マーラが大気圏外から叩き落されたのは、ちょうどニューデリー、ビルラー邸庭園の真ん中だった。

ガンジー襲撃の騒ぎに集まった人々が、そして彼の死を悲しみ膝を折って祈る人々が、突然天から降って来たイギリス人の姿に、揃って目を丸くしている。

＂お徳ポイント＂のカウントも忘れ、事の成り行きを見守っていた釈迦。

だが、あまりに圧倒的なガンジーの許しの勢いに、そして一方的に叩き許されたマーラの落ちこみきった表情に、釈迦はとうとう詫びの言葉をこぼしてしまった。

すたり、と地に降りたガンジー。

死の報せの直後に見る、まさに死んだ筈の者の姿。だが、うろたえ慌てふためく者はごくわずかしかおらず、人々の歓声はビルラー邸を中心に、まさにニューデリーじゅうに広がる波紋のように、響き渡った。

言われるまま、マーラは自分の手に、身体に、足先までに目を走らせる。

痛みも怪我も無かった。あれだけの圧倒的な許しをその身に受け、大気圏から地上へ真っ逆さまに落ちてきたのに、だ。

気が付けばマーラの身体は、ガンジーがまとっていたあの黄金の光に薄く包まれていた。

ただただ微笑み許すガンジーに、マーラは言葉を失った。

言葉に代わるように、ただひと筋の涙が、瞳からあふれ、その頬に流れた。

つい先刻まで、命を奪い叩き潰さんとしていた相手を、何故こうもためらい無く許す事ができるのか。

かくもこの偉大なる魂は、何ゆえにこうまで慈悲深いのか。

釈迦は気付いた。

ガンジーを包んでいた黄金の光が、もうほとんど彼の身に残っていない事に。

ガンジー自らも悟っていた。

この光の尽きる時が、自分の再びの最期の時だと。

人の身である自分が、まるで生き長らえてえてはいけない。

なればこそ、ガンジーはマーラに光を託し、彼自身にその行く道を問うことを選んだのだ。

人の邪心そのものの顕現であるマーラに、許しの道を託したのだ。

釈迦とマーラが、そしてインドの民が見守る中、ガンジーは菩提樹の根元に、よっこらしょと腰を下ろす。

闘いに疲れた肉体をほぐすように、細い肩をぐりぐりと回し、枯れ枝の様な腕をぐいと伸ばす。

人生最後の、それも予想外の延長戦にしては、少々難儀なひと仕事だった。

だが、完遂できて本当に良かった。

ガンジーはひとり、満足げにうんうんとうなずき、目を閉じた。

おお、マハトマ、マハトマ。

偉大なる魂の再びの昇天に、民は祈る。

悼み。

哀しみ。

そして自らの魂を賭して、”許す心”を教えてくれた、感謝の心。

真破闘魔ガンジーの闘いの終わりを、すべての想いを秘めた祈りがねぎらい、インダスの彼岸へと運ぶ。

かに見えた、その時だった！

祈りが再び”お徳ポイント”となってガンジーの魂に注がれ、彼を甦らせたのだ！

ビルラー邸を、

否、ニューデリーが、

否々、インドの民のすべてが、偉大なる魂の三度の帰還に、喜び打ち震えた。

場を取り繕うように早口でまくしたてる釈迦に、ガンジーはふふと笑う。

再びまとった黄金の光を翼に変えて、ガンジーは蒼天へ飛ぶ！

かくして、民の祈りが一定量貯まる度、”お徳ポイント”で甦るヒーローとなった真破闘魔ガンジー。

20世紀の歴史の陰で、人の邪心を片っ端から許しまくった彼の闘いの物語。

悲しみと憎しみの増え続けるこの世界で、それでも負けず慈悲と優しさを絶やさぬ人々の為に。

今尚それは、世界のどこかで続いているのかもしれない。

純然たる非暴力（アヒンサー）の拳とともに！

がんばれ、真破闘魔ガンジー！

まけるな、真破闘魔ガンジー！

ガンジーさんホントすみませんでした！
許してください！

おわり