この白い部屋はどこだろう?
千年も閉じていたような重い瞼を開いた時、最初にそう思った。
眠っていたのか、気を失っていたのか、それさえ分からない。
真っ白な壁。ひんやりとした空気。誰もいない。
この白い部屋はどこだろう?
千年も閉じていたような重い瞼を開いた時、最初にそう思った。
眠っていたのか、気を失っていたのか、それさえ分からない。
真っ白な壁。ひんやりとした空気。誰もいない。
・・・この白い部屋はどこだろう?
どうやら記憶も全く消えてしまっているようだ。一生懸命、何でも良いから考えよう。考える?。。
「考える」ということを思い出した途端、頭の中で何かずれていたピントのようなものがスッと合ったような気がして、少しずつ、溶けていたものが固まるように状況が理解できてきた。
どうやら僕は、小さなベッドに寝ているようだ。
・・・あ?
かすかに何か聞こえる。
・・・聞こえる?音?そうだ、音楽だ。
古い蓄音機でかけたレコードのようなシンフォニーが、焼きたてのマフィンの湯気のように、静かにやわからく漂ってくる。
・・・どこから流れて来るんだろう?隣の部屋?
隣に部屋があるのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、見つめていた正面の白い壁にいつの間にか、ちいさな木のドアができていた。
・・・ドア。。。
ドアがあるということは、窓?そう、窓もあるはずだと、僕は辺りを見渡すと、左の壁にやっぱりできていた。古いガラスがはまっている小さな窓だ。
・・・カーテン。。。?
そう思った途端に、シルクのように薄い、日の光が透けた白いカーテンがかかっていた。
梢の先の葉が風に揺れるように、カーテンがゆらゆら揺れている。
・・・開いてるのかな?
そう考えたら、さっきまで冷たいと思っていたこの部屋の空気が、ほのかに暖かく感じてきた。
どうもさっきから変だ。僕が何かを思ったり、
考えたりすると、それらがいつの間にか現れるのだ。
・・・どういうことかなあ。
不思議で仕方なかったが、それ以上は考えきれなかった。まず、今どうしてここにいるのか。それを思い出そうとするだけで精一杯なのだ。
音楽はずっと続いていた。どこかで聴いたことがあるような。。
ハッとして体をドアに向ける。確かに聞こえた。ノックのような音だ。僕は体をひそめて、しばらくじっとそのドアを見つめていた。
コンコン
また鳴った。確かにノックの音だ。誰かいるんだ。
一瞬迷って、でも勇気を振り絞って、僕は返事をした。
・・・はい。
・・・・・・・。
・・・はい?
・・・・・・・。
二度返事をしたが、何も聞こえない。空耳だったのか?いや、確かにノックはしたのだ。
・・・ど、どうぞ。
僕は言ってみた。すると、古いドアのちいさなノブがゆっくりと回る音がした。誰か入ってくる。。
ドアが半分ほど開いた。その先の奥の壁が見えた。シックな花柄の壁紙だった。でも、人の姿は見えない。どういうこと?透明人間?まさか幽霊じゃ。。。?
体がコチコチに固まったまま固唾を呑んでドアを見つめていると、その誰もいないドアの影から、スッと何かが出てきた。