私は魔王である

　私が私を認識したその時から
　あ、私魔王だわこれ
　って感じだったから

　まぁ私は魔王なのだろう

　なんか普通に悪魔とか召喚できるし
　家来もいっぱいいるし
　人間滅ぼさないとなぁって思うし
　悪いことは大好きだし

　だからやはり
　私は魔王なのだ

　で
　そんな私は
　魔力的なすごいやつで作った
　ステキキャッスルでふんぞり返っている

　魔王は威張ることが仕事なのだ

　……しかし
　それ以外にすることって全然ない

　指先一つで色々できちゃうし

　魔王様！
　ふんぞり返っている場合ではありません！

　え？　なになに？
　なにか面白いことでもあった？

　側近子は
　身の回りの世話役
　元は猫だけどすごい忠実でステキ

　面白いことではございません！
　勇者がもうすぐそこまで来ているのです！

　はー？　なんだそんなことー？

　どうせ今回も
　どうしようもない残念勇者なんだろうなぁ

　つまらない奴ばかりで飽きてしまう

　これで何十人……いや、何百人目だろう

　みんな弱っちかったから
　半分くらいは殺しちゃった

　残り半分は側近子ちゃんとかが
　地下でゴニョゴニョをするために保管中

　あ
　地下といえば
　おやつのプリンを冷やしておいたんだっけ

　なにをボーっとしているのですか！

　うるさいなぁ
　私はプリン食べたいんじゃ！

　見つけたぞ魔王！

　うわ
　なんか扉を蹴破って
　ボロボロの人が出てきた

　ヒューッ
　なんか勇者っぽい！

　ボロボロなのはたぶん
　私が頑張って作った罠とかに
　引っ掛かりまくったから？

　でも
　あそこまでボロボロな奴
　初めてじゃない？

　途中で帰ればいいのに

　お前が魔王だな！

　うむ
　その通りだ
　私が魔王である

　ならばどうする？

　この台詞も何度目だろうか
　最近はこういうやり取りも
　かなりテキトーになってきた……

　付き合ってください！

　……ん？

　僕とお付き合いしてください！

　……うん
　まぁ
　なんか
　久しぶりに面白そうな奴が来たなこれ

　人間の女の子じゃあ
　もう満足できないんです！

　変態か！？

ほげぇ！

　あ、側近子に殴られてとんでった

　……思わず手を出してしまいました
　どうやら死んだみたいです

よっわ！

　勇者よ
　攻撃力の低い側近子に
　一撃で殺されてしまうとは情けない

　というかそいつ
　そんなに弱くてよくここまで来れたわね

　まったくです
　
　死体どうされます？

　んー

　…………

　なんか面白そうなやつだったから
　生き返らせてくれる？

　マジっすか？

　スヤァ

　とりあえず生き返らせた勇者を
　私のステキルームへと運んできた

　さてどうしよう

　それにしても
　私に告白するとは
　なんと愚かな勇者なのだろう

　思えば告白されるなんて初めてか
　そりゃそうだ
　私は生まれてからずっと魔王なのだから

　ん……あれ……ここは……

　お？　気づいたか？
　愚かな勇者よ

　ま、魔王……！

　貴様はなかなか面白そうだから
　しばらく私の家来にしてやろう

　本当か！？
　魔王大好き！

　うお、おい

　抱き締められてしまった……

　うひゃー
　恋人とか全然興味なかったけど
　これはなかなか楽しいかもしれんね

　あぁ……
　なんかプリンのようにとろけそう……

　油断したな魔王

　あ……れ……

　胸から赤い液体が……
　あ……これ……死ぬ……？

　魔王
　これで終わりだ

　何あの真っ赤な剣……
　あぁ
　あれで貫かれたのか……

　完全に不覚をとった
　まさか……演技だったとは……
　く、悔しい～……

　無念……

　無念といえば
　地下室のプリン

　食べておけばよかった……

　…………
　……あれ？
　生きてる……

　勇者に殺されたはずだけど……

　見たことのない部屋……
　ここは……
　どこ？

　お、目が覚めたか？
　ここは僕の家だぞ

　勇者……！

　よくも私の純情をー！
　死ねー！

　……って
　あれ？　力が入らない……

　というか
　私のステキ魔力がすっからかんになってる

　あんまり女の子が乱暴な言葉使うなよー

　魔王なめんな！
　私に何をした！

　……だまし討ちしたのは悪かったよ

　だけどお前が好きなのは嘘じゃあないぜ
　だから完全に消し去ることはしなかった

　バレたら大変だけどね

　んな……

　だから改めて言わせてくれ

　付き合ってください！

　……！

　…………

　……なるほど
　やはり
　この変態によって
　魔王としての私は殺されてしまったらしい

　だから魔力がすっからかんなのだ

　しかし魔王はステキパワーで何度でも蘇る
　時間を置けばステキ魔力も復活するだろう
　
　ならば
　しばらくこの変態を利用するのも悪くない

　……プリンを持ってこい

　へ？

　プーリーン！
　持ってきたら考えてやる

　わ、わかった

　案外従順ではないか

　ふにゃー

　あ、側近子
　ステキ魔力がなくなったから
　普通の猫になっちゃったらしい
　……というか
　勇者が連れてきてくれたのか……？

　プリン持ってきたよ！

　うむ

　ではさっそく
　ぱくり

　どう？　美味しい？

　……
　プリンは良い……
　……心がなめらかになる
　果たしてプリンは
　生まれたときからプリンなのだろうか
　………
　…………ごくん

　特製の勇者プリンだぜ！
　魔王はプリンが好きって聞いてたからな
　ちゃんと準備しておいたんだ！

　……まぁまぁだな

　しかし
　地下室プリンの方が冷えてたかなー

　ふん……まぁ
　勇者プリンも
　悪くはないだろう