ムカイ

今日も一緒に帰ろう!

シマダ

うん……わかった

ムカイ

それじゃアタシ、部活だから終わるまでまっててね

シマダ

うん……


部室

ムカイ

おつかれー

ミヤザキ

うん、おつかれ。合唱コンクール近いし、頑張ろう!

ムカイ

そうだね、まずはもう一度全体で合わせよっか!

教室

シマダ

ムカイさんが部活終わるまでどうしよう……

シマダ

僕は携帯電話も持ってないし

シマダ

宿題でもやろう

部室

コオリヤマ

よし、今日は終わり!

ムカイ

はあー疲れた

ミヤザキ

今日も頑張ったねー

コオリヤマ

そういえば、この間さー

ムカイ

えーマジで!? ヤバい!

ミヤザキ

もしかしてあれなんじゃない?

ワイワイ……

校門

シマダ

……

シマダ

ムカイさん遅いなあ……

シマダ

宿題終わっちゃったよ……

一時間後

ムカイ

あ! シマダくん!

シマダ

ムカイさん……終わったの?

ムカイ

あーそれでさ、今日は部活の友達とカラオケ行くことになったから

シマダ

え?

ムカイ

また明日ね、バイバイ

シマダ

うん……


翌日
帰り道

ムカイ

それでさー、ミヤザキがさー

シマダ

うんうん

ムカイ

そうだったのよ。ヤバくない!?

シマダ

うん、わかるよ

ムカイ

あはは、やっぱりシマダくんは面白いね!

シマダ

あ、ありがとう

ムカイ

じゃあまた明日、一緒に登校しよ!7時に駅で待ち合わせね

シマダ

うん……(早いなあ)


翌日

シマダ

まずい、待ち合わせに遅刻した!

ムカイ

ちょっと、シマダくん?

シマダ

はい……

ムカイ

待ち合わせに遅れるなんて、どういうつもり? アタシ10分も待ったんだけど?

シマダ

ごめん……

ムカイ

罰として、お昼奢ってね

シマダ

え!?

ムカイ

なに? そっちが悪いんでしょ?

シマダ

はい……

昼休み

ムカイ

じゃあアタシは、A定食ね

シマダ

はい……僕はうどんで……

ムカイ

あ、ミヤザキー!

ミヤザキ

あ、ムカイ? 一緒に食べない?

ムカイ

うん、わかった!

シマダ

え?

ムカイ

それじゃ、そういうことだから。食券もらうね

シマダ

あ……

ミヤザキ

それでさー

ムカイ

えー本当!?

シマダ

……


放課後

ムカイ

じゃあ今日も待っててね

シマダ

あの……

ムカイ

なに?

シマダ

今日、みたいテレビがあるんだけど……

ムカイ

は?

シマダ

……

ムカイ

なに? テレビが見たいっていう理由でアタシと帰るのを断るの?

シマダ

いや、その

ムカイ

テレビなんていつでも見られるでしょ? 録画でもすればいいし。それより、それともアタシのこと、友達と思ってないの?

シマダ

そ、そんなことないよ!

ムカイ

じゃあ、待っててくれるよね?

シマダ

はい……


土曜日

シマダ

出掛けてくるよ

あら、今日もムカイちゃんと遊ぶの?

シマダ

……うん

いいわねえ、あんな可愛い娘が遊びに誘ってくれるなんて。あんた友達いないんだから、ムカイちゃんに感謝しなきゃダメよ?

シマダ

わかった……

いってらっしゃい

シマダ

そうだ、せっかく女さんが誘ってくれるんだから、喜ばないと……


繁華街・待ち合わせ場所

シマダ

ムカイさん遅いなあ。公衆電話から電話かけよう

ムカイ

ああ、シマダくん?

シマダ

どこにいるの?

ムカイ

××服屋だよ。繁華街の外れの

シマダ

なんでそこにいるの?

ムカイ

友達と会って話してた

シマダ

そうなんだ……

ムカイ

じゃあ、こっちに来てくれる?

シマダ

え?

ムカイ

店の前で待ってるからねー

シマダ

切れちゃった……

××服屋前

シマダ

ここにいるはずなんだけどな。もう一度電話をかけよう

ムカイ

もしもし、シマダくん?

シマダ

どこにいるの?

ムカイ

買いたい本があってさ。それがすごい面白そうなの!

シマダ

うん

ムカイ

それでさ、ミヤザキとその本のことでメールしてたらいてもたってもいられなくてさ

シマダ

うん……それでどこにいるの?

ムカイ

あー、待ち合わせ場所の近くにある本屋だよ

シマダ

そうなんだ……

ムカイ

じゃあ、こっちに来てね

シマダ

え!? あ、切れちゃった……

本屋

ムカイ

シマダくん遅い!

シマダ

だ、だって大分距離あったし

ムカイ

ほら、今日は買いたいものいっぱいあるから、早く行くよ!

シマダ

うん……

アクセサリーショップ

ムカイ

うーん、このペンダントもいいし、この指輪もいいな

シマダ

そうだね

ムカイ

どっちが似合うかなあ?

シマダ

ムカイさんには、こっちじゃない?

ムカイ

アタシじゃなくて! ミヤザキにあげるの! シマダくんも真面目に考えてよ!

シマダ

ミヤザキさんにあげるって、初めて聞いたよ……

四時間後

ムカイ

今日は欲しいものいっぱい買えたね!

シマダ

僕はムカイさんに着いていっただけだったな……

ムカイ

じゃ、明日も買い物に付き合ってね

シマダ

え?

ムカイ

どうしたの?

シマダ

いや、明日はちょっと……

ムカイ

何かあるの?

シマダ

ええと……(明日はゆっくりしたいな……)

ムカイ

どうせ家でゴロゴロしてるんでしょ。だったら付き合ってよ

シマダ

あの……

ムカイ

家でゴロゴロしてるより、外に出たほうが有意義だよ?

シマダ

でも、ムカイさんに着いていっても、僕の行きたい場所には行ってくれないし……

ムカイ

はい、決まり! また明日ね

シマダ

はい……


自宅

シマダ

ただいま

お帰りなさい。楽しかったでしょ? あんな可愛い娘と遊びに行ったんだし

シマダ

えーと……

何よ、楽しく無かったって言うの!? あんたねえ、あんな娘あんたには勿体ないくらいだよ! せっかく誘ってくれるんだから、もっと喜びなさい! 失礼よ!

シマダ

はい……

月曜日

シマダ

今日もムカイさん遅いな……

タケモト

あれ、シマダじゃん

シマダ

タケモトくん、まだ残ってたの?

タケモト

ああ、委員会が長引いてな。あれ、お前帰宅部じゃなかったっけ? お前こそどうしたんだよ?

シマダ

うん、ムカイさんを待ってるんだ……

タケモト

え?

シマダ

一緒に帰ろうって言われたんだ

タケモト

あれ、ムカイって合唱部だよな?

シマダ

うん

タケモト

ということは、お前とは帰る時間違うよな?

シマダ

うん

タケモト

……お前、誰かと話していてこの時間まで残ってたのか?

シマダ

いや、ずっと一人だったよ

タケモト

一応確認するけど、お前が一緒に帰ろうって言ったの?

シマダ

いや、ムカイさんが部活終わるまで待っていてって

タケモト

……

シマダ

……どうしたの?

タケモト

……お前とムカイって付き合ってるの?

シマダ

ううん、友達だよ

タケモト

お前……何も感じないの?

シマダ

え?

タケモト

いや……ムカイは自分の都合でお前をこの時間まで残らせているんだぞ? それについて何も感じないの?

シマダ

でも、ムカイさんが一緒に帰ろうって誘ってくれたから……

タケモト

そうじゃなくてさ、お前はどうしたいの?

シマダ

え?

タケモト

だって、放課後は自由に使える時間のはずだぜ? お前だって、今までの時間で部活なりバイトなり出来たはずだ。それを自分の都合で奪ったムカイに何も感じないの?

シマダ

そ、それは……

タケモト

まあ、お前がいいんだったらそれでいいけどさ。少し考えた方がいいぜ

シマダ

……


十分後

ムカイ

シマダくーん!

シマダ

ムカイさん……

ムカイ

さて、帰ろうか

シマダ

うん……

コオリヤマ

……


帰り道

コオリヤマ

ねえ、ミヤザキ

ミヤザキ

ん、なに?

コオリヤマ

ムカイとシマダくんって付き合ってるの?

ミヤザキ

いや、友達だって言ってたよ

コオリヤマ

そうなの? なんかおかしくない?

ミヤザキ

なにが?

コオリヤマ

だってさ、シマダくんって帰宅部でしょ? 部活も無いのに、この時間まで残ってムカイを待ち構えているのって気味悪くない?

ミヤザキ

確かに……

コオリヤマ

ムカイって優しいからさ、友達にいないシマダくんにも手を差し伸べちゃったから、勘違いしてるんじゃない?

ミヤザキ

そうかも

コオリヤマ

一度、私たちでビシっと言った方がよくない?

ミヤザキ

そうだね、明日二人でシマダくんに文句言おう


翌日

教室

シマダ

今日もムカイさんは部活か……

コオリヤマ

ちょっとシマダくん

シマダ

なに?

コオリヤマ

話があるの、ちょっと来て

シマダ

う、うん


階段

シマダ

話って?

ミヤザキ

あのさ、ムカイに付きまとうの止めてよ

シマダ

は?

コオリヤマ

は? じゃないわよ。部活も無いのにあんな時間まで残って、ムカイのこと付け回してるんでしょ?

シマダ

い、いや、その……

コオリヤマ

否定しないってことは、図星なんだ

シマダ

ち、ちが……

コオリヤマ

ねえ、これ先生に言った方がよくない?

ミヤザキ

そうだね

シマダ

あ、あの、待って……

タケモト

おい、ちょっと待てよ

コオリヤマ

なにアンタ? ちょうどいいわ、このストーカーを先生に突き出すから手伝ってよ

シマダ

あ、ああ……

タケモト

待つのはお前らだよ。シマダはストーカーじゃないぜ

コオリヤマ

え?

タケモト

こいつはムカイが待つように言ったから待っていただけだ。先生がその現場を見ていたらしいから間違いない

コオリヤマ

そ、そうだったの?

タケモト

だから、このままシマダを突き出せば恥を掻くのはお前らだぜ?

ミヤザキ

あ、えーとその、ごめんねシマダくん。コオリヤマがあなたのこと疑うから……

コオリヤマ

ちょっと、何他人のせいにしてんのよ!?

タケモト

あーもういいだろ。この話は終わり!

コオリヤマ

わかったわよ! もう!

ミヤザキ

ごめんね本当に……


昇降口

シマダ

ありがとう、タケモトくん

タケモト

あんな咄嗟のウソでも信じてしまうもんだな。さて、次はお前だぜ

シマダ

え?

タケモト

さっきはお前ひとりじゃどうにもならなそうだから、手を貸した。だが、ムカイとの関係はお前ひとりで決着をつけるべきだ

シマダ

決着?

タケモト

お前はどうしたい? ムカイとどういう関係になりたい? それを考えたうえで答えを出してムカイに伝えるべきだ

シマダ

僕の、答え……

タケモト

俺はそれを応援することしか出来ない。だから、お前が答えを出せ

シマダ

……

放課後

ムカイ

なに? 話って

シマダ

……あのさ

ムカイ

うん

シマダ

……僕はもう、ムカイさんと一緒には帰らない

ムカイ

え?

シマダ

僕は早く帰って、家でゴロゴロしたい。ゲームもしたい。漫画も読みたい。だから、ムカイさんを待ってはいられない

ムカイ

ちょっと待ってよ、そんなことのために早く帰るなら、アタシのことを待っていたって……

シマダ

違う!

ムカイ

……!

シマダ

どんなに外に出て行動したとしても、それが僕のための時間でなければ何の意味もない。僕は僕のために時間を使いたい。決して僕の時間はムカイさんの物じゃない!

ムカイ

何よそれ。友達のために時間を使えないって言うの!?

シマダ

僕はそういう人間だったんだ。僕は友達のために時間を多く割きたくはなかった。もっと自分のために使いたかったんだ

ムカイ

でも、人間関係を保つためにはお互いに合わせることだって必要……

シマダ

じゃあ、ムカイさんは僕に何をしてくれたんだ!?

ムカイ

……

シマダ

ムカイさんは僕のためと言いながら、自分の時間に僕を巻き込んでいるだけじゃないか! 僕はもっと自分の時間を過ごしたい。ムカイさんのための時間は過ごしたくない!

ムカイ

……

シマダ

だから僕はもう、君と一緒には帰らない

ムカイ

……わかったわ、アンタがそんな人間だとは思わなかった

シマダ

……

ムカイ

そんな……自分の意見をはっきり言える人間だとは思わなかった

シマダ

ムカイさんが……笑った?

ムカイ

きっとアタシ、シマダくんに甘えてたんだね。誘ったら必ず来てくれるアンタに。今までごめんなさい。……さよなら

数日後

シマダ

それから、僕はムカイさんと一緒に帰ることはなくなった
ムカイさんは合唱部の練習に精を出し、僕は学校が終わったらすぐ、家でゲームをやる毎日を過ごしている
これが、有意義な時間かどうかはわからない
でも、僕は今すごく……気分がいい
そして……

ムカイ

シマダくん、合唱部の大会があるんだけどさ

シマダ

うん

ムカイ

もし良かったら、見に来てくれないかな……

シマダ

僕は合唱にはあまり興味はない

シマダ

でもムカイさんの歌声を、一回は聞いてみたいなとは思った


僕の時間と彼女の要望

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