下町の古びたアパート。二階の真ん中。

そこは、大学生の初めての一人暮らしみたいな部屋。居間と台所と便所、その三つの部屋で構成されている。そんなこじんまりとした部屋に、勇者様は住んでいた。

隣の部屋の人

勇者サン勇者サン~。イマスカ~。

隣の部屋の人が勇者の部屋の天井から顔を覗かせる。背中にある黒子から生えた毛を抜こうと鏡と格闘をしていた勇者様は、当たり前のように返事をする。

勇者

何?どがんしたと?

勇者様は、キュウシュウ出身の地方民だ。トウキョウには三年前に上京してから住んでいるが、なかなか方言が抜けないでいる。

隣の部屋の人

勇者サンオシゴトヨー。夕飯オゴルカラ松崎しげるミタイナ虫退治シテヨ~。

勇者

あー、仕事。ちょっと待って、すぐこっち終わらせるけんが。

勇者

うん。じゃあそっち行くばってん、鍵開けといて貰ってよか?

隣の部屋の人

鍵コワレテルカラカッテ入ッテダイジョブヨー。

勇者

ああ、そうなん?

魔王が滅んでから勇者様の仕事は、犬の散歩から浮気調査まで便利屋のようなものばかりになっていた。魔王が居なければ、モンスターも居ないわけで、そうなるのは当たり前なのだが。

隣の部屋の人の玄関前。勇者様は取り敢えずノックだけして中に入る。

勇者

おーい、入るけんねー。

勇者

暗い…。

しかし、勇者様は特別な訓練を受けているため、暗闇は慣れているのだった。

勇者

痛っ…!…うう、足打った…。

しかし、訓練とかまったく関係なく、素で怪我をする。そんな勇者様だった。

勇者様が足を打った物を見てみると、そこには「開けたら老ける」と書かれた段ボールが一箱。

その上を、奴は歩いていた。

勇者

あ、居た居た。

しかし、勇者様は特別な訓練を受けている。素手でいく。

段ボールに跡がべっちゃりとへばりつく。勇者様はパンパンと手を払うと、隣の部屋の人に呼び掛ける。

勇者

おーい、潰したばってんこれでよかとかね?段ボール汚れてしもうたばい。

………

…………………………………………………。

返事がない。いつもならひょっこり天井から顔を覗かせて「アリガトネー。」何て言ってくれる隣の部屋の人の返事がない。

嫌な予感がする。何だろうか。アルバイト初日に別に必要な物はないと言われているのに、色々要らないものまで持って行かなきゃいけないような気になるようなそんな感じがする。

そう感じた勇者様は、バタバタと一階の人の迷惑になるほどの足音を立てながら玄関前へ向かった。

隣の部屋の人の部屋を出て、そのままのスピード自分の部屋の前迄走る。自分の部屋のドアが1センチ程空いている。

勇者

本当いやばい。何もなかぎんよかばってんが。

勇者様はゆっくりとドアを開けた。

魔王

ちょっと!そうゆうこと言うの止めてよ~!もー!

隣の部屋の人

ソンナコトイッタッテ魔王サン顔アカイヨー。勇者サンニアイニキタッテコトハソーユーコトダヨー。ワカルヨー。

母ちゃん

あら!そう!?あの子も案外モテるとねー。意外な事実ばい!

幸子

やばーいこれチョーうまーい。オバサンこれなに?

母ちゃん

オバサンじゃなかとよピチピチの46歳よ!あ、それは「タマゴダケの山」って言うお菓子やけど幸子ちゃん知らんとね?

女子会。女子会が行われている。

勇者様は直感的にそう思った。

母ちゃん

あら!モテモテのうちの息子の帰ってきたばい!ほら、ぼーっとそこに突っ立っとらんでこっちこんね!

勇者

え、あ、うん。

戸惑いながらも取り敢えず女子会の輪の中に入った勇者様。

隣の部屋の人

勇者サン勇者サン朗報ヨー。

魔王

え、もう言っちゃうの?

母ちゃん

あんたそいば言いにきたっちゃなかとね!大事なことやけんあんたが言い!

魔王

……

勇者

……魔王。

魔王。突っ込むタイミングを逃したがなぜ世界を征服していたこいつが勇者様の部屋にいるのだろうか。

魔王。二年前、勇者様と敵対し、殺し合った相手。

最終的に魔王は初恋をしている少女のように顔を赤らませ、

魔王

…………貴方の事が好きです。

と告白し、

勇者

いや、普通に無理ばい。

と速攻に振って、その後『いや、だって魔王やけんね、あんた。フツーに嫌。』と言った事をきっかけに、魔王が魔王を辞めた。

勇者

二年振りやけど、生きとったとねこの人。

勇者は魔王の姿を見て昔の記憶を思い出していると、いつの間にか魔王は勇者の目の前に移動していた。

魔王

あ、あの日振りだね…。勇者…くん。

勇者

ははは!あんた生きとったとね!死んだとばっかい思っとたばい!

さらっと笑顔で酷いことを言う勇者様。

魔王

そ、そうだよね…。勇者…くん私の事嫌いだもんね…。…魔王辞めたって好きになってくれるはずないよね…。

勇者様の言葉に涙目になる魔王。

そんな見てるだけでかわいそうになってくる魔王にとどめを刺すつもりなのだろうか、勇者様はこれほどにない笑顔で言葉を放つ。

勇者

別に魔王ん事嫌いな訳やなかとばい。おいは勇者であんたが魔王やったけんよ。今はもう魔王や無くてただん女の子なんやろ?普通に好きばってん?

今度はよくわからないことを言う勇者様。お前本当は計算してんのかと言いたくなる台詞だ。比較的魔王に好意的な言葉であったが、魔王は勇者様の言葉を聞いた途端泣き出してしまった。

魔王

そんなこと今聞きたくなかった!何で…何で今さら…!

勇者

ど、どうしたと?大丈夫?

泣きじゃくる魔王を心配する勇者様。魔王は目を赤くさせ涙を目に溜めたまま振り絞った声で勇者様に向かって叫んだ。

魔王

勇者くんが仕事が無いからって聞いてまた魔王に戻ったのに‼そんなのって…そんなのって無いよ‼

そのまま魔王は走りだし勇者様の部屋から逃げ出しました。

母ちゃん

魔王ちゃんがどれだけあんたの事思って言ったか分かってんの!

幸子

バーカバーカ!

隣の部屋の人

ハー勇者サン勇者サンコレガ修羅場デスネ!ヨカッタデスネ!

母や幸子や隣の部屋の人は、勇者様を罵倒しながら魔王を追いかけ部屋を出た。

一人部屋に残された勇者様はドアを見つめながら呟く。

勇者

え…、おいまた、戦わんばと…?めんど…い。

こうして勇者様は二年ぶりに魔王を倒す為に旅に出ることになった。

勇者様はめんどくさそうに旅に出た。

さて、魔王を倒す事は出来るのか。
魔王は恋を成就させることが出来るのか。

この先は一体どうなるかは。

勇者

めんどくせえ………。

勇者様と私作者のやる気次第である。

勇者様のお仕事

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