そしてアベルくんは走りさる。
これで、一応出会いイベントは終了のようだ。
はい会話会話なんでもいいから
え……っと。この本、なんだか目について気になってたんだ
そうなんですか。残念。借りようと思ってたのに先を取られてしまいました
それなら、キミが先にしなよ。私はあとでの楽しみにするから
え、本当ですか!? ボク、魔導書科のアベルといいます!
私は茜
アカネさん! また学校で会うこともあるでしょうし、よろしくお願いします!
あ、そうだまず本を返さなきゃ……
それでは!
そしてアベルくんは走りさる。
これで、一応出会いイベントは終了のようだ。
な、これで自己紹介済んだだろ?
なんか……
え?
話すきっかけこれだけ?って感じ……
まあそこはそれで。お互いに名前を知ったら登校中でも話しかけが成功するようになるから、基本校内で居る所さがして会って会話して地道に好感度あげていくのが基本かな
なんかストーカーっぽい……
実際プレイヤーからもそう言われることも多い攻略法なんだよな……。一途プレイとかいい感じに呼ぼうとする風潮もあるし、まあ良い乙女ゲーマーはリアルと現実分けて考えられるから! 大丈夫大丈夫!
ちょいとそこのお嬢ちゃん
うわっ!
驚いて後ろを振り返ると中東風の露出度の高い服を着たお姉さんが立っていた。
なにやらお考えのようだったけど、良かったらおねえさんに相談してみないかい?
お兄! この人顔がある!
サブキャラ。初めて起こした出会いイベントの直後に出現するんだ
あたしはアースラ。占星術科の教師をしてるよ。ふらふら歩き回ってたら面白そう……いや可愛いお嬢ちゃんがいた。何かの縁だし、ひとつ占わせておくれ
こういう口上だが意訳すると『好感度教えてあげる』だから謹んでお受けしとけ
えっと……お願いしてもいいですか?
ふふふふふいい子だね
アースラさんは透き通った涙型の玉を取り出すと(どっから出てきたのか本当にわからなかった)私の目の前にそれを差し出した。するとそれはお姉さんの掌の上にぽわっと浮かび、中心に驚いた私が映った。
せっかくだし恋の行方でも占おうか。気になるひとの名を教えておくれ
まあ今んとこあのショタしかいないよな
アベル、です
涙型の水晶が霞がかったかと思うと、なんとアベルの姿が映った。何やら机に向かって何か読んでいる様子。
アベル。自らつくりし檻に閉じ込められた幼子。彼の者とお前の絆は……
そこで一旦区切る。お姉さんはふふっと笑い。
細い縁ができたばかり。まだまだこれからのようだね。
……絆を強くする方法、知りたい?
攻略ヒントってこと?
さっきのが好感度、今聞かれてるのが好感度上げる方法
知りたいです
うんうん。昼の庭園に、チャンスが落ちているようだねえ。あとサーチの魔法が使えるといいかもねえ
ふうん……?
昼の庭園で、何かイベントが発生するのだろうか。考え込んでいるとアベルの姿はゆっくりと消えていった。
今日はこれくらいかしら。そろそろお暇しますかね。また聞きたいことがあったら夕方、城下町のはずれにある酒場『パングルボーン』においで。気になるひととの絆を占ってあげる
学校内じゃだめなんですか?
あたしはひとところにいるのが苦手だからねえ、見つけるほうが難しいだろうよ。それじゃあねえ
アースラさんはひらりと衣装をひるがえすと、本棚の向こうに消えてしまった。
なんか、いきなり現れていきなり消えていったね
ああ言ってるけど意外と見つけやすいから。ありがたく占ってもらえ
つまりは攻略本いらずってこと?
現実に戻れない俺達にとっては死活問題だな……
ま、まあでも分かんなくなっても一度クリアしてるお兄ちゃんがいるから!
さあ行こう攻略への道!
じゃあ夕食スキップ
上等だー! ほいっと!
スキップしますか?
はいっ!
ぱちり。瞬きをしたかのように一瞬視界が黒くなってまた明るくなる。目の前には、ゲーム内の私の部屋。
え、スキップって夜までしか効かないの?
基本的に次の場面に飛ぶだけ
面倒くさいなー。すぐに授業直前までとばせると思ったのに
シーンスキップってすごい事なんだぞ!
既読スキップボタン長押しの時代に比べれば親指全然痛くないんだからな!
コントローラー時代の話はいいからスキップさせてよ
うぃー
スキップしますか?
はーい。はい。はいはいはい!
ぽんぽんと視界が目まぐるしく変わる。丁度、朝食の終わった後の登校時間で止まった様だ。
こっからは自由行動時間だから自分で授業受けるかサボって別の所行くか決めろー
ついでに教室から庭園までぽんってテレポートとかできないの?
できなくはない。でも魔法でできるようになるから普通科の授業受けた方がいい
あ、授業中に魔法覚えるんだ
ちなみに一部の魔法は特別な魔導書を読んで覚える
うわーあそこの教室錬金術やってるー
すごく魔法っぽいー
人の話聞こう!?
どうせお前取説読んでないんだから世界観説明聞こう!?
言っておくけどねお兄。
私はゲームを遊びにきたんじゃない。
お兄と一緒に現実に帰るために来たの。
でなきゃ私はゲームなんて……
そこで口をつぐむ。剣術科の教室についてしまったからだ。
そろそろ授業を始めますよー
AIでできたモブ教師は入口で立ち止まっていた私をいぶかしむことなく待っている。この世界はプレイヤーが中心だから様子がおかしいとも思わないのだろう。
遊んだもん勝ち楽しんだもん勝ちだとお兄ちゃんは思うんだけどなー
お兄の呟きには答えず私は教室の中へ入った。