マシュマロをもぐもぐと頬張りながら、窓の外でアリのように蠢く人間を見下ろすのが僕の趣味だった。

ここは地上十二階。
人がゴミのようだとはまさにこのことではないか。

人間とは……かくも小さきものか


フフフと笑う僕は、さながら城の最奥に潜む魔王。
あるいは最強の勇者。
あるいは――。

恐れながらあんたの小ささに勝る人間はそういないわ、リドル


後ろから余計な茶々が入った。
僕はチッと舌打ちして振り返りもせず答える。

そう言うお前は無駄に成長しすぎだ。
縦にも横にもにょきにょきにょきにょき鬱陶しい

横には伸びてないッ!!


空を切る音と共にティーカップが飛んできた。
とんだ乱暴女だ。
僕はきゅっと眉根を寄せながら、力を籠めて呟く。

“散れ”


その言葉と共に、空中のティーカップはこっぱみじんに砕けて床へと落ちた。

まるで物理法則を無視したその動きに驚く者はこの場にいない。
アーニャは大仰に溜息をついて、

掃除が面倒臭いのに、ムカついてついやっちゃうのよね


と、スカートを翻らせる。

ごたくはいいからさっさと掃除しろ。
お前仮にもメイドだろう

仮には余計よ


そう言ってアーニャは部屋の外に出て行った。
恐らく掃除用具を取りに行ったのだろう。

……不便だな


ーー何もかもが思い通りにならない生活というのは。

僕は椅子に腰かけたまま足を組んで、箒とちりとりを手に部屋へと戻ってくるアーニャを迎え入れる。

別にわざわざ掃除なんぞしなくても、僕に頼めば一瞬で片付けてやらんでもないのに

あんた、さっきと言ってることが真逆よ


僕の魅力的な誘いを一蹴して、アーニャは少しだけ目を細めた。

……コトラの力を無闇に使うのは感心しないわ


アーニャの声は予想外に真剣だ。
だけど僕はそのことに気付かないふりをしながら、両手を広げてふんぞりかえる。

何故だ?
この世の何もかもが僕の思い通りだっていうのに!

……あんたって本当に馬鹿ね


アーニャはそう言ったきり黙ってしまった。

彼女が悲しそうな顔をしているのに気付かないふりをして、僕は今日もこの部屋でマシュマロを貪る。

ーー十四歳の僕がここに引きこもり始めて十と四年。
生まれてから死ぬまで僕の力が外の世界に影響を及ぼすことは無い。

それは、コトラを継ぐ者が代々守り続けている掟だった。

かくも優雅な午後

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