらにも背負わしてくれましたね…

魔法使い

気にすることもなかろう
我は我がやりたいようにやっただけじゃ

魔法使い

気づいたのなら…それも難しいじゃろうが…

賢者

魔法使いさん……

騎士

あっ
《男を見る目が絶望的にない元聖女》は感謝したほうがいいですよ

賢者

えっ

騎士

いやあなた本当に遊ばれてたうえ、ガチで漏洩してるじゃないですか…

賢者

ちょ!ちょっ!?

騎士

そこそこ名前の知られた《処女性を失って久しい元聖女》ですから
たとえ捕らえられたとしても表沙汰にされることはありませんでしたし

騎士

暗く湿った牢獄で、死ぬまで延々と慰みものにされるのがいいとこでしたよ…

いやほんとに

賢者

っ!?

賢者

ま、まじですか…?

騎士

(こくり)

騎士

《筋肉バカ》はどうしますか?
今なら騒動に紛れて魔族領土へ帰ることもできますよ…

戦士

だから魔族じゃねーし?

戦士

それに、お前らだけ放っておくのも心配だしな!

賢者

えっとー…
わたしは…行くしかないですねぇ…

賢者

きっとだいじょうぶ!新大陸で素敵な出会いがあるはず!!

騎士

無理です

戦士

ないな!

魔法使い

まっこと残念じゃが…

賢者

わたし、どれだけ男運ないんですか!?!?

賢者

はー…なんかもー…そーですねー…将来の夢とかいろいろ考えていたのになー…

騎士

郊外に小さな家を買って?

魔法使い

ペットに愛らしい子犬を飼う?

戦士

仕事を辞めて彼のために専業主婦になる?

賢者

だから!なんで!知ってるんですかっ!!

騎士

わかりやすいからですよ

騎士

話が逸れました
全員の了解がとれたようですし、今夜
闇に紛れて行きますよ

戦士

お前らに監視はついてないのか?

賢者

この場所のことも気づかれているかもしれません!?

騎士

おそらくですが…大丈夫でしょう…

ですよね?

魔法使い

まぁの

魔法使い

この場所には認識阻害の魔法がかかっておる
物理的な結界で構成されるものじゃから、レジストを使ったところでわかるまい

魔法使い

じゃが…

魔法使い

我はお主らと逃げていいのじゃろうか…

戦士

……

騎士

……

賢者

……

騎士

いいに決まってますよ
こうなりゃ運命共同体ですよ

一人だけ抜け駆けは許しませんよ…

賢者

そ、そうですよ!
魔法使いさん、ひとり残してなんて行けません!

戦士

あたしは…

戦士

いいと思うぜ!ちなみに魔族じゃねーぞ

戦士

どうせ「魔族領土」でもスパイだなんだって言われるだろうしなぁ~

戦士

だから魔族じゃねーって!

魔法使い

…お主ら

魔法使い

まったくもってバカばっかりじゃの!

――そして彼女たちの行方は杳として知れぬまま

――時は流れ…

騎士

まーさかまーじでこんなことになるとは思いませんでしたね

戦士

あたしは悪くない!悪くないぞ!

賢者

落ち着きましょう!まずは人心掌握ですよ!

魔法使い

ふっふっふっ!

魔法使い

ふわーっ!はっはっはっ!

魔法使い

さあ者共!我を神と崇めるのであれば!
汝らに祝福を与えようぞ~!

――遠い海の向こう側 笑い声が響いた…

――END

勇者パーティ 後編 [ 勇者の真実 ]

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