伊藤晶(いとうあきら)

俺の名前は伊藤晶

伊藤晶(いとうあきら)

正直、挨拶してる場合ではないのだが
名前がわからないと進行が難しそうなので名乗っておく

伊藤晶(いとうあきら)

俺はいま現在、カツアゲにあっている

宇田川愛子(うだがわあいこ)

………………

瀬名知美(せなともみ)

………………

伊藤晶(いとうあきら)

クラスの女子二人に詰め寄られる…

伊藤晶(いとうあきら)

夢のようなシチュエーションなのに驚くほど心が踊らない…

瀬名知美(せなともみ)

いい加減さっさと出しなさい

宇田川愛子(うだがわあいこ)

チャイムが鳴れば解放されると思ったら
大間違いだからね

伊藤晶(いとうあきら)

さ、さっきから何度も言ってるように、
お金持ってないんですよ…

瀬名知美(せなともみ)

購買帰りのやつが何言ってんの!?

瀬名知美(せなともみ)

いいから早く出しなさい!
こっちも暇じゃないのよ!

瀬名が睨みながら詰め寄ってくる。

正直なところすごく怖い

伊藤晶(いとうあきら)

いや、さっき使い切っちゃったというか…
なんというか…

宇田川愛子(うだがわあいこ)

言いたいことがあるなら
はっきり言いなさい!

伊藤晶(いとうあきら)

はい!今すぐに渡します!

宇田川に怒鳴られた途端、
反射的に返事をしてしまった。

人間の防衛本能とクラスの女子二人に敵わなかった俺は、おとなしく財布を取り出した。

瀬名知美(せなともみ)

やっぱり愛子にかかれば
こんなやつちょろいものね

宇田川愛子(うだがわあいこ)

あら、知美だって
なかなかいい感じだったわよ

二人はまるで世間話をしてるかのように笑いあっていた。

その時、遠くから足音が近づいてきた。

宇田川愛子(うだがわあいこ)

やばっ、先生かも

瀬名知美(せなともみ)

えぇ~、もうちょっとだったのに…

宇田川愛子(うだがわあいこ)

仕方ないわ
ここは逃げましょ

宇田川は足音の方向とは逆方向に小走りに駆けていく。

瀬名知美(せなともみ)

あんた私たちがやってたこと
チクるんじゃないわよ

瀬名もそう言うとそちらのほうに駆けだそうとした時

高橋巧(たかはしたくみ)

知美!

一人の男子生徒が現れた。

瀬名知美(せなともみ)

巧!?

瀬名は足を止めて男子生徒のほうに向き直った。

高橋巧(たかはしたくみ)

知美…お前こんなとこでなにやってんだ

瀬名知美(せなともみ)

そ、それは…

瀬名が言いよどむ。

おそらく二人は恋仲なのだろう。

そして、男子生徒のほうは彼女のこの行動を知らなかったようだ。

伊藤晶(いとうあきら)

このまま二人が喧嘩を始めれば、
逃げるチャンスができるかもしれない。

オレは気をうかがうことにした。

高橋巧(たかはしたくみ)

なんだよはっきり言ってくれないと
わからないよ

瀬名知美(せなともみ)

……………

瀬名はうつむいて黙ってしまう。

高橋巧(たかはしたくみ)

やっぱり、そうなんだな…

瀬名知美(せなともみ)

えっ?

高橋巧(たかはしたくみ)

知美、こいつと浮気してたんだな

男子生徒が驚愕の発言をする。

瀬名知美(せなともみ)

………………あ

一瞬呆けた表情をした瀬名だったが、
次の瞬間はじけたように怒鳴った。

瀬名知美(せなともみ)

そ、そんなわけないじゃない!

瀬名知美(せなともみ)

なんで私がこんなゴミみたいなやつと
浮気しなきゃなんないの!

高橋巧(たかはしたくみ)

じゃあ、なんで男とこんなところに
二人でいるんだよ!

瀬名知美(せなともみ)

そ、それは…

カツアゲしていたとは言えないのだろう。

見たところ男子生徒は真面目そうな生徒に見える。
そんな彼に隠れてこんなことをしていたのだろう。

伊藤晶(いとうあきら)

しかし、ゴミみたいって…
俺はそこまでひどいのか

高橋巧(たかはしたくみ)

他に好きな奴ができたなら、
正直に言ってほしかった…

高橋巧(たかはしたくみ)

こんな裏切るようなことしてほしくなかった

瀬名知美(せなともみ)

違う、違うのよ!

高橋巧(たかはしたくみ)

言い訳なんて聞きたくない。

高橋巧(たかはしたくみ)

じゃあな、知美

男子生徒が瀬名に背を向けて歩き出す。

瀬名知美(せなともみ)

待って!

瀬名が男子生徒の手をつかむ。

瀬名知美(せなともみ)

ちゃんと話す、
ちゃんと正直に話すから

瀬名知美(せなともみ)

そんなこと言わないで…

高橋巧(たかはしたくみ)

知美…

瀬名は宇田川とカツアゲをしてたこと、
そして俺が今回の標的だったことを話した。

伊藤晶(いとうあきら)

正直、俺はもういらないんじゃ

高橋巧(たかはしたくみ)

カツアゲ、か…

瀬名知美(せなともみ)

ごめんなさい、巧を裏切るようなことをして

高橋巧(たかはしたくみ)

本音を言うとショックだよ。
知美は真面目な子だと思ってたから。

高橋巧(たかはしたくみ)

でも、正直に話してくれたのはうれしかった

瀬名知美(せなともみ)

巧…

高橋巧(たかはしたくみ)

でも、そんなことをしちゃだめだ!
今後は絶対に!

高橋巧(たかはしたくみ)

これまでのことは一緒に、
みんなに謝りに行こう?

瀬名知美(せなともみ)

うん、うん
ごめんね、ごめんね

高橋巧(たかはしたくみ)

まずは彼に謝るんだ。

二人ともこちらを向き頭を下げた。

高橋巧(たかはしたくみ)

俺の彼女がこんなことをして本当にごめん!

瀬名知美(せなともみ)

ごめんなさい!

伊藤晶(いとうあきら)

い、いや、まあ、いいです、はい

二人は顔を上げると笑いあった。

高橋巧(たかはしたくみ)

な!
こうやって謝れば許してくれるんだよ

高橋巧(たかはしたくみ)

さ、行こうか

瀬名知美(せなともみ)

うん!

瀬名と男子生徒は手をつなぎながら歩いて行った。

伊藤晶(いとうあきら)

…………

伊藤晶(いとうあきら)

教室帰るか

俺は教室へと歩き出した。

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